moon ride
「大地、こっちこっち」

 真夜中。

 ラビに起こされて連れて来られたのは、ここラビルーナのとある場所にある、もう使われていないであろう建物だった。

 ドアや窓はかろうじてそれだったろうと思わせる枠だけ、壁と天井はボロボロと崩れて穴だらけだ。

 『廃墟』と言ってもいいぐらい辺りには人気がなく、薄暗い。正直オレは怖かった。

 でもラビはそんなことお構いなしで、ズンズン奥へと進んでいく。



「…なんだよー…人がいい気分で寝てたのに…」

 ブツブツと文句を言いながら後に続いてるオレだけど、ラビがここで何をしようとしてるのか、なんとなく予想がついてんだ。



 絶対ヘンなこと、するつもりだ。



 ラビが気まぐれにオレを呼び出す時はいつもそう。

 呼び出して、抱きしめて、それで…って、もぅ、思い出すのも恥ずかしい!



 そんなことされるの分かってて、ついていくオレもどうかしてるな…と思っていると、ある部屋でラビの歩みが止まった。

 そして壁際の段差に腰掛けて、ヒザの辺りをポンポンと叩いて笑いかけてくる。



「ほら大地、ここ来いよ」

 そら来た。ラビはそうやっていつもオレを後ろから抱きしめてきて…エ、エッチなことしてくるんだ…!

 なんだか今日は、ラビの言うとおりにするのがしゃくに障って、それに抗った。



「いやだ。ラビ絶対ヘンなことするつもりだろ?」

 するとラビは、大げさにため息をついて意外そうな顔をした。

「おいおい、違うって。せっかくお前にいいモン見せてやろうと思ったのに」

「…いいモンって、何だよ」

 こんな真夜中に何を見せるつもりなのか、とまだ警戒するオレに、ラビは親指を上に向けて答えた。

「ここ、地球が良く見えるんだ」

「地球…?」



 オレはその場を動かずに上を仰いだ。

 建物の天井が邪魔して良く見えないけど、崩れたその隙間から確かに地球光が差し込んでいた。



「昼間一人でうろついてたらここ見つけてよ。夜の方が暗闇に映えて良く見えるだろ?お前に絶対見せたくってさ」

 ラビは照れくさそうに、でも誇らしげな笑顔を見せる。



 オレは少し位置を変えて光の元を見ようとしたら、ラビに手を取られひっぱられた。

「あっ…」

「ここ、ここがベストなんだって」

 そう言われて、オレはいとも簡単にラビの腕の中に納まってしまった。

「ほら…綺麗だろ?お前が生まれた場所なんだな」

 背中越しに、うっとりとしたラビの声が聞こえてくる。

 その言葉どおり、青い地球が美しい光を放ち、夜空に浮かんでいた。



 それを見ながらオレは不思議な気持ちでいっぱいだった。

 少し前まで自分はあそこにいて、家族のみんなや友達と普通に暮らしてたんだ。

 福引で当たった旅行で月に来て、ラビと出逢って…。

 今まで何度も月から地球を見たけれど、こんなにあったかくてくすぐったい想いに包まれたことはなかったんだ。



 そう思っていると。

 …ごそ、ごそ…。

 ん!?

 ボーっと地球に気を取られてるオレが妙な感触にハッとなった時にはすでに、ラビの手がオレのズボンのジッパーを下げて、中に滑り込んでいた。



「大地って、太陽の匂いがする…」

 オレの首筋に顔を埋めて、ラビが囁く。吐息は熱いのに、その感触にゾワゾワと鳥肌が立ってしまう。

「らっ…ラビッ!お前最初っからっ…!!」

 してやられたと思い、悔しくて振り向いたオレに、ラビはベッと舌を出した。

「最初っからヘンなことされるの分かっててついてきたのはお前じゃねーの?」

「違っ…!」

 違わない。ラビの言うとおりだ。

 違わないのに、図星を指されて思わずオレは身体を逃そうと抵抗した。

 それでもラビは、タンクトップの中に入れた片方の手に力を込めて、オレの動きを封じ込める。



「お前の抱き心地があんまりにもいいから、発情しちまった」

「やめっ…」

 ラビの手は明確な意図を持って、オレの身体を這い回る。

「やめろってっ…!」

「知ってる?ウサギって一度発情すると、死ぬまでそれが続くんだって」

「知らないよっ!都合のいい時だけ自分のことウサギって言うなっ」

 オレの反応に悪びれずニヤニヤ笑うラビを見て、腹立ちまぎれに口を尖らせた。

 その瞬間、ラビがオレに口づける。

「大地、責任取れ」

「そんな勝手な…っっ!」

 ラビは身体の位置を変えて、オレに覆いかぶさってきた。

 くそっ、調子に乗りやがって、ラビのヤツ!



 結局、こうなっちゃうんだ。

 いつもオレはラビの思い通り、アイツのわがままに振り回される。

 でもそれは、実はオレが望んでることでもあって…って、あれ?

 あぁもう、何も考えられなくなってきた。



 ラビの熱い吐息に全身を包まれて、オレは少し息苦しくなってそっと瞳を開けた。

 ほんのり色づいた、ラビの長いウサギ耳越しに地球が見える。

 なんだか見られてるようで、恥ずかしい。

 オレはあわてて瞳を閉じた。



−END−



後書きという名の言い訳

   この作品は、とある方がもんのすっごく素晴らしい画力でもってして、もんのすっごく素敵なラビ×大地イラストをワタクシメにプレゼントしてくれまして、

 それを見てムクムクと湧いてきたエロ妄想から生まれたシロモノです。

   そしてこちらからこの作品をお返しさせていただいたのですね。あぁ素晴らしきラビ大相乗効果!!

   慣れない大地一人称です。ラビなら、大地ラブvvな自分と重ね合わせて動かしやすいのですが、大地サイドで話を考えるとなると、

 何を思ってラビの行為を受け入れているか、ということに向き合わなければならないのでやっぱり難しかったです。

   でも、お互いがお互いに振り回されてると思いながらも、それを心地よく思い、いつしかその存在がかけがえのないものになればいい!!

   これ以上萌えることがあろうか。いや、ない。(断言)

   …久しぶりに読み返すと、私にしてはえらくエロが大人しい感じですね。こういうのも、たまには良いかもしれまシェン。