ラビvs大橋 6
 次の日になり、3人はUSNJに行けるとあってはりきって出かける準備をしている。

 そんな大地達に、美恵が声を掛ける。

「気をつけて行くのよ。迷子になったり、変な人が話しかけてきたら係員にちゃんと言いに行くこと。行き帰りも3人バラバラにならないようにすること。

 6時までには帰ってらっしゃい。あと、みんなそれぞれお小遣い渡しておくから、落としたりしないでね」

「「「ハーイ!」」」

 元気な返事をして、大地、ラビ、大橋はUSNJに向かった。



 年末ともなって、USNJには家族連れやカップルでごった返していた。

「うわ〜〜♪どれ乗る?どれ乗る?」

 大地はもう興奮して頬が紅潮している。

(おふくろ〜、大感謝!!)

 そんな大地を見て、大橋は顔がヤニ下がってしまっていた。

「そーだなぁ、どれにしようか…」

 ラビもガイドブックを見ながら冷静さを装いつつ、はしゃぐ大地の可愛さに胸を高鳴らせていた。

「最初はドカンと、迫力満点のこれ乗ろうぜ!!」

 大橋が指したそれは、USNJ名物のジェットコースター。

「うん、それにしよっ!」

「よっしゃ!」

 大地とラビも賛同し、順番待ちの列に並んで乗り込んだ。

「どわ〜〜〜〜っっ!!」

「わぁっっ!!」

「あははっっ!!すごいーー!!」

 3人は、思い思いに楽しんでいる。



「次は…ホラーマンションに入ろっ」

「「おうっ」」

 大地の誘いに意気込んで入場したラビと大橋だったが、中は互いの顔が見えないほどの暗闇で、少し逃げ腰になった。

「うわ〜…前が見えねぇ…」

 大橋はそう言いながら大地にピタリとくっついた。

 耳元で大地の声がする。

「わっ…そんなくっつくなよ大橋」

「…っだってよぉ…」

 大橋は情けない声を出しながら思った。

(これって…おいしいシュチュエイションかも…)

 一方ラビは、そのやりとりを聞いて気が気でならなかった。

(くそっ大橋、うまいこと考えたな…だけど俺はカッコ悪いトコ大地に見せたかねぇからな)

「大橋、お前デカい図体して情けねぇなぁ。こんなの所詮作りモンじゃないか」

 真っ暗な中に聞こえる馬鹿にしたラビの声にムカッときて、大橋は精一杯強がった。

「うるせぇ!!せっかくお化け屋敷に入ったんならムード盛り上げようと思って、怖がった演技してるんだよ!

 しっかりだまされてくれちゃって、オレの演技力も捨てたモンじゃねーな」

 大橋の弁解をよそに、ラビは大地の手を取って進みだした。

 その瞬間、女の不気味なすすり泣きがあたりに響いた。

「……っ!!」

 3人は一瞬体を強張らせたが、なんとか先に歩いていく。

(作りモン、作りモン…)

 恐怖を打ち消すため、頭の中に呪文のようにその言葉を繰り返すラビ。

 大地も怖いのか、ラビの手を握る力がついつい強くなった。

 そんなラビの目の前に、突然ゾンビがライトアップされて襲いかかってきた。

「うわーーーーーーーーーっっっ!!!」

 ラビの大絶叫を聞いて、大地と大橋もビビる。

「…っラっ…ラビッ!!」

 なんとかゾンビから逃れ、大橋が笑った。

「けっ、カッコつけといて良く言うよ。お前の方がビビッてんじゃねェかよ」

「きゅっ、急に襲い掛かられたら誰だって驚いちまうよ!」

 苦しい言い訳をするラビに、大橋はほくそ笑みながら大地の手を取る。

「怖がりのラビなんかほっといて、先行こうぜー大地!」

 そして数歩歩いたのだが、ふと大地の手の感触に違和感を覚える。

「……?」

「あれ?大橋ー?」

 大地の声が離れたところから聞こえる。

(こっ…この手の持ち主は…?)

 大橋にイヤな予感がよぎったその時、青白く浮かび上がった吸血鬼ドラキュラの不気味な微笑が目の前でニタリと笑った。

「※ф〇×★♂♀……!!!!」

 何語か分からない言語を発し、その場に大橋はへたり込んでしまった。

「大橋!!」

 大地はラビの手を取って大橋のもとへ駆け寄る。

 ラビはビビッてしまって言葉が出ない。

『新鮮な生贄が自らお出ましになったようだ…さあ、お前の血をいただこう…』

 ドラキュラのナレーションの後、近くにいた大地が捕らえられた。

「うわっっ!!」

『くくく…我が僕となるのだ…!!!』

 仰々しい効果音と照明の中で大地がドラキュラに抱えられ、首筋に噛みつかれようとしている。

「やっ…やめろぉっ!!」

 大地は本気で慌ててドラキュラの腕の中でもがいている。

「このヤロー!!大地に何しやがるっ!!」

 ラビはビビリながらもドラキュラに叫んだ。

 その声に正気を取り戻した大橋が、勇気を出してドラキュラに向かっていった。

「大地を放せっ!!」

「うわっっ!!」

 体当たりをかまされて、ドラキュラはナレーションではない生声を発して後ろに転んでしまった。

 大地はその反動でドラキュラの拘束から逃れることができたが、ラビと大橋の怒りはそれだけでは治まらなかった。

 ラビはポケットに忍ばせていたムチをひるがえし、ドラキュラの手首を捕らえてすごんだ。

「この変態ヤロー…ただで済むと思うなよ」

「そうだ!大地に妙なことしやがって…」

 大橋も加勢する。

「えっ…でもこれはアトラクションの演出で…この後勇者が出てきて君達は助かるっていう筋書きが…」

 ドラキュラは妙な展開になってきて、2人の少年に必死で説明した。だが、それは空しい抵抗だった。

「うるせぇ!!大橋、やるぜ!!」

「おう、ラビ!!」

「ちょ、ちょっとラビ、大橋!!」

 大地が止める間もなく、ラビと大橋は呆気にとられるドラキュラに踊りかかった。

「ぎゃ…ぎゃーーーーっっっ!!!」

 その後、係員に止められて退場させられるまで、ドラキュラはラビと大橋にこてんぱんにやられたのだった…。