クロマサに今日初めて相対した時からずっと感じていた恐怖心が最高潮に達した瞬間、大地は別の誰かに腕を取られて引っ張られた。
「!?」
ハッとしてそちらを向くとシャマンが厳しい顔で立っている。
「…シャマ…」
涙目で呆然と見上げる大地と目が合ったシャマンは、何も言わずそのままの表情でクロマサに視線を移した。
大地の素股でイイ感じに昂っていたクロマサは、中断したシャマンに食ってかかった。
「何すんだ、大地は今オレが担当してんだろうが!!」
「…もう三時を過ぎている。ここからはオレの担当だ」
背後にある壁掛け時計を軽くあごで示したシャマンは、決してクロマサから視線を外さなかった。
尺八と挿入の練習がある見習いの場合、午後三時を境に最初の二時間とあとの二時間とで練習内容により時間を区切っていた。
それは中村が決めたことで、ここではすべて時間厳守の下みんなが動いていた。
確かにシャマンの言う通り、夢中になっていて気がつかなかったが時間がオーバーしている。
このまま大地の尻の谷間で絶頂を迎えようと思っていたクロマサは、いったん火のついた性衝動に水を差されて不満が募った。
しかし気がつくと周りの見習いや教育係らがじっと自分たちの様子を窺っていて、ここでシャマンと揉めるのは得策ではないと判断した。
「ちっ!」
悔しげに舌打ちしてシャマンを睨む。
一触即発の空気に大地は気が気ではなかったが、シャマンはどんなにクロマサが挑発しようと相手にせず、冷えた表情のままだ。
それがまたクロマサを刺激する。とにかくシャマンが忌々しくて仕方なかった。
「おいい、次のオレの相手は誰だァ!!!」
「オ…オレです…」
大地の後にクロマサが挿入練習をする見習いがおそるおそる名乗り出る。
するとクロマサは彼の手を引っ張ってどすどすと歩き始めた。
「シャワールーム行くぞ!」
「ひっ…」
見習いに八つ当たりしながらその場を去るクロマサを、みんなは呆れた顔をしながら黙って見つめていた。
彼らが実技研修室を出ていったのを見届けたシャマンは、大地を促した。
「…うがいと顔を洗いに行って来い。その後はいつもの場所へ行って、ふんどしをはずして寝転べ」
シャマンはもうクロマサのことを忘れたかのように、何ごともなく振る舞っている。
脱がされてはいないが、裾をまくり上げられていたことによって乱れている自身の着物に思わず足を取られそうになりつつ、大地は黙って従った。
クロマサから受けた恥辱を洗面台で洗い落として、窓際に向かう。
大きな窓からは午後のあたたかな陽射しが降りる庭が見える。
大地はもう三度目になる挿入練習の身支度を整えて、畳に寝転んだ。
(シャマンさんが来てくれて助かった…でも…)
実技研修室の天井を見ながら、大地はぼんやりと考えた。
(時間がオーバーしてなかったら、もしかしてまたクロマサにレイプされてたかも)
一瞬よぎったその考えが、大地の心を恐怖で満たした。
そこにシャマンがやってきた。
そしていつもと同じ段階を踏んで、大地の脚の間に手を差し込んだ。
「っっ」
ビクリ、と大地の身が強張る。
シャマンは静かに、菊門の状態を調べるためそこに触れた。
「ぁ、」
目をぎゅっと閉じて、シャマンの指の感触に耐える。
「…身体が硬くなり過ぎてるぞ。もっと力を抜け」
大好きなシャマンがやっと自分の練習相手になってくれているのに。
本当は嬉しいはずなのに。
今はそれよりも、先ほどの怖ろしさに大地は支配されている。
まだ菊門の入り口をやんわりと撫でられているだけなのに、先ほどのクロマサを思い出して大地は身を強張らせたままだった。
「…大丈夫か」
「ッ。うん…」
シャマンは大地の恐怖心を敏感に察知して声を掛けた。
大地は気丈に返事をしたが、シャマンはじっと大地を見つめて口を開いた。
「無理をするな。今日はも…」
「…!ダメだよ!」
大地は『もうやめよう』と言いかけるシャマンの言葉を遮って身を起こした。
「オレ、デビューしなきゃいけないんだ。絶対に…だから、ちゃんと挿入練習する」
「……」
シャマンは少し驚いて、大地の目を見つめた。
大地はいまだ緊張しているものの最初の頃の弱々しさが消えて、そのかわり陰間になる覚悟をしっかりと芽生えさせた顔つきになっていた。
レイプされかけて、その心の傷が癒えぬ間に男の性的欲求に日々対さなければならないという、子どもにとってあまりにも辛い現状。
シャマンはそれがどれほど酷なことか痛いほど知っている。
「シャマンさん、オレ…まだ正直クロマサやアカベコが怖い。遠慮なく触れてくる男の人が怖い。でも、やるしかないんだ」
「大地…」
三日前とは大地の面構えが変わっていた。
大地の気持ちを量るようにじっと見つめるシャマンの瞳を、大地はちゃんと見据えて言った。
「どんなに辛くても耐える。シャマンさんが優しいからっていつもいつも甘えちゃうと先へ進めない。だから、がんばる」
しっかりと宣言した大地を見て、シャマンはフッ…と笑った。
(わ…わー!シャマンさんの笑顔…!!)
大地は思いがけないシャマンの優しい笑顔に触れて、顔が真っ赤になった。
シャマンは大地の言葉を聞いて、首を傾げて少しからかうように言う。
「じゃあ泣き言はもちろん言わないし、痛くても泣かないな?」
「当たり前だ!」
「よし、良く言った。さァ時間がなくなる、寝ろ」
「うん!」
…とそこまでは良かったのだが。
指の馴らしを終えてシャマンの魔羅が入ったとたん、大地はふぇぇん、と顔を歪めて泣き出した。
「ひっ…くん、ん…うぅ…痛ァいぃ…」
やっぱり痛い。とにかく痛い。
ぽろぽろとこぼれる涙を手で拭っても、次から次へ溢れてくるので追いつかなかった。
シャマンは呆れた口調で言った。
「おい、大地…まだ頭がほんの少し入っただけだぞ。おとといは半分まで入ったじゃないか」
「ぅぅ、ん…うくっ、ひんッ」
余裕がなく泣くだけの大地に、シャマンははぁ…と深いため息をついた。
「さっきは威勢良く泣かないと答えてくれたような気がするんだが」
シャマンに愛想をつかされることが何より怖い大地は、ショックを受けながら詫びた。
「ごめ、なさい…で、でも痛いんだもんん…ぅっく、ん…」
確かにおとといも思ったが、大地は菊門の入り口が特に狭い。
だから今日も細心の注意を払い、なるべく泣かないようにしているのにこうすぐに泣きべそをかかれるとは…とシャマンは頭を抱えた。
そうしていると、シャマンの耳に他の教育係の声が聞こえてきた。
「おい、見ろよ。ぐっとクるね〜…」
「そうそう、大地はあれがイイんだよな」
この大地の様子は男どもの嗜虐心を存分に刺激するようだ。
だからこそ泣くのをやめさせたい。
シャマンは大地に強く言った。
「泣くな!」
「ひっぐぅ、だって…」
「こないだも言っただろう、泣くと陰間の中でもお前が損な役回りをする羽目になるんだ。とにかく泣くな!!」
「…うぅー…」
そんなこと言ったって、と大地はなおさらべそをかく。
「わかったな?泣かないこと、お前の課題はとにかくそれだ」
「ひっん、痛いッ」
注意しているそばから悲鳴を上げる大地に、シャマンは強く言い聞かせた。
「だからそういう泣き声を上げるな!」
「やぁ、シャマンさんがしゃべると響いて痛いんだよォ!」
「……」
シャマンは忠告をいまいち理解していないからこそできる大地の抗議に、少し疲れて軽いめまいがした。
いつもクールなシャマンが感情を出していろんな表情をしている。
大地はそれが妙に可笑しくて、痛くてたまらないのに思わず噴き出してしまった。
「…ぷっ」
「?」
(やばっ)
シャマンに気づかれて、大地は自分の口を慌ててふさいだ。
そのままシャマンから視線を外して誤魔化すように別の方を見ている大地に、シャマンが尋ねた。
「…なんだ大地、お前今笑っただろう?」
「わ、笑ってません…よ?」
「おい、こっちを見ろ。絶対笑った。何が可笑しい」
勘のいいシャマンを騙せるはずもないのに、大地は必死に否定した。
「笑ってないってばっ…アイタァ!!」
大きな声を出した拍子に菊門にあるシャマンの魔羅のせいで鋭い痛みが走って、悲鳴を上げてしまった。
「…クッ…」
今度はシャマンが笑った。
(う、シャマンさんも笑ってる。最初の練習の時みたいになんか馬鹿にされたような気がする…オレ、笑っちゃったの悪いと思ったけど、これでおあいこだ)
大地はそう思い、シャマンを挑戦的に見る。シャマンも大地のその態度に対抗しようと同じように見返した。
しかしなんだか可笑しくなって、ふたりともこらえきれずにまた笑ってしまった。
「…ふふっ…イタっ」
「ククッ…」
ふたりはそうしてしばらく笑い合った。
