シャマン、遙家に滞在 3
昼食の後は、大地とシャマンと大空で公園へ出かけた。
初めて見る公園の遊具に、シャマンは子供のようにはしゃいで大空と遊んでいる。
大地はそれを見ながら思った。
(まさかシャマンとこうやって地球で過ごす日が来るとは思わなかったな。ラビやガスが知ったらすっごく驚くぞ。…またみんなに逢いたいなぁ…)
大地たちはひとしきり遊んだ後、帰宅した。
シャマンは夕食時も美恵の料理の腕に感動しっぱなしで、綺麗にたいらげた。
大樹も大河も大空も、そんなシャマンをかわいく思い自然に受け入れている。
大地が最初に感じた不安もどこかに吹き飛び、月での思い出がまた鮮明に蘇るようで楽しかった。
入浴後、シャマンは大地のベッドの隣に敷かれた布団に横になった。
「今日、疲れたでしょ?」
大地はクスクス笑いながらベッドに入る。
「ああ、疲れたが…心地良い疲れだ。突然押しかけてきてしまって、すまなかったな」
「ううん」
大地は寝転んだまま窓から見える月を見つめた。
「ラビやガス、グリグリ、ばあちゃん…みんなどうしてるかな」
大地の声が少し寂しそうだったので、シャマンは起き上がって大地のそばに近寄った。
「魔動戦士たちか…逢ってないのか?」
大地は視線を月によこしたまま言う。
「うん…手紙のやりとりはあるけど、やっぱり逢って話したいな…」
シャマンも大地につられて月を見上げる。
大地はシャマンの方を向いた。
「今日、シャマンと久しぶりに逢えて良かった」
「遙大地…」
シャマンは月明かりのもと、少し驚いた顔になる。
「ふふっ。その遙大地ってフルネームで呼ぶのやめてよ。なんかよそよそしいじゃん。大地でいいよ」
大地はクスクス笑う。シャマンの顔が赤らんだ。
「月での冒険ってさ、それまでのオレの生活からするとあまりにも現実離れしすぎててさ…。
耳長族とか、魔動王とか…一度にたくさんのことがすごい速さで駆け抜けて、オレも良く分かんないうちに色んな体験して…
でも全て終わって地球に帰ってくると、また元通りの生活で。だからなんか月での出来事が夢みたいな感じがしてたんだ。あれは本当にあったことなのかなって」
シャマンは、そう語る大地の様子に胸の奥が少し熱くなった。
「だから今日シャマンと逢えて、ああ、やっぱりあれは本当にあったことなんだって思いなおすことができたんだ。…うまく言えないけど、すごく嬉しかった」
大地はシャマンの目を見てニコッと笑った。
シャマンも微笑む。
「ああ、私も大地と逢えて嬉しかった」
「へへ…月でのことはいい思い出だよ。みんな、オレの大事な宝物だ。ラビも、ガスも、グリグリもばあちゃんも。…それにシャマンも」
シャマンはそれを聞いて、心臓が高鳴るのを感じた。
「大地…」
「ん?」
シャマンの顔はみるみる真っ赤になってくる。
「…どしたのシャマン。顔赤いよ。熱あるんじゃない?」
そう言ってベッドから半身を起き上がらせ、シャマンのおでこに手をやる大地。
シャマンは思わずその手を取って握りしめた。
「…?シャマン?」
「だっ…大地っ…」
頬を赤く染めたシャマンが大地を熱く見つめていると、窓の外から声がした。
「シャマーーーーンッッ!!!!」
見れば、エヌマが鬼のような形相で立っている。
「えっ…エヌマ!!」
驚いているシャマンと大地をよそに、エヌマは邪動力で窓の鍵を開け、中に入ってきた。
「急に飛び出していったと思ったらやっぱりこの坊やのところだったのね…。こンのショタコンがーーーー!!」
「うわーーーーっっ!!!」
ひるんだシャマンに、エヌマは容赦なく爪でもって攻撃する。
大地は慌てて止めに入った。
「エヌマっ!ちょっ…やめなよ!」
エヌマは大地をキッと睨む。その迫力に大地はたじたじだった。
ニヤ〜っとエヌマは不気味な笑みを浮かべる。
「坊や…この男はねぇ、どーしようもない男なのよ。私と最後にケンカした原因聞いた?」
「いや、それは…」
シャマンはギクッとしてエヌマの話を遮った。
「やめろ、エヌマ!それは言うなっ!!」
「うるさいっっ!!」
般若のように怒り狂ったエヌマに一喝されて、抗える勇気のある者などいない。
シャマンはたちまち大人しくなった。
それを確認してエヌマは大地を見つめて続ける。
「この男はねぇ、闘いのときに仕入れたあんたの写真を後生大事〜に持ってたの。私と暮らすって言いながら、坊やのことが恋しくてたまらなかったらしいのよ」
「えっ」
大地は驚いてシャマンを見た。シャマンは頬にくっきりと爪の跡を描いて立ち尽くしている。
「地球に数ある国の中で、シャマンが日本に行きたいって強く言ったときからイヤな予感がしてたわ。
坊やの前ではカッコつけて『里へ帰る』なんて言ってたくせに、私といても坊やのことばっかり話すんですもの。
私の写真なんか一枚も持ってないのに…くやし〜〜〜っっ!!!」
エヌマはキーキー言いながら、シャマンの首を絞めている。シャマンはもう、されるがままだった。
まさかこの2人のケンカの原因が自分だなんて。
再会したエヌマは相変わらずで、それがいいんだか悪いんだか、大地は混乱した。
そうしていると、騒ぎを聞きつけた大樹と美恵が部屋に入ってきた。
「どうしたんだ!?」
エヌマはハッと我に帰り、2人に深々と頭を下げた。
「今日はうちのバカシャマンがお世話になったようで、申し訳ありませんでした」
突然現れた美女に、大樹はポーッとなった。
「あら、あなたもしかしてエヌマさん?」
美恵は大樹に気づかず、のん気に笑顔になる。
「ええ、そうです」
先程のヒステリーはどこへやら、エヌマは上品にニッコリと微笑んだ。
「まあ、すごく綺麗な方ね。シャマンさんと並べば美男美女でとってもお似合いじゃないの!」
「まっ、お母様ったらお上手ですわ♪」
褒められてしなを作るエヌマ。その変わりように、大地は女ってコワイ…と心底思った。
シャマンはもう力なく笑っている。
「今日はもう遅いし、エヌマさんも泊まっていきなさい」
大樹はそう促したが、エヌマは断った。
「いいえ、ご迷惑になりますのでこのままシャマンと帰りますわ。大地くんの身の安全を考えて」
「オレの…?」
大地はエヌマが言っている意味を理解できなかった。
大樹と美恵も顔を見合わせている。
エヌマはホホホ…と笑いながら、シャマンの耳を引っ張った。
「イデデッ!!」
「夜遅くにすみませんでした。ほら、あんたからもちゃんと言いなさいっ」
エヌマに頭を下げさせられるシャマン。
「いっ…色々とありがとうございましたっ…」
大樹と美恵は2人の様子にうなずくしかできないでいる。
「それでは失礼しました。じゃね、坊や」
シャマンの耳を持ったままエヌマは窓から出る。
シャマンは情けない声で大地に言った。
「あっ…あぅ…大地っ!また来るからなっ!」
「うっ…うん」
そのままエヌマに文字通り引きずられながら、シャマンは遙家を後にする。
呆気にとられている大地の耳に、エヌマとシャマンの声が遠くから聞こえた。
「また来るですって!?あんたも懲りない男ね!!」
「だが…だがせっかくっ…」
「もうっ!!2人きりでなんか絶対逢わせないからね!逢うときは私も一緒よ!」
「そんな〜〜」
2人の後ろ姿が消えるまで見ていた大地達は、思わず笑ってしまった。
「迫力美女だなぁ、エヌマさんは」
「うふふ。でもあんな風にできるのは、仲がいい証拠よ」
両親の無邪気な会話に、シャマンの身が少々心配な大地。
「それにしても、さっきエヌマさんが言ってたお前の身の安全ってどういうことなんだろうな」
不意に大樹に言われて大地は考え込んだ。
「うーん…分かんないけど、あの状態の2人と一緒にいたらケガするってことじゃないのかな?」
「ああ、そうだわきっと」
美恵が納得するようにうなずく。
「さあ、お前も寝なさい」
「はーい」
大樹達が部屋から去っていって、大地はベッドに寝転び1人考え込んだ。
(シャマン、オレの写真をずっと持ってったって、なんでかな?シャマンもあの闘いのことが忘れられなかったんだろうか。
でも、エヌマが言ってた『しょたこん』ってどういう意味だろ…今度調べてみよ。シャマン、なんかオレに言いたそうにしてたけどあれもなんだったんだろう)
そう思いながら、大地はいつの間にか眠ってしまっていた。
家へ帰るまでの間、エヌマはシャマンをなおも攻撃していた。
「ったく、朝からずーーっと探しててくたびれたわよ。美容に悪いったら!」
「別に探してくれなくても…」
「なんですって!?」
エヌマの目がつり上がる。
「あのままあんたと坊やを2人きりにしてたらと思うとゾッとするわ。夜這いしてたんじゃないの?」
「……」
「何で黙るのよ!否定しなさいよーー!!」
月明かりがこうこうと輝く中、エヌマの声が寝静まった住宅街に轟いた。
結局シャマンは、無理矢理持たされたエヌマの写真を胸に入れている。
…が大地の写真も内緒でしっかり持っていた。
そしてそれをこっそり眺めながら、心に誓うシャマンであった。
(また必ず逢いに行くぞ、大地!)
−END−
後書きと言う名の言い訳
なんか…ものすごい妙ちきりんな話ですね;;
クールなシャマンがお好きな方には本当にすみません。
このお話じゃ人のいい兄ちゃんになってしまってます。しかもちょっぴり情けない…。
グラン本編で、シャマンの部下が大地達魔動戦士の写真を持っていた話がありまして、じゃあ当然シャマンも入手しているでしょうとそれを生かして(…?)この話を創作。
あの写真、シャマンが直々に撮りに行ったと仮定すると、なんだか目頭が熱くなります。
エヌマと暮らし始めたはいいけど、シャマンは絶対エヌマの尻に敷かれてるよ!(望)
本編では冷静なシャマンでしたが、行動がちょっとオマヌケな時もあってなんかおもしろいんだよな〜。
私は遙家が仲良さそうな家族でみんな大好きなので、それも書けて嬉しかったです。
