百華煉獄130
「おやおや、夫婦心中に及んだとは」
 ナオコに呼び掛けるシャマンの耳に、冷たく通る声が響いた。

「っ…!」
 そちらを見ると、部屋の惨状を目にして幾分驚いたような顔をする男がいた。
 驚いたとはいっても想定範囲内だったようで、むしろ現状を歓迎している様子だった。
 計画上この行為に及ぶことは予想がついていた印象を受けた。


 今ナオコが教えてくれた、紅屋をのっとった中村。こいつに違いなかった。
 紅屋の外廊下で会って以来対面することはなかったが、この中村が現れてから紅屋はおかしくなった。
 シャマンがあの時本能で察知した通り、こいつは紅屋にとって最大級の危険人物だったのだ。

 シャマンは中村を睨んだ。
 細かい事情は良くわからないが、紅屋を破滅に導き、シャマンにとって何よりも大切な姉を死に追いやったのは、この男に他ならない。
 生まれて初めて、人を憎いと思った。


 そんなシャマンを見て、中村はせせら笑った。
「最愛の姉が死んで、どうだ、悲しいか?」
「…貴様…!」
「ハッ、ガキが一丁前にお怒りだ」
「…!!」
 シャマンは中村に躍りかかった。
 だが中村はシャマンの身を制して捕らえ、そのあごを上向かせた。

「天涯孤独になったお前はまだ十歳だったな。ひとりでは生きられまい。保護者が必要だ」
 にんまりと笑って、中村は告げた。
「今日から私が、お前の保護者になってやろう」
「!!??」
 シャマンは目を見開いて中村の顔を見た。

「ありがたいと思え。本来ならそこらのドブ川にでも放り捨てるところだが、せっかくのこの美貌だ。お前にはこれから中村屋の華々しいスタートに大いに
役立ってもらわねばならん」
 くく、と中村は狡猾に微笑む。
「中村屋だと…?」
「紅屋はただの旅館だったが、私が今後経営する中村屋は、陰間茶屋だ。中村屋はゆくゆくは街すべてが陰間茶屋になったネオ芳町の一番の名店になる。
有力者の少年愛者たちが集う、唯一無二の最高級陰間茶屋だ。喜べ、お前は中村屋の記念すべき陰間第一号にしてやろう」


「……?」
 中村の言うことが理解できない。
 かげまとは。
 かげま茶屋とは。
 わけがわからないが、姉を死に追いやったこの男の保護の下生きていくのなど、絶対に嫌だった。

「…お前の言ってること、良くわかんないけど…そんなの、まっぴらごめんだ…!!」
 あごを掴まれてもなお睨みつけるシャマンに、中村は冷酷な瞳で言い放った。
「お前に拒否権などない。まっぴらごめんでもなんでも、お前は陰間として生きていくことになるのだ」
「……!」

 一歩も譲らない中村の視線は、人の情けなど宿る隙のない悪の塊そのものだった。
 意地で睨み続けるシャマンだが、この男からはどんな手を使ってでも自分の願望を叶えてやるという執念を感じて、背筋が寒くなった。


 その時突然、中村の後ろの障子からスキンヘッドの大男が大広間に入ってきた。
「おう、このガキか」
 大男は土足でズカズカと下品な足音を立てながら、中村の隣に来てシャマンを見た。
「ああ、こいつ…シャマンという。生意気だが美しい子どもだろう?これなら中村屋の名に恥じない陰間になってくれることだろう」

 中村はシャマンのあごを捕らえたまま、大男に良く見えるようにシャマンを示す。
 スキンヘッドの大男はシャマンの顔を覗き込んでまじまじと見た。
「っ……」
 シャマンから見てもこの男の威圧感はすさまじかった。

 妙な連中が出入りしていたが、こいつがその親玉であろうことは違いなかった。
 明らかに社会の中でダークサイドの極みに位置する人間だということも。


「ふむ」
 何を納得したのかわからないが大男は小さくうなずいた。
 そしてシャマンの横に倒れているナオコと、その向こうにいる秀人をちらりと一瞥する。
「見事におっちんじまったなァ。天涯孤独になったお前は、今後中村の下で男に身体を売って生きていくんだ」

「!?」
 『男に身体を売る』?なんの話だろう。
 中村が保護者。
 身体を売る。
 それが、先ほど中村が言っていた『かげま』というもののことなのだろうか。
 こいつらが何を言っているか、ナオコが死んで混乱する幼いシャマンは理解不能だった。


「さァナブー、まだ店は未完成だが、今この時から中村屋の営業開始だ。もちろん、今までの協力の謝礼でお代は頂戴しない。…シャマンをどうぞ、お好きなように」
「…ひひ」
 中村の誘いの言葉に、ナブーと呼ばれた大男は口唇を歪めていやらしく笑った。


 状況が理解できないシャマンを中村から受け取って、ナブーは言った。
「じゃァ、お言葉に甘えまして。中村屋の陰間第一号の味見ができるたァ、光栄の極みだ」
「っ!!!」
 ナブーはいとも簡単に、シャマンの着ている着物を剥いだ。

「なっ…やめ…!」
 裸にされたシャマンが叫ぶと、ナブーはその頬を分厚く大きな手でバチンとぶった。
 小さな子どもの身体はその衝撃に耐えきれず、ナオコや秀人が倒れている畳の上に同じようにひっくり返った。
「くくっ…」
 中村は小気味良さそうに笑って、その様子を見ている。

「色白でキメの細かい肌じゃねェか。こりゃこんなことに巻き込まれなくとも、陰間になるのは時間の問題だったな」
 殴られて朦朧としているシャマンをナブーは見下ろして、のっそりとその裸体に乗り上げる。
「ぐふ、初めてのお客様を充分に愉しませてくれよ」
 首筋に吸いつかれて、シャマンは意識をはっきりとさせて暴れた。
「嫌だ、やめろォ!!」
「まだぶたれてェのかお前は。失神させてやろーか」
「っ!」
 目の前ですごまれて、シャマンはその迫力に凍りついた。
 はっきりと大人の男の暴力が怖ろしいと感じた。

「なァんつってなァー、テイコーしてくれる方がオレ好みなんだけどな。ちょっとビビらせてみたくってよ。あー本気で怖がらしちまったな、すまんすまん」
 固まってしまったシャマンを見て、ナブーは笑った。


 青い顔で口唇を震わせるシャマンをゆっくりと舐めるように、上から下まで視線を走らせる。
 恐怖でひくひくとわななく薄い胸で、薄桃の小さな突起が妖艶にナブーを誘う。
 べろぉ、とそこにいやらしく舌を這わされて、シャマンは肩をすくめた。
「ぅ、っ…」
 右はれろれろ、と舐めながら、左は指でつまんでくりくりとこねる。
 ナブーは初めて男を知るシャマンを味わうように、時間をかけてそこを攻めた。

「んん…く、ふ…」
 シャマンはその愛撫にたまらず喘いだ。
 胸に触れられるなど、これじゃ女じゃないか。オレは男なんだ。
 でも、なんとも言えない気持ちになって、声が出る。
 なんでだよ、ちくしょう。

 怖がっているのに、男に可愛がられて頬を赤らめるシャマンの戸惑いが伝わってきて、その両の突起をいたぶってナブーは悦んだ。
「可愛いピンクのお乳がぷっくり勃ち上がってきたぜ、シャマンよォ」
「っ……」
「ますます舐めやすくしてくれてありがとな」
 そう言ってじゅじゅっ!と大きく音を立ててナブーは再び乳首を強く吸った。
「あ、んあっ!」
 シャマンは思わずのけぞった。
 その強い感覚は、彼の下半身にも疼きとなって現れてくる。


 敏感に反応するシャマンを快く思いながら、ナブーは強引に少年の脚を割り開いた。
「おォら、ちんこ見せてみろ」
「っ!!」
「おお〜、お乳と一緒でちんこもおっ勃ってらァ。可愛いねェ」
 ナブーは下品にそう言って、シャマンの背中に太い腕を回した。
 そのまま肩を抱き寄せて、怖れの中で勃起するに至った子どもに口づけを迫る。

「ぅぅん!」
 シャマンは巨躯にすっぽりと包まれ、その上すごい力で動きを封じ込められ拒絶できなかった。
 少年の薄い口唇を割り、いやらしくその口腔内に侵入した舌は、逃げ惑う柔らかい舌を面白がって弄ぶ。
 また口の周りに生えているひげたちが、もさもさとシャマンの口元に触れる。
 シャマンは気持ち悪くて仕方がなかった。