その時、シャマンは職員ルームでタブレットを見ていた。
開いているのは大地のカルテだ。
三日前に『挿入状態は魔羅の半分と少しがやっと』と自身が記した記事の後に、中村の記載で『クロマサ・アカベコに中庭の用具室で挿入寸前という
レイプ未遂の被害に遭うが、シャマンによって阻止。その後の検査で身体への異常はなしと判明』という文面が続いていた。
「……」
レイプ未遂の被害、身体への異常はなし。
この言葉は事実だが、あまりに無機質だった。
大地が受けた心の傷、そして恐怖。
それはあの一時期だけのものでなく、終わっていない。こんな簡単な一言などで片づくものではないのだ。
この記事は、見習いや陰間になる少年の気持ちにまったく関心がないという中村の姿勢を良く示しているとシャマンは感じた。
二度も犯されそうになった大地。
施設の別の子どもを人質にとられているような形の大地にとって、どんなに怖ろしく、どんなに絶望したできごとだっただろう。
強いストレスで過呼吸を起こせば挿入練習を後日にしたり、少しでも元気が出るのであればと昨日のように出掛けようと誘った。
それ以外にも、本人の意に反して魔羅の挿入が非常に困難だということで、いろいろと気に掛けていた。
しかしシャマンはそれらがいけないことだとわかっていた。
こんな風にしていると、陰間デビューする際に大地を混乱させて余計悲しませるだけだと。
大地が自分に好意を持っていることはわかっている。
でもそれは陰間デビューを控える少年が持つには酷な感情だと知っているから、気づかないふりをすることに決めたのだ。
大地の気持ちに応える時など来ないのだから。
しかしここへ来て、シャマンは自分自身の中になんらかの新しい感情が芽生えているような感覚があった。
何度も男たちの卑劣な性欲に翻弄されながら、施設の弟たちを思って懸命に前に進む大地。
その姿がどこか…シャマンの胸の奥底にある何かに呼応する。
しかも大地は自分のその部分に少し勘づいているような気がする。
どこか通じるところがあると、彼も気づいているのだろうか。
大地に対する感情がいったい何かはわからない。
しかし今はっきりとわかるのは、シャマンは大地を見ると昔の自分を思い出して切なくなる。
それだけがシャマンが認識できる感情だった。
「……」
シャマンは大地の電子カルテを閉じて、タブレットの電源も落とす。
そして窓の近くに吊るしてあるカレンダーを見た。
「あとひと月と少しだ…」
シャマンは小さく呟いて、雀が舞う窓の外に視線を寄越した。
その目は十年近く抱いていたさまざまな想いが去来する、悲しくも覚悟を秘めた眼差しだった。
見習い寮とは言えど中村屋ともなると広い。
リラックスルームへ行くまでのルートはいろいろあるので、大地は初めて通る廊下へ向かってみることにした。
「わぁ…!」
そこは小さな庭園を中庭にしている回廊になっていて、大地は感嘆の声を上げた。
小さいとは言っても枯山水の手入れはもちろん、灯篭や植え込みなどどれも立派で、計算された絶妙な造りになっている。
見習い寮の庭園と言えど手を抜かない。
オーナー中村の手腕をこんなところでも感じてしまい、大地は閉口した。
庭を見ながら複雑に気持ちになっていると、向こう側の回廊の入り口に人影が現れた。
「おおっ!」
大地の姿を見て声を上げたその人物は小泉だった。
「…えっ…」
大地はひどく動揺した。
なぜこんなところに小泉がいるのだ。見る限りはひとり、中村や拓海など陰間の姿も見えない。
「大地…大地!!」
大地を見かけるやいなや小泉はそう叫びながら突進してきた。
わけがわからない大地は振り返って元来た道に逃げようとしたものの、小泉の勢いはすさまじくすぐに追いつかれてしまった。
「見つけたぞォ!!!」
「ひっ!!」
小泉は大地の腕を掴んで、自分の方に強い力で引き寄せた。
「おい、まだデビューできないのか、いつまで待たせるんだっ」
「や…いや!!!」
「中村殿にお前のことを何度聞いてもまだだという返事ばかりで、しびれを切らしてそれならばとわざわざ来たのだ。逃げるな、もっとこっちへ来い」
「や、やめてくださいっ!」
小泉は大地を抱き寄せて顔を近づけてくる。
見習い寮に来たのは大地のデビューに向けての進み具合を確認するためとあって、お目当ての大地を捕まえると涎を垂らさんばかりの勢いですっかり
興奮しているようだ。
またしても男の劣情に晒されて、クロマサたちがいなくなりホッとしていただけに大地はひどく怯えた。
「そんなに冷たくするな。毎日挿入の練習はしているんだろう?どれ、研修の成果を見せてみなさい」
嫌がる大地が暴れるのを利用して小泉は後ろから羽交い絞めにした。
その勢いでうなじに舌を這わしてくる。
「…〜〜っっ」
「へへ…ハァ、ハァ…」
大地は動揺のあまり固まってしまう。小泉はその隙に大地の着物の裾を持ち上げて、中に腕を差し入れた。
「っ、や!!!」
座敷見学の時にされたように、大地の太ももを撫でさすってくるその動きは少年への偏執的な愛情を形にしたような、それはそれはおぞましいものだった。
大地はぞっとして鳥肌が立った。
「可愛いねェ、お前は怯える顔が本当に可愛い…」
熱い吐息を何度も大地の耳元にかけながら、うっとりとした口調で小泉が囁く。
手の動きはどんどん増長し、大地のふんどしの前袋に到達してそのわきから指を侵入させて来る。
「!!!」
「おほほ、かわいいウィンナーが私の手に触れておる」
小泉の指は大地のペニスを弄び始め、嫌悪感が最高潮に到達した。
「いやだ放せェ!!!」
「…かたーくなるように、私が調理してあげようね…」
「あっ、や…やぁ!!」
大地のペニスの先、皮に包まれてはいるが亀頭と竿部分のくびれを指で見つけて、そこを指先でふにふにと刺激する小泉。
そのいやらしい動きは、もう完全に大地を性欲の解消相手とみなして悦んでいることが伝わるものだった。
(いやだ、いやだ…まだデビューしてないのになんでこんなことされなきゃならないんだよ…でもこの人はお客さんだから、クロマサたちみたいに
逃げられないよ…!!!)
一難去ってまた一難、大地は心身ともにたちまち追い詰められてしまった。
