ラビvs大橋 2
 大地達はとりあえず、3人でスケート場に行くことにした。

 目の前に広がるスケートリンクを見て、ラビはウキウキと楽しそうだ。

「おお?なんか第2エリアを思い出すなー」

「うん、そうだね」

 クスクス笑う大地に、大橋が不思議そうな顔をする。

「第2エリアって?」

「こっちの話ーーっっ!!」

 意地悪く笑って、ラビはスイスイと滑って行った。

「……!」

 ムカッときている大橋に、大地が答えた。

「月に、こんな氷ばっかりのところがあるんだ」

「…ふーん…おわっっ!!」

 つまらなさそうな顔をしていた大橋は氷に足を取られて転びそうになったが、なんとか手すりをつかんで持ちこたえた。

「大丈夫?」

「くそ…俺は球技は得意だけどスケートは苦手だ…」

「今日は練習するって言ってたもんな。大橋は運動神経いいからすぐ覚えられるよ」

 ニッコリ笑って大橋の手をとる大地。

「ほら、体の重心を前の方に移してゆっくりこっち来て」

「サンキュー、大地…」

 優しく気を遣ってくれる大地に、大橋はポーッとなってしまった。

(やっぱ大地っていい奴だな…ちょっと得した気分だぜ)

「あんまり後ろに重心移すと転んじゃうから気をつけて」

「ああ…」

 自分の足元を注意深く見ながら、ゆ〜っくりゆ〜っくり誘導してくれる大地の顔を間近で見て、ますます大橋はドキドキしてしまう。

 そんな2人をラビは遠くから見つめていた。

(くそっ、大橋め…いい思いしやがって)

 そんな時、ヨロヨロと進む大橋に、誰かが軽くぶつかってきた。

「うわっ!…わわわっ」

 その拍子に大地もバランスを崩して足元が不安定になる。

「あっ…!」

「危ねぇっ!」

 2人してドテンっ!とリンクにすっ転んでしまった。

 転ぶ瞬間、大地が頭を打ちそうになったところをすかさず大橋が受け止め、大地に覆いかぶさる形になる。

「アイテテテ…」

 背中を強かに打ちつけて顔をしかめる大地に、大橋は慌てて声をかけた。

「すまん、大地。ケガはないか?」

「うん、大丈夫…大橋は?」

 大地が目を開けると、大橋の顔が目の前にあった。

 大橋は少し顔を赤らめているが、真剣な表情をしている。

「…大橋?」

「大地…」

 そうしていると、誰かがシャーーッとすごい勢いで滑ってきて、両手を差し伸べながら言った。

「いつまでそうやってんだ?」

「ラビ…」

 大地はラビの手を取り、立ち上がった。

「サンキュー」

「ほら、大橋も」

 ラビは仏頂面で再度大橋に手を突き出す。大地との空間を壊されたことに少々ふくれながらも、大橋はラビの手を取りなんとか立ち上がった。

「あ…サンキュー…」

 その様子を見ていた周りの女の子たちが、ラビを見て黄色い声を上げた。

「キャー、あの人素敵ー!」

「うん、さっきもスイスイ滑ってたし、カッコいいよねー!!」

 それに気づいたラビは、その子達にウインクして見せた。

 キャーっ!と嬌声を上げて喜ぶ女の子たち。

 相変わらずなラビに、大地はあきれつつも笑った。

「お前もスケートくらいできるようにならないと、女の子にモテねぇぞー?」

 得意そうに大橋にそう告げて、ラビはまた優雅に去っていった。

「チキショー、あのナンパヤロー」

「ラビはああやって口は悪いけど優しいトコあるから…さっき大橋も助けてもらったじゃん」

「そうだけどー…」

 ラビのフォローをする大地に複雑な思いを抱きながら、大橋はゆっくりと滑ろうと試みる。

「そうそう、その調子!」

 大地の声援を受けて、大橋は最初よりましにスケートが滑れるようになった。

 だが、やっぱりバランスを崩して何度もコケてしまう。

 するとそこにラビが近づいてきて笑った。

「おいおい、そんなに何回もコケてちゃ第2エリアじゃあっとゆー間に爺さんになっちまうぜ?」

「なんだよ、また第2エリアかよ!訳分んねぇこといいやがってっ」

「ヘッヘーン!くやしかったらここまで来てみろよっ」

「言ったな〜〜!待てーーーーっっ!!」

 ラビ目指してがむしゃらに滑っているうちに、大橋のスケートの腕はみるみる上達していった。

(なんだかんだ言って、仲良くしてるよなアイツら)

大地は少し気が楽になった。