ラビvs大橋 5
 ラビは意識を取り戻し、大地の部屋でへらず口を叩いていた。

「お前のパジャマ、丈が短いなー」

 ラビの言うとおり、大地のパジャマを着たラビは袖や裾が寸足らずで、いわゆる『つんつるてん』な状態になっている。

 大地はムッとした。

「ラビのほうが背が高いんだから仕方ないだろっ。最初から泊まるつもりで来たくせに、持って来いよ」

「へへ、いーだろ。ちょっとぐらい」

 ラビは大地のパジャマを着られて、ちょっと嬉しそうだ。

 そんなところに、大橋が入ってきた。

(くそっ、お袋がわざわざパジャマ届けに来なかったらオレも大地のパジャマ着られたのにー!サイズ的にかなりピチピチだろーけどっ)

 大橋はなんだかくやしくて、ラビに悪態をついた。

「情けなく風呂場で鼻血ぶっこいて気絶してたけど、もう大丈夫なのかよ」

 ラビは頭にきて言い返す。

「うるせー、のぼせただけだよっ!聞けばお前だって鼻血出して倒れたそうじゃねーか。何エロいこと考えてたんだよっ」

「なっ…」

 大橋は真っ赤になった。

「やーいエロ男〜。スケベ野郎〜〜!!」

「なんだよ、お前の方こそ!!」

「……っ!!」

 ラビも思わず赤面した。

「2人ともっ!済んだことはいいじゃないかっ」

 大地に仲裁されて2人はハッとした。

「ケンカはやめろよ。仲良くするって言っただろ?約束してよ」

「ああ…ごめん」

「すまん、大地」

 ラビと大橋は素直に大地に謝った。



 大地の部屋には、美恵の手によって客用の布団が運ばれている。大地のベットに沿うように川の字に並べてあった。

「寝る場所決めよっか。2人とも、寝るのどっちがいい?」

「「こっち」」

 2人が指したのは、大地のベットの隣の布団だった。

 同じ場所を指しているのに気づいたラビと大橋は、敵意むき出しの視線を互いに投げつける。

 またケンカになるのがイヤなので、大地は1つの案を持ち出した。

「じゃあ、これで決めよ」

 大地が持っているのはトランプ。

「これで勝った方が場所を選べるの。ケンカにならなくていいでしょ?」

「ああ」

「了解」

 闘志をメラメラと燃やす2人。

(大橋…コイツスケート場でも何か大地にやらかしそうだったし、油断ならねぇヤツだから大地のそばで寝かせたら何しでかすか分からねぇ…。

 何が何でも勝たなきゃな!!)

(風呂で大地の裸を堪能しときながら、まだ大地の近くにいたいなんてイケ図々しいぞラビ!絶対勝ってやる!!)

 そんな2人の思惑など全く知らない大地は、ルールを話した。

「今から色んなトランプゲームを10回して、多く勝った方が真ん中で寝る。やってるときにケンカし始めたら、オレもう違う部屋で寝るからね。

 じゃ、最初はババ抜き」

「「おう!!」」

 威勢のいい返事をしたラビと大橋。

 大地を交えてババ抜きが始まった。



 大地がラビのカード、ラビが大橋のカード、大橋が大地のカードを引く順になっている。

(お?)

 ラビは、大橋が持つジョーカーをまるで見えているかのように避けて取る。

 どんなに大橋がジョーカーの場所を変えても、ひょいひょいと綺麗によけるのだ。

 見えるはずがないのに、と大橋は不思議がった。

 頭をひねっている大橋を見て、大地はあることに気がついた。

 ラビの指からかすかに魔動力を感じたのだ。

 同じように魔動力を持つ大地はそのエネルギーを感じることができるが、大橋は当然それが分からず困っている。

(ラビー…こんなときにそんなもの使ってイカサマすんなよ)

「ラビ!」

 大地は怖い顔でラビの肘を小突いた。

(あちゃ、バレたか…)

 ラビはペロッと舌を出して魔動力を使うことをやめた。

 ジョーカーは大橋の手元を離れて3人の間を行き交うようになり、結局ババ抜きは大地の勝利に終わった。

「へへっ、あがり〜〜!後はどっちが先に上がっても関係ないからね」

「チッ」

「よっしゃ、次は神経衰弱だ!」



 そしてセブンブリッジ、ポーカー、大富豪…などなど、9つのゲームが終わった。

 今のところ結果は大地3回、ラビ3回、大橋が3回勝って、いい勝負だ。

「じゃあ最後。これは俺が勝っても仕方ないから、スピードでラビと大橋が対戦してよ」

「おう。大橋、悪いけど勝たせてもらうぜ」

「望むところだ!!」

 大地が合図をかける役で、いよいよゲームが始まった。

「…スタート!」

 ものすごい速さでカードを繰り出すラビと大橋。

 2人とも反射神経が良いので、あっという間に手持ちのカードが少なくなる。

(なかなかやるな、大橋…だが、大地はオレのもんだ!!)

(月だかなんだか知らねぇが、オレはずっと大地が好きなんだ。絶対勝つぜ!!)

 大地の隣で寝る権利を得る為始めたゲームが、いつしか大地本人を我がものにするために戦っているような気になって、2人はますますヒートアップしていた。

 そして、カード一枚差で勝ったのは…大橋。

「い〜〜やったぁぁぁぁ〜〜〜!!!!!」

 大橋は飛び上がりそうな勢いで大喜びした。

「ちくしょーー!もう1回やろうぜ!!」

 くやしくてたまらないラビは、最勝負を持ち出した。

 当然大橋は猛反対だ。

「おいっ、お前汚ねぇぞ!決められたルールに従えよ!」

「ハッ、知るかよ!いーじゃねーか、今のは練習ってことで」

「男なら素直に負けを認めろー!!」

 完全に頭に血が上った大橋は、ラビの胸倉をつかんだ。

「なんだよ、やるのかよ!おもしれぇ、これで勝負つけようぜ!!」

 ラビが応戦しようと拳を握りしめた瞬間、大地が一喝した。

「ラビ!大橋!」

 2人はその声で我に返った。

「ケンカしない約束じゃなかったか?」

 大地の静かな怒りがあたりに漂う。

「あっ…」

「大地…」

「もうオレ、おじいちゃんの部屋で寝る。つきあいきれないよ。朝まで2人、この部屋でケンカでもなんでもしててくれ」

 そう言ってドアに向かっていく大地に、ラビと大橋は慌てて取りすがった。

「ごっごめん大地。もうケンカしないからっっ」

 詫びる大橋にギロッと視線を投げ、大地は問う。

「しない?絶対?」

「ああ、絶対っ!!」

「ラビは?」

 大地はそのまま表情を変えずラビを見る。

 ラビはバツが悪そうに言った。

「…ああ、今のは元はと言えばオレが悪かった。もうケンカしねぇ」

 心底反省している2人を見て、大地は溜息をついた。

「じゃあ、大橋が真ん中で、ラビはそっち側で寝る。みんなでこの部屋で寝よっ」

 最後は明るく笑いながら言う大地に、ラビと大橋はホッとした。

(大地って本気で怒らすと妙な迫力があって怖いからなぁ)

(オレもラビも、大地にゃ弱いよな…)

 おのおの自分の寝場所に入っていく。

「あっ、なんか眠いと思ったらもう1時回ってるよ。寝坊したら遊園地で遊ぶ時間が少なくなっちゃう。おやすみー」

 大地はそう言って電気を消し、ベッドに寝転んだ。

「おう」

「おやすみ」

 ラビと大橋も、大人しく眠りについた。