ラビvs大橋 7
「あのね…あれはアトラクションの一部なんだから本気で殴らなくてもいいのに…怒られて当然だよ」
ブツブツ文句を言う大地に、ラビと大橋は小さくなりながら弁解する。
「だってよー、大地があいつに捕まってんの見たら頭に血が昇っちまって…」
「そうそう、大地がドラキュラに襲われてるの見たら許せなくなっちゃったんだよ。お前だって結構本気でビビッてたからさー」
「まあそれはそうだけど…」
大地はあきれながら答えた。
ラビは明るい声で大橋に言う。
「でもさ、ニセモノとはいえドラキュラをやっつけたっての、気分良くねぇ?」
「あっ、オレも思った!クラスのヤツらに自慢できるぜ!!」
全く反省をしてない2人に再度あきれて次の場所を決めた。
「今度あんなことになっちゃうとまたアレだから…次は3Dシアターにしよう」
そして3人は映画館に入り、3Dメガネをかけて映画を見た。
「うわっっ、ぶつかる!!」
「ひぇ…ひぇぇ!危ねっ!!」
椅子から滑り落ちそうになっていいリアクションをするラビと大橋に、他の観客からクスクス笑いが起こっている。
(この2人…こーゆーところではすごい気が合うんだよなー。いい友達になれそうなんだけど…)
大地も笑ってラビと大橋を見つめた。
3D映画を見終わって、次はどこにしようかと3人はブラブラと歩いていた。
「お腹空いてきちゃった。なんか食べる?」
「んー…そうだな」
大地と大橋が相談しているとき、ラビは園内を見回しながら1人離れていった。
その時、カメラを手にした男を従えた1人の女がラビに話しかけてきた。
「こんにちはー♪私たち、USNJの会報のスタッフなんだけど、『イケてる男のコを探せ!』っていうコーナーでかっこいいお客様を取材してるの。
君、良かったら取材させてもらっていいかな?」
「えっ…あぁ、いいですよ」
『かっこいいお客様』と聞いて、ラビは機嫌よく取材を引き受けた。
「えーっと…君って外国人?金髪がすごく素敵なんだけど、まずお名前と年齢聞かせてもらっていい?」
「ああ、ラ…いや、マリウス=フォン=ラーマス。11歳だぜ」
女に答えているラビを、カメラマンがカシャカシャと撮影する。
ラビは思いっきりポーズをかっこよくキメて写ってやった。
「マリウス君て言うんだー。11歳って言っても、大人っぽくて本当かっこいいね。今日は誰と来たの?」
「友達と来たんだ」
「友達ィー?そんなこと言って、彼女じゃないのー?」
リポーターに突っ込まれ、少し赤くなってラビは答える。
「…かっ…彼女じゃねぇけど…恋人同士になれたらな~とは思ってる…」
「わぁ、かわいいのね~♪」
そんなラビを少し離れたところで見つけた大橋は、隣の大地に聞いた。
「あ?アイツ何してんだ?」
「…さあ…取材されてるみたいだね。ラビ派手なこと好きだから、ああ言うの嬉しいんじゃない?」
「ケッ、ホントにナンパヤローだなぁアイツは」
大地はクスクス笑いながら、近くにあったハンバーガー屋で昼食を買うことにした。
「ラビの分も買ってここで待ってればいいよ」
「おう」
大地と大橋はハンバーガーと飲みものを買って、ラビの見えるテラスに座った。
大地は温かいココアを両手で包み込んで一口飲んだ。
「はぁ~あったか~い…やっぱり外は寒いね」
「ああ…」
(なんか…大地とこうやって2人でいるとデートみたいでオレ…ドキドキしてきた…!)
1人胸を高鳴らせている大橋に、大地が聞いてきた。
「大橋は飲みもの何にしたの?」
「ん?ああ、オレはカフェモカ」
「ちょっとちょーだい」
「えっ」
そう言うと大地は大橋の手からカフェモカを取り、蓋の飲み口から一口飲んだ。
(うわっ!!これってもしや…!!)
「ちょっと苦めでおいしいね。ありがと」
微笑んで大橋の手にカフェモカを返す大地。
受け取った大橋の手が少し震えていることには気づいていない様子だ。
大地が口をつけた部分を大橋がじっと見つめていると、大地が自分のココアを差し出した。
「俺のもおいしいよ。飲む?」
「あっ…うん」
(大地と間接キス…間接キス…っっ!!!)
舞い上がる気持ちをなんとか抑えて大橋はココアを飲んだ。
「おいしいでしょ?」
「うん…サっ、サンキュー」
(味なんて正直どんなのか分かんねぇけど…やったぜ、大地と間接キスしたっっ!!!)
大橋は大地にココアを返しながら、心の中で有頂天だった。
「ラビ、なかなか戻ってこないから…もう食べよっか」
大地はハンバーガーを手に取った。
「ああ」
大橋はちょっと落ち着こうとハンバーガーにかぶりつく。
大地をチラッと見てみると、目が合ってニコッと笑いかけられた。
(ああ…オレ幸せだーーー!!!)
感激のあまり心で大絶叫している大橋を見て、大地はあ、と言うような顔をした。
「大橋、口の横…ケチャップついてる」
「へっ?あっ、ああ」
手で拭ってみたが、取れていないようで大地がまた言う。
「違う違う。反対側」
逆を拭って大地に聞いてみた。
「取れたか?」
「うーん、まだちょっとついてる。ここ…」
そう言いながら、大地が人差し指で大橋の口元に触れた。
ドキッ!!と一瞬にして大橋の鼓動が強くなる。
「これで取れたよ」
指についたケチャップを大地は笑顔で大橋に見せた。
「サササ…サンキュ」
大橋はなんとか平静を保とうと必死なのだが、やはり隠せずどもってしまう。
それを知ってか知らずか、なんと大地は自分の指についたそのケチャップをペロッと舐めてしまった。
「だいっっ…!?」
大橋が真っ赤になっているのに、大地はなおも笑ってフツウに言った。
「あっ…なんかこれってー、恋人同士みたいだね」
「!!!!」
大橋はもう、ゆでだこのような顔色をしていた。
(こっ…こいっ…恋人同士っっ!!大地とオレが恋人同士みたいって、そんな嬉しいこと大地が言うなんてっっっ!!!)
舞い上がってそんなことを考えている大橋に、大地は少し赤くなりながら言った。
「もう、そこでだまらないでよ。ギャグで言ったのに笑ってくんなきゃ辛いじゃん」
「え゛?」
(ギャ…ギャグ?今のは大地のギャグなのかよ…おいおい、オレには通用しないきつい冗談だぜ…)
内心ガックリしながら、真に受けてしまった自分を少し悲しく思った大橋は、なんとか大地に笑いながら答えた。
「ハッ…ハハハハ…恋人同士って…そうだな、そのギャグおもしろいよ」
もっとも大橋はそう言いながら心の中で泣いていたのだが。
「いつもは冗談言うと一番に反応してくれるのに、今日はなんかヘンだよ大橋」
大地にそう言われて、大橋はトホホと肩を落とす。
(ヘンにもなるさ…他の誰でもない大地とこうやって2人でいると…)
そして大橋は、大地をじっと見つめだした。
「…?大橋…?」
大きな瞳をさらに大きくさせて、大地が不思議そうに見つめ返す。
大橋の鼓動は今まで生きてきた中で最高速度を記録していた。
(…言っちまおうか、大地のこと…好きだって…。でもヘンなヤツだって思われるかな…)
大橋が考えを巡らせているとき、取材されていたラビが遠くからふと2人の方に視線を移した。
(げっっ!!あいつ、またなんか妙な雰囲気に持ち込んでやがる!!)
ラビは大急ぎでリポーターに告げた。
「わりぃ。友達のトコ戻んなきゃ。じゃあね」
「あっ、マリウスくん!!」
リポーターの呼びかけにも振り返らず、ラビは一目散に大地達を目指し走っていった。
「あ…あの…大地…」
大橋は続きの言葉を言おうと何度か意を決するものの、やっぱり勇気が出なくて言いよどんでしまう。
「…?何?」
大地はいつもと違う大橋を見て、真剣な表情で聞いている。
(ひゃあ、どうしよ!で、でもオレも男だ!ここまで来て引き下がれねぇ!!)
「オ…オレ…」
大橋が思いを告げようと息を吸い込んだその時、ラビの声がそれを遮った。
「やーやー、ちょっと取材されてたモンでさー、ほったらかして悪かったナーーーー」
「……!!」
大橋はラビの乱入で、続きを言うことができなくなってしまった。
大地はラビを見上げた。
「あっラビ。何の取材だったの?」
「なんかここの会報に載せるカッコイイ客の取材だって。いやー、男前は忙しくて辛いな」
ラビはチラリと大橋を横目で見る。恨むような視線で睨まれた。
大地は全く気づかずに、ラビにハンバーガーと飲み物を指した。
「そう。ラビの分も買ってるから食べてよ」
そして大地は大橋に先ほどの話の続きを促した。
「大橋、さっきは何言いかけたの?」
「あ゛っ…あれは…イヤァ、別に大したことじゃねぇからもういいよ」
「でも…」
「いいっていいって、また今度な」
「…うん」
大橋は士気を完全になくして、そう答えた。
(ラビの目の前で言えねぇよ…くそっラビめ、この2人のデート気分を壊しやがって!!)
ラビは大橋がそういうのを聞いて、気が気でなかった。
(コイツ…今大地に告白しようとしてたな?オレの前で言えねぇってことは絶対そうだ!『また今度』って、油断なんねぇ)
2人の妙な空気を感じながら大地は思った。
(ラビと大橋…なんかこの2人から言いかけられて途中になってるんだけど…一体何のことだろ?)
先ほどラビを取材していたリポーターは、大地たちと一緒にいるラビを見ながら考えていた。
(あれれ?マリウスくん、恋人同士になりたい友達と一緒に来てるんじゃなかったっけ?他に仲間らしき子も見当たらないわ。
あの子たちも可愛いけど、女の子じゃないってことは…マリウスくん、もしかして…???ど、どっちの子!?)
リポーターは混乱したが、少し萌え始めてしまっていた。
