大地はナブーと座敷に残されて緊張が走るものの、中村の言ったシャマンの存在に心が乱されていた。
目の前にある障子。二メートルも離れていないこの障子の向こうにシャマンがいる。
まさか彼がここに連れて来られているなんて思いもよらなかった。
動揺はあるものの、シャマンが傍にいると思うと不安感がいくらか軽減するような気がする。
しかしそれと同時に羞恥も感じた。
シャマンが自分のセックスの様子を聞いていると思うといたたまれない。
相反する気持ちに戸惑いながらすがるような視線を広縁に向けている大地に、ナブーが静かに呟いた。
「客ほったらかしで教育係に気もそぞろなんて妬けちゃうねェ…」
「っ!!!」
大地はハッとなった。さっき中村に戒められたところなのに、とナブーに慌てて向き直った。
「も、申し訳ございません…!重ねての無礼、お詫び申し上げます…!」
「いちいち謝んな、めんどくせェ」
「すみません…ぁっ」
肩をびくりとさせて焦る大地に、ナブーはフッと鼻を鳴らして笑った。
「ずいぶんと緊張してるみてェだなぁ」
そう言いながらナブーは大地を昨日以上のいやらしい視線で上から下まで見つめてきた。
大地は自分が値踏みされていることに気づいて、不躾な視線にたまりかねて視線を下げた。
「そんなんじゃもたねェぞォ?オレが満足するまでまぐわいまくるってんだから」
ナブーのそんな発言にも新たな恐怖心が芽生える。身体がびくりと震えたのを自覚した。
「あらあら、何言ってもダメだ。まァ無理もねェわな、今日初めて男に犯されるんだもんな」
そう言ってナブーは大地の頬に太い指で触れてきた。大地は思わず肩をすくませた。
「ん〜、すべすべもちもち、かンわいいねェ、たまんねェ」
「あっ!」
少年の肌触りが心地良くて悦に入ったナブーは、強引に大地の肩を抱き寄せて自分の胸に寄り添わせた。
分厚くて硬い、そして大きな胸板。大地を怖れさせるに充分なこの男は、ダークサイドでどんな修羅場を踏んできたのだろうか。
「…お前が懸想している男のこと…知りたいか?」
「っ!!!」
大地は突然のナブーの言葉に顔を上げた。
この時初めてナブーの目をまともに見た。狂気的な悦びが宿った目だった。
「シャマンはな…ヤツが十歳の時にオレがガンガンにレイプしてやったのよ」
「!!!!!」
大地に衝撃が走った。
ナブーが陰間だったシャマンの客だということはわかっていたが、まさか犯されていたとは。
震える瞳で見上げる大地にナブーは続けた。
「いろーんなことがあって、中村が陰間茶屋を始めるって時にあいつは陰間第一号に抜擢された。抜擢されたっても、勝手に中村がそう仕組んだだけであいつは
何も知らねェただのガキだった。それをこのオレが水揚げさせてもらえるってんで、目いっぱい愉しんだってワケさ」
「……!!!」
レイプ被害の経験があるシャマン。
だから、強引に少年に言い寄ったり襲ったりする男たちを心の底から憎んだ。
下劣な男たちを徹底的に懲らしめた行動の裏には、そんな辛い過去があったからなのか。
シャマンが何かを抱えているのはわかっていたが、その根拠となりうる事実を知って大地の胸が痛んだ。
「今でもわかるように、シャマンはずいぶんとお綺麗なツラしたガキでよォ」
そう言うと、ナブーは声を張り上げた。
「シャマンよォ、聞こえてんだろう!?」
突然ナブーがシャマンに呼び掛けて、大地は驚いて広縁を見た。
シャマンの返事はなかった。しかしそこで彼がじっと静かに身を強張らせているのは伝わってきた。
ナブーはシャマンに語り掛けた。
「オレは今でも覚えてるぞ。お綺麗なツラしたお前が、俺のちんぽ挿し込まれるたびに顔歪ませてヒィヒィ泣いてよォ」
シャマンは広縁で拳を握りしめた。あの日を生々しく思い出して全身が凍りつく。
「『痛い痛い』って、甲高い声で泣き喚くのがたまらなかったぜぇ。その後何回もガキを犯してきたがお前ほどの上玉は他にいなかったな。今思えば、
あん時部下に言いつけてレイプの様子を録画しておいてもらいたかったぐらいだよ、ガハハハ!!!」
高らかに下卑た笑い声を上げながら、いかにも可笑しいといった様子でナブーは天を仰ぐ。
「……!!!」
シャマンは握りしめた拳が真っ白になった。
九年間一日たりとも忘れなかった忌まわしいできごとを笑い話にするナブーに嫌悪感が増大する。
屈辱で全身が震えたが、ここで何かの行動を起こすことは許されない。シャマンは口唇を噛んで耐えた。
「へへへ、悔しくても今のあいつはなんもできねェんだもんな、あー愉快愉快」
シャマンをわざと不愉快な気持ちにするナブーの下劣さ。
大地はシャマンの気持ちを思いやるといたわしくて、みるみる大きな瞳に涙を浮かべた。
抱き寄せた大地の様子が変わったことに気づいて、ナブーは舌を出して笑った。
「ありゃりゃ、シャマンの話すりゃちったァリラックスするかと思ったのに、逆効果だったか」
こうなることを予期していたからシャマンの話をしたであろうに、白々しくそう言ってナブーは大地のあごを持ち上げて視線を合わせた。
「まァまァ、そんなにビビんなよ。オレはそんなに変わったセックスを好んじゃいない。世間にはガキが身体中から血ィ噴き出してるのがイイってのもいりゃ、
細い首っころを力いっぱいひねり上げて悲鳴も上げられねェとこ見るのがクるってのがごまんといる。こないだは首はねたばっかりのガキ犯せるってんで、
ちんぽビンビンにおっ勃ててんのもいたな」
「ひッッ…」
大地は小さく悲鳴を上げた。子どもが命の危険に晒されることが性的興奮に直結するヤツら。
子どもとセックスする男たちの中でも極めつけの下衆ではないか。
「……っっ…、っ…」
怖ろしくて呼吸が乱れ始めた大地の額に、ナブーは軽く口づける。
「そんな男たちに比べりゃ、オレなんて普通よ普通…まァ多少手荒に扱うかもしれねェけどよ」
そう言うナブーは嗜虐的な迫力満点だった。大地の頬に涙が伝う。
「オレがたんまり可愛がってやるからな…ヒヒヒ」
下品に笑う顔が間近に迫っている。
大地はこの男のことを生理的に受け入れ難く、自身の境遇など忘れて逃げ出したい衝動に駆られた。
だがすぐにそれは叶わないことと思い出し、絶望した。
『明日の床入りでは涙を見せるな。泣いたらあいつの思う壺だ。できる限り反応しないように努力しろ』
ナブーにレイプされたことのあるシャマンが、この言葉をどのような想いで自分に伝えてくれたのか。
それを考えると教えを守らねばと思った。
大地は涙を着物の袖で拭い、気持ちを切り替えてナブーに話し掛けた。
「…ナブー様、お食事をどうぞ」
大地は心の準備が追いつかないこともあり、いったん密着した身体を離しながら目の前の膳へ視線を向けた。
しかしナブーは膳を軽く蹴って向こうに押しやった。
「腹は減ってねェ。オレはお前を犯しに来たんだ」
ナブーは再び大地を自分の元へと引き寄せて、身体をまさぐり出した。
大地は焦った。
「で、でも…」
「でもじゃねぇ。オレは客だぞ。陰間なんぞ客の言うことを大人しく聞いときゃいいんだよ」
着物の帯をはずしにかかるナブーの力は強引で、大地はありありと恐怖を感じた。
みるみるうちに長襦袢姿になった大地は、ナブーの胸に背中から寄りかかるような格好をとらされる。
ナブーはそのまま大地を膝の上に抱いて、背後から大地の袖に腕を侵入させた。
すべすべした肌を指一本で『の』の字を書きながら順に伝っていく。
いやらしいその動きはやがて乳首を捕らえた。
「…っ」
大地はびくりと身を強張らせたが、そんな大地を良く見ようとするナブーの顔が至近距離にあって大きく動けなかった。
指のいたずらはそのままに、ナブーは大地を責めながら問うた。
「お前、家族は?」
「か…家族は…孤児院、で、育ち…ました、から…そこの子どもたちが、家族ですっ…!」
大地は翻弄されながらも懸命に答えた。最初柔らかかった乳首は、もうふたつとも固くなっている。
「ほぅ…そこの施設長に売られたんだな…」
尋ねておきながら、ナブーはあらかた大地がここに来た経緯を中村から聞いていたようだ。ふんふんとうなずきながらも熱心に乳首を弄るのを忘れていない。
「ぅっ…ふぅんっ」
大地は『はい』と答えようとするが、ビン、ビンと乳首を強く弾かれているため喘ぎ声にしかならなかった。
「じゃあ一生懸命ここで働いて、施設長に育ててもらった恩返ししないとなァ」
ナブーは大地のうなじに鼻を当てて、匂いを嗅いだ。目を瞑ってその香りを堪能している。
そんな風にナブーが何かの行動を新たに起こすと、その度に大地はビクリ、と身をたじろがせた。
ナブーはそんな大地に嗜虐心を刺激されるようで、わざと強く引き寄せたりさらに身体をまさぐり始めている。
「ん〜、まだまだ緊張してるな。リラックス、リラックス」
何本か盆の上に載っている酒瓶を片手で開け、一口仰ぎ飲んでから大地に口づけた。
「っっ!!」
口唇と髭の感触がしたかと思うと、ナブーの口を伝って口中に液体が流し込まれた。
それは香りや味からまぎれもなく酒で、思わず吐き出そうとしたがナブーは大地の口を解放せずにあごを支えてさらに仰向かせる。
大地はその勢いのまま、ゴクリと酒を飲み干してしまった。
ナブーは目的が終わっても少年の柔らかな口唇をはんで、気が済むとゆっくりそこを離れた。
