ラビvs大橋 10
 朝になり、大地はくすぐったさを感じて目を覚ますと、ラビの耳が自分の頬を撫でているのに気づいた。

「…?」

すぐ隣でラビがスースーと寝息をたてている。

(あれ?)

 起きたばかりでまだ事態を飲み込めない大地はくるっと頭を反対側へ向ける。

 そこには大橋がすぐ後ろで幸せそうな顔で眠っていた。

(…オレ、昨日あのまま寝ちゃったのか…)

 ラビと大橋、3人で過ごせる貴重な最後の夜をあっさり終わらせてしまった自分を少々恨みながら、2人の寝顔をじっくり見て大地は思った。

(ケンカばかりしてたとは思えないな…)

 大地はクスリ、と小さく笑う。

 するとラビが「んーー…」と小さく言いながら手を伸ばし、大地を抱きしめてきた。

「ゎっ…」

 それに驚いた大地が声を上げると、ラビは薄目を開けて呟いた。

「大地…」

「え…」

 ラビはきっと夢うつつの状態でまだ目覚めきっていないのだろう。

 でもその表情がすごく優しくて、大地はドキドキしてしまった。

 ラビはまた静かに目を閉じる。

(ラビ…寝ぼけてんのかな…でもなんだか心地いい…)

 大地がそのままラビに抱きしめられていると、後ろから大橋が寝ぼけまなこで大地の腰に手を回してきた。

(っ…!!)

 大地は2人にはさまれて、動けなくなってしまった。

(わわわっ!なんだかあったかくて気持ちいいけど、どうしよう…)

 1人困っている大地の目の前で、ラビが再度ゆっくり目を開けた。

「大地…おはよ」

「お…おはよ」

 大地が真っ赤になって答えていると、その声で大橋も目が覚めたようで上体を起こしながら2人を見た。

「おっ…お前ら何をっっ…!!」

 ラビはそれを聞いて自分が大地を抱きしめていたことに今さら気づき、赤い顔で言った。

「べっ…別に何もしてねぇよ。お前だってその手は何だっ」

 大橋は大地の腰に手を回していた自分の手を慌てて離した。

「これはっ…なんとなくっっ」

「なんとなくぅ?なんとなくでヤラシイことすんなよ」

「ヤラ…!ラビこそいつまでも大地にくっついてんじゃねぇ!」

「やーだねーっ!だってオレ今日月に帰るんだもん。いいじゃねーかちょっとくらいー」

「ダメだっ!!」

 妙な言い争いになってきて、間に挟まれた大地はたまらず口を挟んだ。

「ちょっとっ!ヘンなケンカしないでよ。せっかく仲良くなったのに…。それにオレ、こうやってるのイヤじゃなかったよ。2人にはさまれてるとあったかくて、何だか気持ちよかった♪」

 無邪気にニパッと笑う大地に、2人は驚いた。

(だっ…大地!)

(気持ちいいって…)

 その時下の階から美恵の声が響いた。

「大地ーーっ。ゴハンできたわよーーっ。ラビくんと大橋くん起こして下りてきなさーい」

「あっ、ハーイ!ラビ、大橋、朝ごはん食べに行こっ」

「「あ…ああ」」

 大地は自分の発言がラビと大橋の思考をストップさせているのことに全く気づいていない。

(大地…イヤじゃなかったって…ちくしょー、月に帰りたくねぇ!)

(オレ無意識に大地の腰に手ぇ回してた…それを大地はいやがらなかったってことは、望みありか!?)

 階段を下りる大地に続きながら、2人はそれぞれの思いを巡らせていた。



 その日は公園でジェットボードで遊んだり、大地の学校近くの駄菓子屋に行ったりして過ごした。

 日も暮れて、大橋が家に帰らなければならない時間になった。

「ラビ、見送れねぇけど月まで気をつけて帰れよ」

「ああ。お前もな」

 2人は微笑みながら肩を叩き合った。

 大橋はラビの耳元で小さく囁く。

「ぬけがけすんなよ」

「さぁ、どーだか」

 ラビはニタリと笑いながら答えた。

 それを見て、大橋は照れ臭そうに言った。

「オレもいつか月に行ってみたくなったよ」

「…そうか。しゃーねーなー、そん時は付き合ってやるよ」

 ラビの口の悪さも、大橋は今では気にならなくなっている。

「オレ、お前と逢えて良かったよ。楽しかった」

「ああ、オレも」

 そして2人は硬い握手を交わす。

 そんなラビと大橋を見て、大地も優しく微笑んだ。

「大地、色々世話になったな。ありがとう。おばさんやおじさんによろしく言っといてくれな。また冬休み中に遊ぼうぜ」

「うん」

 大橋は大地にそう言って、ラビに別れを告げ夕暮れの町に去っていった。

 大橋の後ろ姿が見えなくなってから、ラビは静かに言う。

「オレもそろそろ帰るわ」

「…うん」

 大地はなかなか会えないラビのことを思い、少し悲しそうな声で答えた。

 それを見て、ラビが明るく言った。

「オレ…また近いうちに地球に来るよ」

「ホント!?」

大地の顔に喜びが広がる。

「ああ。大橋とも友達になったし、またこうやってお前と遊びたい。来年の夏までに必ず来るよ」

「うん、楽しみに待ってる!」

 大地はそう言いながら、ラビが自分に向かって何かを言おうとしていたことを思い出した。

「ラビ、言いかけて途中になってたこと、何だったの?」

 ラビはその質問にドギマギしながら答えた。

「あー…あれはまた今度な」

「えー、気になるじゃん」

「ワリィけど、次の時までとっといてくれよ」

「…分かった」

 ラビは慈しむような視線を大地に送りながら、優しく微笑んだ。

「じゃあな、大地。サンキューな」

 大地もラビを見つめ返し、笑って言った。

「うん。ラビ、元気でね」

 辺りに人気のないことを確かめてから、ラビは月に帰るため呪文を唱える。

 ラビの姿は不思議な光をまとって消えてしまった。

「行っちゃった…」

 寂しそうに呟いた大地は、夕闇に浮かぶ月を見上げた。

「またね、ラビ…」

 そうして、大地とラビと大橋の騒がしい3日間は終わりを告げた。



−END−



後書きという名の言い訳

   ダラダラと長い話の割にはオチがなくてすみません。(ホンマにな)

   ラビと大橋くんはあの性格上、すぐには仲良くなれないだろうと思われ。

   そこに2人にとって大地という特別な存在が入ると、余計反目しあうだろうな〜と思い書きました。

   でもやっぱりそこはラビも大橋くんもいいヤツなので、結局仲良くさせたかった…。

   この時点では、大地は2人が自分のことを、特別に『好き』と言う感情を持って見ていることなど全く気づいてないですね。

   ラビはおませ(笑)だし、大橋くんもそのあたりは早熟そうだけど、大地は恋愛についてちょっと疎そう。

   ゆえに罪作りな行動に出てしまってます。

   大橋くんて、男っぽくて割りに単純というか、周りから見て何を考えてるかすぐに分かっちゃうようなタイプだと思います。

   反対にラビは、物腰はスマートなんだけど、自分の感情を素直に表現できないタイプ。

   この違いが、書いててすごく楽しかったですv

   またこの3人を絡ませてお話を考えたいと目論んでおります♪