ラビvs大橋 8
その後はアトラクションをいくつか楽しんで、お土産も買い3人は家路についた。
行けなかった大空はプラクションのお土産を大地から渡され喜んでいる。
「どう、楽しかった?」
美恵が聞くと3人はホクホク顔でうなずいた。
「夕ご飯作るまでしばらくかかるからちょっと待っててね」
美恵にそう言われ、3人は大地の部屋でゲームでもして待っていることにした。
「観覧車からの眺め、最高だったな」
「うん、夕日がオレンジ色で綺麗だったね」
大橋は大地がそう答えるのを見て、返って告白しなくて良かったなと思い始めていた。
自分があのまま勢いに任せて言ってしまえば、大地を困らせてしまってこんな風に友達でいられなくなるかもしれない。
ラビに邪魔されたような形になってしまったが、今ではそんなラビに少し感謝していた。
「また行きてぇなー」
ラビはそう言いながら、ニット棒を何気なく脱いだ。
大橋はふと顔を上げてラビを見た。
「……?」
ラビの金髪の中から、ニョキッと伸びるウサギのような耳。
大橋は、しっかりそれを目撃してしまった。
「へ…なんだそりゃ…」
ラビは大橋の視線の先が自分のウサギ耳に釘付けになっていることに気づき、大慌てだった。
「こっこれは…!!」
ラビはうまくごまかす言葉が見つからずに黙り込んでしまう。
大地も、あまりのことに凍りついていた。
大橋は最初パクパクと口を開けたり閉めたりしていたのだが、次第に青くなっていった。
「ラビ…おっ、お前月から来たって言ったよなぁ…そのウサギみてーな長い耳…ってことは、もしかしてお前ウサギ人間ってヤツじゃ…」
ラビは何も答えず耳を両手で押さえてうつむいている。
大橋は震える声で続けた。
「ウサギ人間って、凶暴で人を喰うって聞いてるぞ…?わ…うわ、くっ喰わ…!!」
大橋が壁に逃げながら叫びだしそうになった時、大地が慌てて大橋の口を押さえた。
「大橋!」
大地の真剣な表情に圧倒されて、大橋はとりあえず叫ぶのをやめた。
地球でずっと物議をかもし出していたウサギ人間の存在…。
大橋は存在自体胡散臭いと思っていたが、実際自分の目で見てしまうと信じざるをえない。
そのウサギ人間が、ここのところ行動を共にしていたラビだったなんて。
噂にあるように自分もラビに襲われるのだろうか。
大橋は恐怖と驚きと疑問とでパニックを起こしかけていた。
大地はそんな大橋を見つめながら言った。
「もう見ちゃったから言うけど…ラビは耳長族なんだ」
「みみなが…ぞくぅ?」
聞きなれない言葉に、大橋は青い顔で大地に聞き返す。
大地は真剣な表情のまま、大橋に説明した。
「そう。月には、こんなウサギみたいな長い耳を持った人達がたくさんいるんだ。簡単に人が入れないところにその人達は住んでるんだけど…ラビもその耳長族の1人なんだ。
地球では、耳長族のこと良く知らないまま間違った情報が流れてる。今大橋が言ったようなこと、全然ないんだ。
みんないい人だし、考えることだってオレらとなんら変わらない。大橋もラビとずっと一緒にいて、何も思わなかっただろ?」
「あ…ああ…」
そう言いながら、大橋はチラリとラビを見た。
もう完全にうつむいていてその表情はよく見えない。
「ラビは…ずっと耳を隠して月面で暮らしてたんだ。長い耳を持ってるってだけで珍しがられたり、中にはひどいことしようとするヤツがいたらしくて…」
ラビの肩が少し震えている。もしかしたら泣いているのかもしれない。
大橋はラビの過去に思いを馳せた。
(オレと同じ年生きてて…長い耳のせいで今までどんな辛い思いをしてきたんだろうか)
そう思うと、大橋は喉の奥が熱くなった。
そしてそっとラビに声をかけた。
「ラビ…ごめんな」
ラビはすぐに顔を上げた。
「いいよ、気にすんな。耳長族のこと良く知らないヤツは、誰だって驚くよ」
泣いていたように見えたラビの顔に涙はなかったが、少し悲しそうに見えた。
それがかえって痛々しくて、今度は大橋が泣きそうになる。
「ちょっ…何泣いてんだよ大橋っ」
焦るラビに、大橋は涙を拭いながら言う。
「わ…分かんねぇけど、オレっ…ひどいこと言ってお前を傷つけたっ…!!」
「だーからもういいってっ…お前に泣かれたらオレまで泣けてくるじゃねーかっ」
そう言ってラビも瞳に涙を浮かべている。
大地はそんな2人を黙って見ていたが、微笑んで言った。
「ラビと大橋って…ちょっと似てるね」
「えっ」
「……ズビッ」
ラビは涙目で大地を見上げる。大橋は大地を見ながら鼻水をすすりあげた。
2人に見つめられながら、大地は続ける。
「口が悪くてー、意地っ張りなトコとかー…」
「なんだよそりゃ…」
「ひでぇ…」
文句を言う2人にクスッと笑って大地は続ける。
「でもあったかくて、涙もろくて、すごい優しいトコ」
その笑顔がとても輝いて見えて、ラビと大橋は赤くなってしまった。
「2人とも、オレの大事な友達だよ」
大地のその言葉に、ラビと大橋はチラッとお互いを見て、照れ臭くて笑い合った。
