百華煉獄35
 先に練習している二組よりもだいぶん離れた広い庭に面した窓の傍で、シャマンは止まった。

「ふんどし取って…座れ」
 どことなく不機嫌そうなシャマンにそう言われて、大地は黙って従った。
 意地悪にからかわれていたとはいえ、さっきまでは笑顔を見せてくれていたのに。
 角刈りの男と少年を見てからいきなりこうなったのはなんでなんだろう。
(また『なんで』か…)
 大地はほどけたふんどしを着物の裾から取り出しながら、シャマンに対して何度目になるかわからない疑問を抱いてしまったことが
少し可笑しかった。

 接触する機会が増えれば増えるほど、それと同時に『なんで』も増える。『シャマン』と『なんで』は必ず一緒、セットだった。
(『セット』か…なんか、ファストフードのメニューみたい)
 そう思うと謎は深まるもののさらに可笑しかった。


 謎多き当の本人は先に座って、屋外に出られる大きな窓の外を見ている。
 話し掛けにくかったが、大地は他に練習している見習いたちを見て同じようにした方がいいのかと思い質問した。
「着物は脱ぐの?」
「いや、いい。だが苦しいかもしれないから、帯だけははずしておいた方がいいな」
「え…他の子は全部脱いでるよ?」
「不必要に脱がなくていい」
「……」
 大地はそれを聞いて帯だけといてそのまま座った。

(不必要にって…じゃああの子らはなんで裸になってんだろ)
 そう思いながら体育座りしていると、シャマンは少し表情を和らげて再び大地に指示した。
「横になって楽にしていろ」
「はい…」
 窓側が頭になるように寝転ぶと、スコンと晴れた空が見えてまぶしかった。
 数羽の雀らしき影が、鳴き声を上げなら青空を切り分けるように鋭く横切る。そののどかな光景に少し緊張がとけたような気がした。


 空を仰ぎ見ている大地を見下ろしながらシャマンが一言告げた。
「逆。頭はこっちだ」
「え?」
 大地が首を上げると、シャマンは親指で窓ではなく部屋側を示している。
「今の方が眺めはいいだろうが、そっち向きだと具合が悪い」
「……」
 どういう意味なのかわかりかねた大地だったが、何も言わずにシャマンの言うことに従った。


 頭を部屋側にして横になる大地に、シャマンは無言でそっと寄り添うように寝転ぶ。
 大地がそれに気づいて何気なくシャマンの方を見ると、その美しい顔が目の前にあったので驚いてしまった。
「っ!!」
 大地は顔を赤らめて飛びのいた。

「そんなに離れちゃなんの練習にもならないだろうが」
 シャマンは寝転んだまま、呆れたように言った。
「……」
 大地はおとなしくシャマンに寄り添った。
(こ、こんな間近で練習するなんて…お風呂入ってて良かった…!!)
 とっさにそう思って、シャマンに変に思われたくない気持ちが自分の中にあるのだとはっきり自覚してしまい、なおさら意識してしまう。
 恥ずかしくて、ものすごくドキドキする。落ち着かない。
 シャマンの方を見られなかった。


 シャマンはそんな大地を気にせず、部屋の片隅に置いてあった毛布を引っ張り寄せて、少年の下半身にかぶせた。
 そこにすっと腕を差し込み、大地の着物の裾から手を侵入させる。
「まずはじめに、菊門の状態を指で確認させてくれ」
「っ…」
 大地に緊張が走る。身体検査の際に味わわされた痛み、また小泉に触られた時の嫌悪感がたちまち襲ってきた。
「少し触れるだけだ。痛くはないから安心しろ」
 シャマンは大地の耳元で囁いた。
 そして、安心させるようにその肩を抱き寄せた。

 シャマンの指が大地の菊門に触れた。
「っ、」
 大地の身体がぴくん、と揺れる。

 シャマンはまず、菊門を中指の腹で捕らえ、そこを軸としてやんわりと縁を描いていく。
 くにくに、くにくに、と丁寧に、指の腹自体はあまり動かさず、関節の動きの作用で菊門の様子を探っているようだ。
「…っ…んっ」
 むずむずするような感覚が下半身に走り、大地は思わず声が出た。
 そのことに自分で驚いて、羞恥のあまり傍にあるであろうシャマンの面前から遠ざかろうと顔を背けた。

 そんなことには一切関心がないかのように、シャマンは表情を変えず触診を続けている。
 シャマンは次に、菊門のしわに添ってゆっくりと外側に向かい揉みほぐした。
 それが済むと、今度は逆に外側から菊門の中心へと指を動かす。
 そして真ん中へと辿りつくたびに、少し圧力をかけるということを繰り返した。


 その手つきがなんとも言えず、むずがゆさと切ない感覚が増した大地は、腰全体を自然にピク、ピクと震わせた。
「〜〜――っ、うふぅ、んんっ」
 どうしても漏れ出てしまう声。
 恥ずかしいので歯を食いしばって耐えようとするが抑えられない。大地は腕で口全体を覆った。


 シャマンはしばらくその行為を続けて、小さく呟いた。
「…ふむ。お前は検査でも言われていたように、なかなかに頑なな菊門の持ち主のようだ。時間をかけてほぐしていかなきゃならんらしい」
 そして起き上がり、袖から小さな容器を取り出した。
 その中に入っている粘り気のある透明の液体を掌に垂らし始める。
 その後、大地の下半身に掛けてあった毛布をバッと大きくめくって、そこにあった小さくて細い脚を割り開いた。

「わっ!!」
 大地は突然そんなことをされて、ぎょっとして上半身を起き上がらせた。
 羞恥のため拡げられた膝を慌てて閉じようとしたが、シャマンは身体全体を割り入れてきてそれを阻み、許さなかった。


 大地の脚の間を陣取ったまま、シャマンは掌の液体を指ですくい取って、幼い菊門に塗布した。
「っ」
 敏感な部分にひやりとした感覚が走って、大地は思わず身を丸めた。
「これはローションだ。潤滑剤とも言う。昨日の身体検査でも使用しただろう」
 そう言いながら、シャマンは大地の菊門に視線をとどめたまま、くすぐるように表面に塗布している。大地は身をよじった。
「ぅ、ふぅ」
 しばし耐えていたが、そのうち身を起こしていられなくなって再び畳に背中をつけることになった。
「あ…、あっ!」
「男同士で性行為を行う上で、こいつは必要不可欠なものだ。ちゃんとまぶしておけば、抵抗が少なくなって異物をすんなり受け入れやすくなる。
たっぷり塗るぞ」
 シャマンはさらに掌にローションを出して、自身の指にまぶした。

 大地はなんとか薄目を開けてシャマンを見てみる。
 ローションを扱う手つきは手慣れており、細く長い指がぬらりと光る様は大地の目にエロティックに映った。
 シャマンは美しい指に絡むローションを、大地の菊門に塗り続ける。
 たまに、自分の脚の間からぴちゃ、ちゅ、という音が静かに響くのがわかる。
 性的知識がほぼない大地にとっても、そのことは本能的にいやらしいものだと認識された。


 シャマンが自分の菊門を見つめ、そこに触れていると思うと大地は恥ずかしくてたまらなかった。
「んん、ん…んぅ」
 シャマンの指が動くたびに大地は敏感に身体を小さく震わせた。
 表面が柔らかくなったと感じると、シャマンは再び大地の下半身に毛布を掛け直した。
 そして、大地の菊門の中心を捕らえた。
「ではまず…指一本から挿れるぞ」
 シャマンの言葉に、大地はぐっと身体を強張らせた。

 シャマンはそのことに気づきながらあえてなんの反応もせず、ゆっくりと薬指を大地の中に埋めていく。
「…ぁ…!」
 閉ざされた菊門に、ぐにり、と異物が侵入してくる感覚。
 大地はすぐに襲ってくるであろう痛みを覚悟するように、肩をすくめて目をぎゅっと閉じた。
 シャマンはじわりじわりと指を進めていく。不思議と、昨日中村に同じことをされた時ほどひどい痛みはなかった。

「くふぅ…」
 しかし痛くないわけではないし、閉ざされた敏感な場所に何かをこじ入れられる恐怖感や不快感は拭えない。
 ミリリと菊門が拡がる感覚に戸惑いつつ、大地はうっすらと目を開けてシャマンの方を見た。
 てっきり菊門を見ていると思っていたのに、彼は大地の下半身全体に掛けてある毛布に視線の先を落としていた。
 見てもいないのに、シャマンの指は大地の菊門の状態を逐一把握し、それに合わせて最大限、無理のないよう気遣いながら侵入している。


「……」
 こういったことは、少年の身体の仕組みやその状態をよく知っているからゆえできる技なのだろうか。
 ペニスの挿入を専門にしているから、長年この仕事をしているからこそできるものなのだろうか。

 大地はふと浮かんだ考えを、いっぱいいっぱいの頭の中でぐるぐる巡らせていた。
 余裕がないものだからそんな良くわからない疑問を抱いていること自体、自分で気づいていなかった。