相変わらず大地の頬は屈辱の涙で濡れている。
その涙を指で掬い取って、ナブーは小さく喉で笑った。
そしておもむろに目の前の障子に腕を伸ばした。
ぶつり、という音とともに、ナブーたちとシャマンを遮る障子に穴が開いた。
シャマンがハッとした時には、穴を開けたその太い指は縦に大きく振り下ろされ、横子の木までもへし折って筆跡通りの細長い穴隙がそこに生じた。
そこから目が離せないでいると、ナブーの声が響いた。
「…大地、この向こうにいるイケメン兄ちゃん、どんな気持ちでそこにいるんだろうな」
シャマンと大地はそれぞれギクリとした。
また何か新しい遊びをこのサディストは思いついたのだ。
「……」
警戒して先ほどの穴を凝視するシャマン。その顔は青白く、汗ばんでいた。
「心配してると見せかけて、オレとお前のセックスで興奮してオナニーしちゃってるかもよ?」
「っ!!!」
ガハハ、という下品な笑い声に続いて、ナブーは自身が開けた穴を覗き込んできた。
その目はまさに、自分をおもちゃ同然に手ひどく犯したあの日あの時のものと同じ狂気を宿らせていた。
「はっ…」
思わず呼吸が乱れてシャマンが後ずさった。
ナブーは一瞬フッと笑った後、困ったような顔をして大地に伝えた。
「あらら違った。真っ青で緊張してたワ。昔オレにヤラれたこと思い出して、ビビっちゃってんだねェ。可哀想に」
「…!!!」
大地はぼんやりした頭でも、シャマンが馬鹿にされたことがわかった。
この男の下劣さが許せなくて大地は叫んだ。
「シャ、シャマンさんを馬鹿にするなっ!!!」
「あぁ?」
ナブーは真顔になり、組み敷いている大地に視線を移す。
「シャマンさんがどんな想いで…っっ…ここにいると思ってるんだ!!」
「……!!!」
シャマンはハッとした。
大地が自分をかばってナブーにたてついている。
この男の怖ろしさを知らない大地の立ち場が悪くなることを怖れて、シャマンは思わず叫んだ。
「いいんだ大地、オレのことはいいんだ!」
「…っシャマンさんっっ」
寝転んでいる大地からはシャマンの姿は見えない。だがシャマンの声を聞いただけで、大地は切な気な様子を見せた。
「おお〜、お熱いこと。妬けちまう」
大地とシャマンの互いをかばう様子に、ナブーは大仰にからかってみせた。
「しかし大地よ、お前も度胸があるなァ。天下のナブー様に突っ込まれてる最中に他の男の名を呼ぶなんて…」
さっきまでニヤニヤしていたのに、そう言うナブーに笑みは浮かんでいなかった。
それどころか、今まで大地が感じたことのないほど怖ろし気な迫力に包まれている。
「――陰間は陰間らしく、黙ってオレらのおもちゃになってりゃいいんだよ…」
「っっ」
ナブーはひるんだ大地を再び激しく揺さぶり始めた。
「ああっ…ああ、痛い、イタァ!!!」
「お仕置きだァ、他の男の名を呼んだ罰だ」
「イヤぁ、あああっ!!!」
「ほーら、もっとオレに抱きついてねェと、障子ごと吹っ飛ばして愛しのシャマンにお前が犯されてるとこ見せちまうぜ?」
「……!!!」
ナブーの腰の動きはすさまじく、大地は耐えきれそうになかった。
大地は目をぎゅっと瞑って苦悶の声を上げる。
「ああっぅ、あぁ、やあああ!!!」
「っっっ」
シャマンは大地の悲鳴を聞いて、思わず膝で立った。
「おいぃシャマンよ、お前がこの部屋に乱入するのは禁止だろ?」
「!!!」
「そんなことしてみろ、このガキこのままハメ殺してやるぞ」
「くっ…」
シャマンは深いため息を吐いた。
自分は結局、大地がどんなひどい目に遭っても、たとえそれが目の前だろうが泣き叫んでいるのを黙って見ているしかないのだ。
この残酷な事態にはいくら冷静で賢明なシャマンでも気が狂いそうだった。
俯いたシャマンにナブーの含み笑いが聞こえた気がした。
「おーああ、めっちゃくちゃ気持ちいい。イクぜ〜〜〜!!」
大地とシャマン、ふたりの様子がナブーの性的な昂りをさらに煽る。
シャマンに良くわかるようにわざと大地を障子まで追いつめて揺さぶった。
その衝撃で障子はガタガタと激しく音を立てて鳴り、大地の声と重なった。
「ああっう、痛、もう、やめ…!」
「ガハハぁ、一緒にイクんだろう、シャマンにふたりがイクとこ聞いてもらおうぜぇぇえ!!」
ナブーの魔羅はピストンを繰り返しながら器用に大地の中を刺激する。
シャマンをビンビンに意識した行動で興奮しきったナブーは、かすれた声で叫んだ。
「名門を…オレのでぐっちょぐちょにすんぜ、すんぜ、ッッッ…おおおおおお!!!!!」
「っああっう!!!」
ナブーに大きく腰を打ちつけられたソコに、真珠のひとつがきつく当たった。
大地は条件反射で射精した。
それとほぼ同時に、どっぷん!と熱いものが菊門の中にほとばしる感覚があった。
ふたりとも放たれるまま精液を存分に放出した。
ナブーは大地より先に快楽の波が引いて、やっと菊門から自身を抜いた。
その拍子に、射精されたものがどろりと出る。
「んっ…」
初めての感覚に大地はなんとも言えぬ声を出し、それにまたナブーは征服欲を刺激されたようで大地に近づいた。
「どうだ、初めてのハメハメは。挿入練習なんてなんの意味もねェことだ、結局こうやって無理矢理突っ込まれんだから」
ここでもシャマンを煽るような言葉を発して、ナブーは放心している大地の脚を開いた。
大地の菊門はやはり傷ついていおり、先ほどのナブーの精液と一緒に少量の血がそこから流れていた。
ナブーは吸い寄せられるようにそこに顔を近づけた。そして傷を癒すように舌を這わせる。
「っっ…!!!」
ぴっちゅ、ぴちゃ、れろぉ〜、れろれろ…と自在にそこを舐めまわすのは、次の行為のためだ。
大地はまたあの魔羅が自分のここに挿し入れられるのかと思うと、恐怖で思わずこぼしてしまった。
「も、もうイヤ…」
「お前がイヤかどうかなんてオレにはいっさい関係ねェ。さっきも言っただろ、陰間は黙って犯されてりゃいいんだ」
大地の股間から顔を上げることなく夢中で舐め続けるナブーに慈悲はなかった。
「…うぅ〜…っく、くひっ…」
「そうそう、嫌なのに男に無理矢理股拡げられて泣いてんのがお前にはお似合いだ」
「っ、うぅぅ…!!」
広縁でシャマンも憔悴していた。
陰間は黙って従っていろ。お前らの意思など爪の先ほどもない。
何度もナブーや中村、また客の男たちに言われ続けた言葉。
いつもならこんなことを口にするヤツらと会ったら激昂しているところだが、今日はそんな気力もなかった。
「ああん、あっ」
「ひひひ、お前菊門舐められるの好きだろ?おちんちんの先からなんか垂れ始めてるぞ」
下品に悦ぶナブーの声を聞きながら、シャマンはただただ運命に翻弄される大地を哀れに想った。
一夜が明けた。
ナブーは気が済むまで大地を堪能した。
大地の名門は不思議と本人の苦痛に反して傷が浅く、その分何度も執拗にナブーがそこを責めてきた。
一度目と同じように時にシャマンを出しに使った嗜虐的な行為を働くこともあれば、純粋に大地の名門を愉しむこともあった。
どちらにしても、ナブーはこの一晩で大いに満足感を得た。
外がうっすら明るくなる午前五時半ごろ、ナブーはひとり目を覚ました。
隣には疲れ果てて横になっている大地がいる。
その顔は泣いて抗ったのにそれでも男に自由にされた悲壮感と、先ほどまで抱かれていた色気が同居しており、なんとも言えぬ魅力を放っていた。
ゆっくりと身を起こしながらナブーは静かにシャマンに語り掛けた。
「…シャマンよ。聞いてるか」
「……」
返事はないがシャマンがこちらの様子からほんの一瞬でも気をそらすはずはないとわかっているナブーは、ぽつりと呟いた。
「この大地…いい陰間じゃねェか。上玉だ。オレはいい買い物をしたな」
名門の具合の良さ、嗜虐心をそそる反応や表情。
それに加えてシャマンとは互いに気遣う仲であるということ。
ナブーにとってどんな陰間よりも愉しめる要素が揃っていた。
シャマンはもちろんそんなことに答える気もなく黙っていた。
「フッ」
当然ナブーもシャマンが何も言わないとわかっており、思った通りの反応に小さく笑った。
それからナブーはシャワーを浴びて、部下に声を掛けて身支度を終えた。
中村の出迎えでそのまま手下たちを引き連れ、離れから出て行った。
中村は様子を見に座敷に上がっては来たものの、布団に力なく寝ている大地を一瞥しただけで特別声を掛けなかった。
事後のケアを昨夜シャマンに申しつけていたため、ナブーとともに消えた。
シャマンは男たちの気配が完全に消えると、そっと広縁から出て大地の元へ向かった。
大地は布団にぐったりと横になっていた。
目は閉じられており、規則的な息をしているところを見ると眠っているのだろう。
頬は涙の跡が残り、身体中に精液やローションがべったりとついていた。
そして寝転ぶ布団には、激しい行為を物語るいくつもの大きな皺ができている。
そこにもローションや精液が垂れており、ところどころに少量の血の跡があった。
シャマンはじっと大地を見下ろしていたが、やがて静かに膝から崩れ落ちた。
これは九年前の自分の姿だ。
ナブーにいいように凌辱された自分の姿。
震える手で大地の頬に手を添える。
その頬の前にある、力なく投げ出された小さな手。
この手は昨日、オレを求めていた。
状況が変えられないとわかっていても、それでもオレの優しさを求めていた。
そうだと知っておきながらオレは何もしなかった。
この手にオレの手を添えるだけで、それだけで良かったのに。
それだけでこいつはひと時だけでも救われただろうに。
求められた時に応えてやることができなかったくせに、今さら慰めようとしてもなんにもならない。
そんなどうしようもない自分なのに、大地はかばった。
ナブーの報復などいっさい顧みることなくかばったのだ。
大地の健気さに、そして哀れさに、シャマンの胸が強烈に痛んだ。
頬を何度か撫でながら、シャマンはそれ以上何も言えなかった。
