ラビvs大橋 3
ひとしきりスケートで遊んで、3人は大地宅へ帰った。
「ハァ〜〜…つっかれたァ〜…」
ラビは情けない声を出しながら、リビングのソファーへ倒れこむ。
「ふふふ…大橋くん、スケートどうだった?」
美恵が笑いながら大橋に尋ねる。
「最初はなかなかだったけど、最後はもうスーイスイですよ。気持ちよかったーー!!」
満足そうに笑う大橋に、ラビが茶々を入れる。
「へっ、それはこのラビ様のおかげだよ。スパルタ教育のたまものさ」
「うるせぇ、大地が基本姿勢を教えてくれたからだ。なぁ大地?」
「うん…っていうか、2人がリンクで追いかけっこしてムチャクチャな暴走するから、館内放送で言われちゃったよ。
『そこの男の子2人、他のお客様の迷惑になる行為はおやめください』って。それでもやめないから係員の人に連れて行かれて、関係ないオレまで怒られちゃった」
「あらまぁ」
美恵はクスクス笑っている。
「大橋ぃ、そこまで滑れるようになれたんだから、俺に感謝しろよ?」
ラビはソファーにふんぞり返ってニヤニヤしている。
大橋は抑揚のない言葉でとりあえず礼を言った。
「へーへーラビ様、ありがとーございましたーー」
「お前、本気で言ってねーだろーっっ!」
「当たり前だろーが!!」
「もう〜、2人ともケンカすんなよっ!!」
たまりかねて大地がラビと大橋を制す。
そんな風に騒々しくしているところへ、父親の大樹、弟の大空、祖父の大河が出先から戻ってきた。
「わ〜、ラビくん!大橋くんもいるーー!!」
大空は大喜びだ。
「今日はお客様がいっぱいだな」
「フォッフォッ。賑やかなのはいいことじゃて」
大樹と大河も笑顔で騒々しいお客を歓迎していた。
「明日どうする?」
大地の問いかけに、ラビと大橋は首をひねった。
「あっ、そうそう。大橋くんのお母さんがこれくださったわ。明日みんなでどうぞって」
美恵がそう言ってあるものを大地に手渡した。
「わあ、USNJのだっっ!!」
3人が見てみると、それは遊園地のチケット。
大地は前からすごく行きたがっていた場所だったので大喜びだ。
「あーん、僕も行きたいー」
大空の言葉に美恵が答える。
「大空は、明日はお母さんとお洋服買いに行くんでしょう?帰りにパフェ食べようねー♪」
「…うん」
ブツブツ言いながらも『パフェ』の3文字に抗えない大空。
大橋が笑って言った。
「おふくろ、気がきくじゃねーか」
「…ここ、一体どんなところなんだ?」
このチケットの場所がどんなところか分からないラビが大地に訊く。
「最近この近くに新しくできた遊園地だよ。映画をモデルにしたアトラクションがいーっぱいあるんだぜ」
大地の説明に、ラビは納得するようにうなずいて言った。
「仕方ねぇ。行ってやらァ」
その言い草に、大橋はニヤリと笑いながらからかった。
「ホントはすごく嬉しいくせに、可愛くないねーラビくん?」
図星を指されて、ラビは顔をそむけながら毒づいた。
「お前に可愛いなんて思われたかないねっ」
大地はこんな2人と一緒にいたら胃に穴が開くかも…なんてことを思っていた。
ワイワイと全員で夕食を食べ、お風呂に入ることになった。
「人数が多いから、2人一緒に入るようにしましょうか。ラビくん、大橋くん、先に入って?」
「えっっ!!??」
「一緒にィっ??」
美恵の言葉に素っ頓狂な声を上げるラビと大橋。
「そっ…それは…」
ラビが慌てふためきながら大地に囁いた。
「オレ…アイツと入るのがヤダってのが一番だけど、これが…」
ラビはニット帽に手をやった。
「あ…」
大地はラビがウサギ耳のことを言っているのだとピンときた。
ラビは耳長族で頭に長いウサギ耳を持っている。
まだ地球では耳長族のことをよく知らない人間が多く、『ウサギ人間』と勝手に名づけて好奇心と恐怖の対象として見ていた。
かつて大地もそうだったが、月でラビやグリグリ、V−メイやその他の耳長族と接して、自分達となんら変わらない人達だと分かった。
大地の家族たちも同様に、夏の冒険旅行から帰ってきた大地と一緒にやってきたラビ達を、すんなり受け入れていた。
美恵はもう、大地が大橋にラビが耳長族であるということを話していると思って一緒に風呂に入るよう促したのだが、大橋は超のつく現実派で、
非科学的なことを信じるタイプではない。
それにラビが自分から進んでそのことを言わないだろうし、まだいまいち2人が仲良くなりきれていないので、大地は大橋にラビの耳の話をする気はなかった。
大橋は、ラビがコソコソと大地に耳打ちする内容は聞き取れなかったが、ラビがずっとニット帽をかぶっていることは密かに不思議に思っていた。
(普通、帽子って家帰ったらすぐ脱ぐよな…?ずーっとかぶってるのってちょっと変だぜ。
でもそんなことより、オレコイツとは絶対一緒に風呂入りたくねぇ!大地と入りたいんだけど…)
そう思いながら微妙に大地の裸体を想像して、1人真っ赤になっている大橋に大地の残酷な言葉が聞こえてきた。
「オレとラビが一緒に入るよ」
(え゛え゛え゛っっ!!!)
大橋の仰天をよそに、美恵はなんとなく事情が分かりうなずいた。
「じゃあ僕が大橋くんと一緒に入るーー!!」
大空は大橋にペタリと貼りついて嬉しそうだ。
(あう…あ…大地とアイツが…アイツが大地の裸を見るなんて…)
心の中で泣いている大橋に、ラビが勝ち誇ったような笑顔を見せた。
自分とお風呂に入るとはしゃいでいる大空を無碍にできず、大橋はチラッと美恵に視線をやって提案してみた。
「あの…4人で入ったりは…?」
「うーん…2人が限度ね。うちのお風呂、狭いから」
テヘっと可愛く笑う美恵に、大橋はがっくり肩を落とした。
「じゃあラビくんと大地、ササッと入ってきなさい」
「ハーイ♪」
嬉々としてお風呂に向かうラビに、大橋は恨みがましい視線を投げた。
