「ふむ…」
初めて大人の指を挿れられて身をよじる大地。
その菊門の感触を確かめながら、中村は何か思うところがあるようでひとり小さくうなずいた。
「どうしやした?」
身体検査でこんな風に考え込む主人を見たことがない。角刈りの男は不思議そうな面持ちで中村に問うた。
中村はじっと大地の顔を見つめ、細い目をさらに細めて笑った。
「この子の中…こりゃあ中村屋始まって以来の名門かもしれないぞ」
「ええっ!!」
「ご主人、そりゃ本当ですかい!?」
ふたりのいかつい男たちが一気に色めき立つ。
名門。
男同士が性交するにあたって、男性器を受け入れる側の菊門の具合がとびきりいいもののことをそう呼ぶ。
この中村屋では創業から何百名もの上質な陰間を育成・輩出してきたが、オーナーの中村がそう認める少年はいまだゼロだったのだ。
「………」
シャマンの鼓動がドクン、と嫌な音を立てて跳ね上がった。
ネオ芳町だけでなく、陰間茶屋街すべてにおいてトップに君臨する中村屋のオーナー。雇う子どもがいかに金になるか見極める才能はずば抜けている。
そんな男から今ありありと、この大地という少年が手中に入った歓びが伝わってくる。
大地は今後、中村に商品として売り込む方法を熱心に練られるだろう。それはきっと他の陰間に比べてより過酷な道を歩むことになる。
シャマンは己の無力さに下口唇を噛んだ。
「え、え、ご主人、名門ってどんな感じなんですかい?」
「中のどこがどういう風で、名門の診断が下りたんで?」
商品の品定めにおいてもエキスパートである中村が初めて名門と認めた少年。
角刈りの男もスキンヘッドの男も早くその詳細が知りたくて、中村をせっついた。
「ふふ、まァ落ち着け」
中村もまれに見る名門を持つ少年を見つけられたことに上機嫌で、ふたりの男を笑顔でいさめた。
大地はなんだか大人たちが自分の脚の間で盛り上がっているのはわかっていたが、それがどんなことであるのか当然わからず、挿れられた指に
身体を強張らせている。
「大地くん、力を抜いて」
中村にそう言われても痛くて痛くてたまらず、脱力などできなかった。
「相当狭くはあるが、中はしっとりとしていて私の指に吸いついてくるんだ。この狭さが難と言えば難だが、それゆえにもっちりと纏わりついてくる。
それでいてふわりとした…と言うんだろうか、やわらかく指全体を包んでくれる。その相反するなんとも言えない感触が素晴らしい」
うっとりとした口調で、大地の菊門の具合を説明する中村。
大地の身体を押さえている男らも、紅潮した顔で涎を垂らさんばかりにそれに聞き入っている。
「しかし狭いな。このあたり…入り口近くを拡げてみないことには奥に入らん」
中村はひとりごちて大地に挿入した指を軽く曲げ、ぐりぐりと動かして内部を拡張してみた。
「ひっ…!いやぁっ痛いぃ!!!」
大地の身体がびくりと跳ねる。
「おーおー、痛かったねー」
スキンヘッドの男は大地を押さえながら、なだめるようにその髪を撫でた。
「うぅん、ひっ…ぅ、ひくっ…」
恐怖と痛みで泣く大地を見て角刈りの男はぐびりと喉を鳴らした。
スキンヘッドの男も同様だった。この子ども自身は知らないだろうが、男を悦ばす名門の持ち主なのだ。
大地を見つめるふたりの男の瞳はますます色を帯びてきた。
「ご主人様…この子、実にイイ顔しやすねェ」
角刈りの男の言葉に、スキンヘッドの男は鼻息を荒くしながら震える声で同調した。
「ホント、こっちのS心をくすぐるって言うか…元気で可愛い子ゆえにこんなに泣いちゃうとさ、泣かせたことの罪悪感にも興奮するっちゅうか…
すんげぇエッチな身体だってーのに本人はそれ知らないし…」
中村はふたりの発言を聞いて大地の顔をじっくりと眺める。
屈強な男たちに自由を奪われた少年は、閉じた瞳から伸びる長いまつげを涙で濡らし、震える口唇を小さく噛んで痛みに耐えている。
中村はニヤリと頬を緩めた。
「そうだな…うちの顧客様には嗜虐趣味の方が多い上に、皆すこぶる金払いがいい。加えてこの名門…こりゃあこの先、相当な額を稼いでくれるだろうな…」
大地は中村の言っていることが良く理解できなかった。
押さえつけられこんなことをされて、思考が混乱していた。
「もう少し中の具合が知りたいな。よし、体勢を変えよう。うつ伏せにしてくれ」
中村の指示で男たちは大地を押さえつけていた腕を放した。
続いて、入っていた指がお尻から退く。
シャマンは同時に大地の菊門を照らしていたペンライトを消し、その場所から一歩退いた。
ペンライトを握る手には力が込められ、わなわなと震えていた。
大地は回らない頭で解放されたことと挿入が終わったことにホッとしたが、次の瞬間、再び刺青の入った角刈りの男の太い腕に捕らわれて、
椅子から無理矢理身を起こされた。
「うつ伏せね〜、たぶん指挿れられたらまた暴れるだろうから、オレがしっかり押さえときまーす」
喜々とした様子でそう言うと、角刈りの男は大地を正面から抱きしめた。
「っっ…!」
驚く大地に構わず、角刈りの男はそのまま椅子に身を横たえた。自然と大地はうつ伏せの状態で男に乗り上げ、ともに寝転ぶことにになる。
「へへェ、怖けりゃそのままオレに抱きついてりゃいいからな。ほれ」
そう言って自分のタンクトップに大地の顔を密着させて喜んでいる。もう片方の手は、大地の片脚を自身に跨らせるようにして強引に開こうとした。
「やっ、いやっ!!」
うつ伏せでそんな体勢を取らされれば、先ほどと同じく男たちにお尻が丸見えになってしまう。
また菊門に何かをされるのはごめんだと、大地は必死で身をよじるものの、角刈りの男の力の前ではそれも無駄な徒労に終わる。
「くそー、アカベコめェ」
スキンヘッドの男は、大地と密着できる役にちゃっかり着いた角刈りの男を恨めしげに睨みつつ、少年のもう片方の可憐な脚を拡げるため椅子の横に立つ。
「げへへ、まっちろくてま〜ん丸なおちりが良〜く見えまちゅよ〜大地くぅん♪」
「っ…」
ふたりの男によってうつ伏せで開脚させられた大地は、スキンヘッドの男の言葉に恥ずかしくて死にそうだった。
「おちりの穴も〜。あーさっきのローションが光ってる、エロ〜。ひひへへ」
スキンヘッドの男は大地の菊門がよく見えるように、片側のお尻の肉を割り開く。
「やぁ…!」
のけぞって抵抗しようとしてもどうすることもできない。その瞬間、強い力で抱きしめてくる角刈りの男が何やら妙な動きをし始めた。
「……?」
大地の身体が揺れている。角刈りの男が下からぐこぐこと腰を動かしているのだ。
この男は、スキンヘッドの男が触れていない方の尻の丸みを掴んでいる。そのまま大地の腰全体を自身の股間に強く押しつけているため、
ふたりの下半身は密着していた。
先ほどからそこにぐりぐりと硬い感触があるなと思ってはいた大地だったが、その硬いモノは大地のお尻の割れ目に現れてそこに擦りつけられている
ような感じがする。
何をしているのかわからず戸惑って角刈りの男を見ると、目が合った。
「はぁ、はぁ…」
口元から涎を垂らして、熱に浮かされたような顔で大地を見ている。
大地が自分を見たことに気づいた角刈りの男は、すぐさま大地の頬に手を伸ばしてそこを撫でた。
「!!」
そのいやらしい動きに大地は言いようのない恐怖に捕らわれ、ゾッとした。
否応なく、慌てて男の黒いタンクトップに顔を伏せた。男は構わず大地の小さい頭を続けて撫でた。
「っぁー…きもっちぃー…大地くんの柔らかいちんちんの感触も伝わってきて、たまんねぇ」
「くそ、代われそこ」
スキンヘッドの男は、大地の身体に密着して腰を動かす角刈りの男がうらやましくて仕方ないようだ。ひとりでイイ思いをしている相手が忌々しくて、
口唇を尖らせる。
しかしこの快感の前ではそんなものあってないがごとくで、角刈りの男は無心に大地の身体を貪った。
「あぁ、はぁ…あー…」
「ここがお宝名門の入り口なんだなぁ〜ああ〜…」
スキンヘッドの男は男で、鼻息荒く大地の菊門を眺めている。間近に迫って顔をうずめそうな勢いだった。
「……!!!」
黙って大地たちを見ていたシャマンだったが、男たちの勝手な行動にわなわなと身を震わせていた。
そんな様子のシャマンに気づいていた中村は、薄く笑って大地たちに近づいていった。
「お遊びはそこまでだ。それぞれ菊門から離れろ」
中村は男たちを牽制して、増長を収める。
しかし強烈な快楽に捕らわれた角刈りの男は腰の動きの自制が効かないらしく、そのまま大地の菊門に勃起した魔羅を擦りつけていた。
「おい、やめろ」
中村はぴしゃり、と角刈りの男の内ももを叩いてやめさせた。大地に触れていたズボンの布は大きく張りつめていて、その頂点を中心にじんわりと
濡れていた。
中村は眉間を小さく歪めて、大地の薄い腰に手を掛ける。そして晒されたピンクの菊門に直接ローションを垂らした。
「んん!」
またもや突然の冷たい感覚に、背中を震わせて強張る大地。中村は粘り気の多い液体に覆われた幼い菊門にそぅっと中指を添わせる。
何も言わずに、じんわりと先を進めていった。
「あ!っァ…!」
大地は再び挿入される痛みと違和感に背中をのけぞらせる。
「やああ、痛ッ…痛いぃ」
じり、じり…と中村の指が大地の中に深く挿入しようとする。大地は強くなる痛みと恐怖に、逃れようと上へずり上がった。
「がーまん我慢。ね?」
「!!!」
逃れた先には、角刈りの男のヤニ下がった下品な笑顔があった。
慰めるように大地の尻をぺちぺちと叩き摘まんで愛撫する男の手。大地は嫌悪で鳥肌が立った。
「こらこら、ご主人が検査してる最中なんだ。離れるな」
スキンヘッドの男は、先ほどから役得とばかり調子に乗っている角刈りの男への嫉妬も手伝って、乱暴に大地の腰を掴んで中村の方へ引き戻す。
その拍子に中村の中指が一気に奥に進んで、大地は悲鳴を上げた。
「ひぐぅ!!!」
痛い。痛い。痛い。
痛くて恥ずかしくて怖くて、大地はぽろぽろとこぼれる大粒の涙を止めることができなかった。
「うーん、角度を変えてもやはりキツさは変わらない。これは相当な準備が必要かもしれん」
中村は自身の指の動きに合わせてびく、びくと、敏感に身を震わせる大地の背中を難しい表情で見下ろしながら言った。
「ふぇー、そんなにですかい」
スキンヘッドの男は、指一本の挿入にこれほど手こずる主人に驚いた。
「ああ。でも見た範囲はすべて絶妙な吸いつきと包み込みで、ここに魔羅を収めたらどんな遊び人でも皆たちまち虜になるだろう。名門には違いない。
相当な準備はいるが、その分相当な顧客がつくだろう」
「へぇぇ、そいつぁ期待大ですね!」
逸材を雇えるということは、自らの野心を満たす強力な手ごまになってくれるということだ。中村は沸き起こる笑いを押さえられなかった。
「っ…うぅ、ん…んく、んっ…」
しゃくりあげながら恥ずかしさと痛みに耐えている大地。
中村は挿入していた指をそっと引き抜いた。
「っ…」
大地はその刺激に肩をすくませて身を強張らせた。
だが中村の指がそこからやっと退いてくれて、ホッとした。
角刈りの男は『身体検査』が終わっても大地と離れがたいようで、抱きしめる太い腕をほどこうとはしなかった。
だが、大地はこの男と密着していることが耐え難かったため、身を起こして椅子から飛び降りた。
立ち上がってみて初めて気づいたのだが、その脚は恐怖で震えていた。止めようと思っても止まらなかった。
「おーい大地くん、お尻の穴キレイにするぞー。お尻をこっちに向けて」
スキンヘッドの男がウェットティッシュの箱を片手にこちらに近づいてくる。大地はまたお尻に何かをされると警戒して身構えた。
「違う違う、拭くだけ拭くだけ〜」
「っひ…!」
かがんで大地の腰を掴み、力任せに向こうを向かせてお尻を割り開いた。
そして大地のアナル周辺についたローションをウェットティッシュで拭き取り始める。
拭くだけ、と言う割りには大地のお尻を覗き込んで息を荒げて熱心にその作業をしているように感じたが、大地はおとなしく身を任せた。
スキンヘッドの男は、大地のお尻の両方の肉を揉むというしなくてもいいだろう仕上げをして、やっと立ち上がった。
彼は上から挿入の一部始終を見ていて興奮が収まらないようで、たまらず大地に寄り添った。
「痛かったねェ、もう大丈夫だからね」
角刈りの男同様、頬に手を添わせて間近で微笑む男に妙な迫力を感じて怖かった。
しかし二度の挿入後に『もう大丈夫だから』と言われると、やっと安心した大地は思わずうなずいた。
その素直な様子に、屈強な男たちはデレデレと鼻の下を伸ばしている。
「大地くん、もう検査は済んだよ。着物を着なさい」
大地は椅子の横にある棚に掛けられていた着物とふんどしに手を伸ばした。
拭いてもらったものの菊門の中にはぬるぬると濡れたような感触があり、気持ち悪い。
また、じんじんと痛む感覚がまだ少し残っている。
着物を着ている様子を中村と筋肉隆々の男たちが黙って見守っている。
シャマンは再び襖の前に遠く移動していた。
誰も話さないので、なんとなく恥ずかしくて気まずい。
大地は検査が終わったので一番聞きたかったことを中村に尋ねた。
「あ、あの…これってなんの検査だっ…」
「また後で言うよ」
中村は大地の質問を最後まで聞かずに答えた。
まただ。
その先を大地に教えることを、なんのためかはわからないが中村は明らかに先延ばしにしている。
今の検査はどう考えても普通じゃない。
茶屋で働くことと今の検査がどうにも結びつかず、また見当がつかないために恐怖が生じている大地は食い下がった。
「でも、さっきは検査が終わったら説明するって言ったじゃ…」
そこまで言って、大地はハッとして言葉を切った。
自分を見つめる中村の目。
ゾッとするほど冷たかった。
大地を捕らえる視線は『これ以上口答えするな』と物語っていた。
異様な迫力を持つ威圧的な瞳が怖ろしかった。
その上、絶対的な上下の関係を思い知らされた気がして、大地は言葉を飲み込んだ。
大地がたじろいで静かになったのを見て、中村は口を開いた。
「…今から、実際の仕事現場を見てもらう。その方がここで説明するよりもわかりやすいだろうから」
ぽん、と大地の肩に手をやり、少しかがんで子ども目線になる。
そしてにっこりと微笑んだ。
「君の先輩たちが実際どんな風に働いているか、君自身の目で見るのが一番だと思ったんだよ。不安にさせてすまないな」
「い、いえ…」
細い目をなお細めて、大地の顔の間近で笑う中村。
首を振って答えたものの、先ほど一瞬見せた様子とのあまりの変わりように、大地は言いようのない怖ろしさを感じた。
「じゃあ今から茶屋へ向かおう」
肩に置いた手をぐっと引き寄せ、中村は歩き出した。
着物をまだ完全に着ていなかった大地は、慌てて前を合わせながらともに歩いていく。
背中に回された手は大地をぐいぐいと押して早く歩くこと急かすが、着ながらという上に裾を踏んでしまいそうで、なかなかうまく歩けないでいた。
中村はそんな大地を見て、襖の前にいるシャマンを確認し声を掛けた。
「シャマン、着つけてやれ」
「……」
中村の命にシャマンは無言で従った。大地の前に膝を折り、着物を着つけ始める。
間近に迫ったシャマンの顔。
表情は相変わらず硬いままだった。
伏し目がちになっている切れ長な瞳に沿って、色素の薄いまつげが頬へと淡い影を落とす。
その瞳は大地の着物を着せる自身の手を見つめていた。
何を考えているのかわからないが、大地はシャマンを見下ろしながら少しホッとしていた。
(シャマンさんが傍にいてくれると、中村さんや他の人が怖くても、少し安心する…)
自然と視線が和らぐ。
緊張の中、大地が安らぎに包まれていくのを、中村は隣でしっかりと感じ取っていた。
シャマンは慣れた手つきであっという間に見目よく着つけてくれた。
「ありがとう」
大地が礼を言うと、シャマンは何も言わずにすっと立ち上がった。
顔やスタイルだけではなく、身のこなしも美しいこの男を自然に目で追ってしまう。
大地は自分がシャマンに見惚れていたことに気づいて赤くなった。
「よし、では行こう。さっきみたいな恰好で出て行ったら、お客様が驚いてしまうな」
おどけた様子で中村は語り掛けたが、大地は『お客様』と聞いてドキリとした。
さらに緊張する大地に中村は笑う。
「そんなに縮こまることはないよ。先方様には新人が見学しに行くと前もってお伝えしているから」
「は、はい」
そう答えるものの、仕事内容がわからないのでそこにはやはり不安がつきまとう。
「大丈夫、大丈夫」
中村は大地の背中をトントンと叩いて、歩くことを勧める。
そして襖を開けるシャマンに告げた。
「お前も同行しろ」
「…っ…」
シャマンはピクリと小さく身じろぎして、返事をせずに中村を見つめた。
中村も同じようにシャマンを見返す。
先ほどのゴミ集積場の時のように、ふたりは静かに対峙した。
中村は張りつめる空気を打ち破るように、フッと鼻で笑った。
「来い」
断るなど最初から選択にはないかのように、鋭く命じて中村は歩き出した。
シャマンがともにいてくれることは、大地にいくばくかの安心感を与えてくれた。
あの恥ずかしくて良くわからない検査を経なければならない仕事とはいったいなんなのか。
その全貌が今から明らかになるんだ。
大地の鼓動は早まる一方だった。