殿と大地之助 14
「ん…」

 大地之助はゆっくりと目を開いた。

 そして身を起こす。

 そこは部屋の中で、自分は布団に寝かされていた。

(あれ…?僕確か万次郎さんに洞穴で接吻されて…)

 その後の記憶が一切ないのだが、陽の光に照らされた部屋はなんとなく見覚えがあって見回していると、障子が開いた音がした。

「大地之助っ!気がついたのか?」

 見れば、嬉しそうに笑っている殿の姿がある。



「…殿…」

 大地之助は複雑な表情を浮かべた。

 心の底では殿を求めているのに、やはりあんなことになった今ではそう簡単に殿を許せず、もう2度とここへは戻らないと誓った。

 それなのに、また殿と顔を合わせてしまい、大地之助は無言で目を逸らした。

「だ…大地之助…すまな」

 殿が謝ろうとしていると、中条以下3人の家臣たちが部屋に入ってきた。

「失礼します」

「お前たち何を…」

 驚いている殿をよそに、中条が口を開いた。

「大地之助殿、大地之助殿をひどい目に遭わせた男達は、横山、室井、桜田の3名と判明した」

「…!!!」

 大地之助は自分を暴行した男達の名前を知って、グッと息を飲んだ。

「どうやら横山達は、大地之助殿に憧れるあまり、以前から良からぬことをしようと企んでいたらしいのだ。そこでやつらが画策したのは、

殿にお小姓志願の童をあてがい、その隙に大地之助殿を…とあのようなひどいことを起こした。これは全て、横山達をひっとらえて吐かせたんだ。

今は奉行所に引き渡して、罪人として厳しい処罰を与えられている」

 大地之助はぎゅっと布団を掴んだ。

 あまり話したことはないが、そう言われてみれば、あの時聞いた声や姿はあの3人に違いなかった。

 が、いくら横山達の計画でも、霧乃進を抱いている殿を自分はしっかり見てしまった。

 あれは…そう思っている大地之助に、江田が話を続ける。

「…お小姓志願の童がひと時だけでもと、熱心に殿に契りを申し込んだ時、殿ははっきりとお断りになったのだ。大地之助以外の童に興味はない、

自分には大地之助がいるから…ときっぱり告げられた。なのにその童は、思いが遂げられないのならと舌を噛んで自害しようとして、殿は慌ててお止めになり、

結局横山達の本当の狙いを知らずにそのまま…ということなんだ。私と田崎はその場にいて一部始終を見た。殿が大地之助殿を横山達に差し出すなど、絶対にありえない。

どうか信じてくれ!!」

「お前達…」

 殿は静かに家臣達の説明を聞いていた。

 大地之助は初めて知った事実に驚きつつ、涙ぐんでいた。

(霧乃進とのこと…そうだったんだ。殿が男達に僕を犯すよう命じたんじゃなかったんだ…!!)

 田崎は喉を詰まらせながら言った。

「ある意味、殿も被害者なんだ…。大地之助殿を傷つけさせまいと、殿と童が契っている間に見張りを頼まれた私だったのに、少しの間部屋を離れてしまい…

その間に大地之助殿が部屋に来られたなどと気づかなかった。それに、もっと早く横山達の悪巧みに気づいていれば、大地之助殿をお辛い目に遭わせずにすんだものをと

思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだ…」

 頭を下げる田崎に五代が続く。

「殿は…大地之助殿を本当に愛しておられる。雨の中構わず自ら進んで必死になって大地之助殿をお探ししたし、大地之助殿が眠っていたこの3日間、

ご自分の寝食も忘れつきっきりで看病されていた」

 大地之助は話を聞きながら、チラリと殿を見てみた。

 殿はたった3日間でずいぶんと痩せたようだ。

(殿…!!)

 中条は大地之助に取りすがるように言った。

「…だからどうか、殿をお許しになってくれ。頼む!!」



 家臣4人に一斉に頭を下げられ、大地之助は視線を布団へ移してしばし考えた。

(僕は…僕はやっぱり殿のこと…誰よりも…!!)

 そして顔を上げ、殿の方を向いてニッコリと笑い、大きくうなずいた。

 それを見て殿は大地之助の元へ駆け寄った。

「大地之助!!!」

 ぎゅっと力強く抱きしめながら、殿は大地之助の耳元で呟いた。

「本当に…本当に許してくれるんだな?こんな私のことを…!!」

 その上ずった声から、殿が泣いていることが分かる。

 大地之助が求めていた殿の温かい腕の中。

 それは以前となんら変わらない。

 そのぬくもりを確かめるよう大地之助の両手が殿の背中に回される。

 大地之助の頬にも涙が伝っていた。

「うん…うん。僕こそ殿のこと信じられないなんて言って…ごめんね」

 殿は大地之助の瞳を見つめ、そっと口づけた。

 その口づけは大地之助と殿がした数々の口づけの中で、一番激しく、一番優しいものだった。

 殿は顔を赤らめて言う。

「もう、私のそばを離れるな!」

「うん…!!」

 2人が抱きしめあう様子を、家臣達もホッとして微笑ましげに見守っていた。

 その時、大地之助のお腹がグーーー…っと大きく鳴り、2人は見つめあって大笑いした。

「ほら、早く食事を用意してやれ」

「はい、ただいま」

 殿に言われ、中条達は慌ただしく台所に向かった。



 大地之助は殿と食事しながら、気にかかっていたことを聞いてみた。

「洞穴で僕と一緒にいた警護の人は今どこにいるの?」

「ああ、社万次郎か。あいつならそのまま元気に警護の仕事をしているよ」

「そう…」

 大地之助はホッと胸を撫でおろした。

「お前を見つけた時、万次郎に言われたんだ。『大地之助殿を悲しませて、追いつめたのはあなただ』と…。他の者は無礼者だと一度は牢に入れたのだが、

私は気になってその後あいつに会いに行った。今回のことを全て説明すると、万次郎は言っていたよ。

『それは失礼なことをしました。あの夜大地之助殿から話を聞いて分かりましたが、大地之助殿も殿を心から愛していらっしゃいます。

愛するお2人が一緒に過ごせることを、私は望みます』ってな。素直に頭を下げていたし、あいつの目は嘘をついておらぬのですぐに解放したのだ。

万次郎は、お前の話を親身になって聞いてくれたのだな」

「うん…」

 大地之助は、口づけされたことは黙っていることにした。

 殿が言うように、万次郎は本音でそう言ってくれたのだろう。

 優しく思いやりのある人柄は、大地之助も洞穴の中で充分に感じていた。

 心の中で、万次郎に深く感謝した。



 殿と大地之助の絆は、この一件でさらに強いものになった。

 心から互いを愛し、そして信頼した。

 家臣達みんなに見守られて、2人は仲睦まじくお城で楽しく暮らしたのであった。


 −終わり−



後書きという名の言い訳

  長い話の割りにカスのような終わり方でごめんなさい。

  この話、私のやりたいことをさんざん詰め込んだという感じです。

  勢いだけで書いたことが丸分かりの、時代考証もクソもあったもんじゃない話になってますね。

  このお殿様は、奥方はきっといないでしょう。

  そしていい人そうに見えてショタコンじゃないのと言うツッコミは胸にそうっと秘めておいてくださいませ…。

  そうしないとこのお話は進みませんので; あおぅ!!

  シャマンは社万次郎(やしろ・まんじろう)として登場。(このネーミング、どうなん…)

  万次郎が出てくるまでは横山がシャマンじゃないかな〜と思わせといてこんなオチです。オチ…?

  エロシーンはまだいいものの、輪姦シーンでは女性向けと銘打っているサイトの割には表現が詳細で、男性向けに近いかもしれませんね。

  大地之助には気の毒ですが、管理人は実は陵辱モノが大好きなので、このような場面は何かの折につけて多々登場するでしょう。

  この殿と大地之助のお話は、シリーズ化して書いていく予定です。