ラビvs大橋 4
ラビは大橋を出し抜いてウキウキしていたが、脱衣所で大地が服を脱いでいくのを見てだんだんと焦り始めていた。
(オレ…ヤベェかも…理性が持ちそうにない…)
月で旅をしている中で何度も目にした大地の裸。だが、自分の中の大地への気持ちを認識した今ではその頃のように自然に見ることができない。
一応タオルを腰に巻いている大地だったが、ふとした瞬間に中が見えそうで、そのチラリズムがかえってラビを混乱させた。
「ラビ、何やってんだよ。入ろうぜ」
うろたえて動けないラビの心の内を知らず、無邪気に笑う大地。
ラビは変に思われてはいけないと気を取り直し、後に続いた。
入ってくることはないだろうが、大橋にウサギ耳を見られないよう念の為頭にターバンを巻きつけている。
2人でかけ湯をして、バスタブに入った。
大地も自分も完全な裸の状態で、肩が触れ合うほど接近するのは初めてだったので、ラビの心拍数は上がる一方だった。
「今日は楽しかったね」
「あっ…ああ…」
ふいに話しかけられて、ラビはなんとか答えた。
「あの大橋ってヤツはイケ好かねぇけど、お前と久しぶりに逢ってさ、遊ぶことができて良かった」
それを聞いて大地はふ…と優しく笑った。
その笑顔にラビは見とれてしまう。
「大橋は、いいヤツだよ。ちょっと乱暴で女の子泣かしたりするところがあるけど、ウマが合うって言うのかなぁ。笑いのツボとか同じだし」
ラビは、大地が大橋のことをほめるので少々おもしろくなかった。
「スケートのこと、大橋はああ言ってるけどラビに感謝してると思うよ」
「そっ…そーかな」
ラビはふてくされた表情で湯船にタオルを入れてお湯をかき混ぜた。
「うん…あっ、ラビ!」
突然大地が大きな声を出すので、ラビはビックリした。
「なっ…なんだよ」
「今日来てくれたときに、なんか言いかけなかった?」
「へっ…?」
「ほら、その後大橋が来て話が途中になっちゃたけど」
ラビは思い出した。
わざわざ遠くから来た自分が、大地に一番に伝えたかったこと。
それは…。
「あっ、あれは…」
そう言いかけて、不意にラビはどうしようもなく恥ずかしくなってきた。
大好きな大地と、こうやって裸でいる自分が。
こんな状態であの話の続きを言うという状況が。
思わずラビは視線を湯船に落とす。
そこには…大地の裸が。
(どっ…どこ見てんだオレはっっ!!!)
「ラビ…?」
ラビが急に真っ赤になったので、大地は心配になった。
「ラビ、のぼせたんじゃない?顔真っ赤だよ?」
そう言って顔を覗き込んでくる大地。上気した頬が色っぽい。
(ぐわぁぁーーーっ!!近づくなーーーーっっ!!!)
声にならない叫びを上げて、ラビは慌てふためいた。
「ラビ…」
そう言った大地の肩がラビに触れた途端…。
「わぁ〜〜っ!お母さーーーーんっっ!!!」
風呂場から聞こえる大地の叫び声を聞いて、美恵だけと言わず家族全員が急いで向かった。
その中には、大地とラビのことに気が気でない大橋もしっかり混ざっている。
(ラビ…アイツ大地に何か変なことしたんじゃねーだろーなっっ!!)
「大地、どうしたのっっ!!」
「分かんないけど、ラビが…」
美恵が大地の指差す方を見てみると、ラビがバスタブの中で鼻血を出して気絶していた。
「あらら…」
グッタリするラビを、大樹と大地2人で脱衣所に運び出した。
「こりゃのぼせたんだな」
「でもそんな長く入ってないのに…」
その様子を見ていた大橋は、ふと大地の姿に目を奪われた。
腰に巻かれているタオルは、お湯で濡れて大地の体に貼りついている。くっきりお尻のラインが現れているのだ。
それにお湯につかっていた為、火照った肌がなんともいえず色っぽい。
(うわ、大地のこんな恰好初めて見た…!!)
そう思った瞬間、大橋もたまらず鼻血を出してその場にぶっ倒れてしまった。
「わーー!大橋くんも鼻血が〜〜〜!!!」
大空はビックリして大橋のそばでうろたえている。
美恵も大河も同様に驚いていた。
「大地…お前の年ぐらいの子に鼻血出してぶっ倒れるってのが流行ってんのか?」
あきれたように呟く大樹に、大地は「さあ…」と答えるしかなかった。
大地が風呂場から出た後、なんとか鼻血から復活した大橋と大空は続いて入浴した。
大橋は楽しそうにはしゃぐ大空に、それとなくラビと大地の関係に探りを入れることにした。
「あのラビってヤツさぁ、よくここンチ来るのか?」
「…う〜ん、前兄ちゃんが夏休みに月から帰ってきたときに、他に仲良くなった人達と一緒に来たことはあるけど…1人で来るのは初めてだよ?」
「ふ〜ん…」
(月と地球って、オレ達子供にゃそう簡単に行き来できねぇよな…でもわざわざ来るってことは、よっぽど大地と逢いたかった訳で…
はぁ〜〜、アイツもしかしてオレと同じように…)
大橋が1人で考えていると、大空が言った。
「兄ちゃんも嬉しかったんじゃないかなあ、ラビくんと逢えて」
「えっ…」
ガーンッ!!と大橋の頭にイヤな音が響いた。
「兄ちゃん、あの旅行以来よく月見上げてボーッとしてるんだ。よっぽど月での思い出が楽しかったみたい」
「そっ…そう…」
大橋は大地から月でどんなことがあったのか、詳しい話は聞いたことがなかった。
今でもそんな風に月を恋しく思っている大地も知らない。
そう思うと、ますます暗くなってくる。
「なんかねー、そんな兄ちゃん見てると僕ちょっと寂しいんだ」
「え?」
「んー、うまく言えないけど、月に兄ちゃん取られちゃった気がして」
へへっと寂しく笑う大空を見て、自分と同じ気持ちを抱いているのかな、と大橋は思った。
「でもね、僕はラビくん好きだよ。もちろん大橋くんも」
ニコッと微笑む大空。
「大空…」
何だか大空がいじらしく思えてきて、大橋は優しく笑った。
「大橋くん、石鹸でシャボン玉作れる?
「おう、オレ大得意!!」
「わー、作って作って〜〜!」
2人は楽しいひと時を過ごした。
