ラビvs大橋 9
その後夕ご飯を食べて、お風呂の時間になった。
「ラビと大橋…一緒に入る?」
もうウサギ耳の事を隠す必要はないし、ラビと大橋が一緒にいられるのもごく僅かしかない。
そう思って大地は提案した。
大地の言葉に、2人は互いの顔を見合わせている。
(こいつに耳見られちまったからまぁいいか。大地と入りたいけど、昨日みたいにまた鼻血こいてぶっ倒れちまったらカッコ悪いしな)
(今日こそは大地と!って思ってたけど、昼間みたいに舞い上がったら訳わかんなくなりそうだ。ラビとこうしていられるのももうねぇし…)
そう思い、ラビと大橋は一緒にお風呂に入ることにした。
湯船につかると、大橋は隣のラビの耳を不思議そうに見つめた。
「なんだよ。そんなまじまじ見るなよ」
「あ…すまん。それって帽子とかで押さえてると痛くねぇのかなって思って」
ラビはふっと笑う。
「もう慣れたよ。小さい頃からずっとターバンで隠してたから」
大橋はそれを聞いて少し胸が痛んだ。
「そうか…お前って見かけによらず苦労してんだな」
「よせよ。同情されるのなんかゴメンだぜ」
クールに答えるラビに、大橋は大地の言うとおり口は悪いけどいいヤツなんだと思えてきた。
ラビも同様に、自分のことを思って泣いた大橋のことを認め始めていた。
大橋は真面目な顔で言う。
「オレ…大地から月の詳しい話聞いたことなくってさ、今日はそれが聞けてなんか嬉しかったんだ。月っておもしろそうなところだな」
「…まぁな」
ラビは邪動族と戦った日々を思い出し、少し微笑んだ。
その優しい笑顔につられて、大橋はラビに思い切って聞いてみた。
「ラビ…お前大地のこと好き?」
ラビは大橋の直球な問いかけに赤くなって驚いた。
「なっ…そりゃー友達だから嫌いじゃねーよ」
「んー…そんなんじゃなくて…オレ、大地のこと考えたり、大地と話したりするだけですげぇ嬉しくってドキドキするんだよなー…ってなんでラビにこんな話してんだろ…」
自分の思考回路が分からなくなって、大橋は頭を掻く。
ラビはしばらく黙っていたが、湯船に顔を沈めながら呟いた。
「オレも…オレもお前と同じだよ」
大橋はハッとして、頬を紅潮させたまま素直に同意するラビを見た。
「オレは月にいて大地とはなかなか会えねぇだろ?だから、今頃何してるのかなとか、誰といるのかなっていつも気になるんだ。…くそ、オレなんで大橋にこんなこと…」
それを聞いて同士がいた喜びか、はたまたライバル出現で燃えたのか、大橋はバスタブの中で姿勢を変えて、ラビと向かい合わせになって身を乗り出した。
「大地ってさ、明るくて元気で…うまく言えねぇけどそれを分けてもらえるって感じでさー、見てて楽しいんだよ」
「ああ、そうだな」
ラビは一緒に旅をした頃の大地を思い出し、クスクス笑いながら頷いた。。
大橋はやや間を置いて、顔を赤らめて言う。
「これって…恋…かな?」
「わかんねぇけど…」
そう答えるラビの顔も同じように赤かった。
お風呂から出たラビと大橋は、先ほど話していたことで大地の顔を正面から見れなかった。
大地はそんなことには全く気づかず、仲良くしている2人を見て一安心だった。
大地は大空と入浴を終え、自分の部屋に戻った。
見れば大橋とラビがTVゲームをしようとしている。
「今日はこれで寝る場所決めようぜー。勝ったヤツが真ん中な」
「チッ、昨日は大橋が真ん中だったから今日は逆になれると思ってたのによー」
「こうやって勝負する方がおもしれーじゃん」
「…まぁな」
そう言いながら、楽しく対戦しているラビと大橋を布団に寝転んで見ていた大地は、こんなことを考えていた。
(ラビと大橋…最初はどうなることかと思ったけど、仲良くなれてほんと良かったー…ラビはウサギ耳を隠すことなく笑い合える人なんてそんなにいないだろうし、
大橋も何も思わず自然にそれを受け入れてる。またこうやって3人で遊びたいなー…)
「おっしゃー、オレの勝ち!!大地ー、今日はオレが隣で…」
ラビが満面の笑みで大地に勝利を報告しようと振り返ると、大地は敷かれた布団の上で眠ってしまっていた。
「だっ…大地、そんなカッコで寝てると風邪引くぞ」
大橋は慌てて大地を抱え上げ、ベッドに運ぼうとするとそれをラビが制した。
「大橋、待てよ。…今日は布団で3人並んで寝ようぜ」
「ヘッ…」
ポカンとしている大橋にラビはニッと笑ってみせた。
大橋はその意味深な笑いをしばらく見て、気づいた。
「あーっ、あーっ!!それいいな!そうしようぜ!!」
「ちっと静かにしろよ。大地が起きちまう」
大橋は大地をそっと布団に寝かせた。
「ラビ…お前って結構スケベだな」
そう言われてラビは真っ赤になって抗議する。
「な…なんだよー!お前だって俺の意見に賛成したくせにっ。大地にヘンなことするなよ」
「ブッ…!お前のほうこそ手ぇ出すんじゃねぇぞっ」
2人が言い合いをしていると、大地がその声で起きそうになった。
「ん…うぅん…」
ラビと大橋は慌てて声をひそめた。
「ヤベッ…起きちまう」
「今度ケンカしてんの見つかったら2人して追い出されんぞ」
しばらく静かにしていると、大地はそのままスースーと寝息をたて出した。
その寝顔を見て、2人の口から同じ言葉が洩れた。
「「かわいー…」」
ハッとなって頭を掻くラビと大橋。
「オレさー、大地が昨日寝る場所聞いたとき、ホントはこの布団じゃなくこのベッドで一緒に寝たいとか思っちまった」
大橋の言葉に、ラビも小さな声で言った。
「…オレも…」
顔を見合わせラビと大橋は吹き出す。
そして大地をはさんでラビと大橋もゆっくり布団に入った。
大地と一緒に寝られることが嬉しくて仕方ない大橋は、大地に擦り寄った。
「へへっ。あったけぇ」
ラビも大地に寄り添う。
「ああ…ホントにな」
ささやかな幸せを噛み締めながら、ラビと大橋はいつの間にか眠ってしまった。
