百華煉獄54
「……」
 シャマンはしばらく大地がもう少し落ち着くのを待った。


 その時ふと、大地とシャマンの様子を窺っていた見習いと教育係の人垣から大きな声が響いた。
「そりゃあんな風に優しくされりゃァ、ガキはだーれだってたちまち夢中になっちまうっつーの。毎度毎度うまいことやりますな〜シャマン様」
 声音と嫉妬心丸出しの内容から察するに、その声の主はアカベコに違いなかった。

(夢中になる、か…)

 シャマンは感じていた。
 これは大地のためにはならないと。
 自分のやっていることはいけないことだと。


 この中村屋内で、陰間でも見習いでもレイプ被害に遭うことは絶対にあってはならないことだ。
 妙な輩が忍び込んでしまわぬよう、多額の費用をかけてセキュリティを強固にしている。
 ゆえに実際に被害に遭ったのは大地が初めてだった。

 その心の傷が元でパニックを起こした子どもが、不安や恐怖から少しでも逃れられるならとこんなことをしている自分。
 が、一時の情を与えてしまうことで子どもがシャマンに依存してしまう懸念がある。

 拓海を始め、少年らがシャマンに特別な感情を抱くことが今までに何度かあった。
 しかしその感情に応えることはできない。

 この子は陰間としてデビューするのだから。
 『お前に今触れているのはオレだ』と言ったところで、実際には小泉やその他不特定多数の客に身体を開かなければならない。
 情をかけてしまうことは、大地を苦しめるだけだ。

 その一方で、レイプされかけた大地が不憫で可哀想だという気持ちも強くあった。
 大地に芽生えた恐怖は生々しくシャマンに伝わってきた。
 それは遠い彼方にあったあの感覚が一気に浮上してくるほど、強烈にシャマンのある部分に共鳴する。

 あんなに怖ろしい目に遭っても、陰間になるために性的経験を積んでいかねばならない。
 それはとても怖くて辛くて、屈辱的なことだろう。
 しかし、やはり同情だけで優しくするのはこんなところで働かざるを得なくなった不安でいっぱいの子どもに誤解を与えるだけだ。

 シャマンは大地の肩を抱きながら、自身の中にある矛盾する気持ちをなぞっていた。


 シャマンと大地がいい感じになった風に見えることは、周りの者にとってこぞっておもしろくないものだった。
 見習いの少年たちは当然、あのシャマンに特別に優しくされて甘えているように見える大地が気に入らない。

 一方、教育係となると嫉妬の対象はシャマンになる。
 大地がパニックになったのをいいことに、彼がそれにつけこむ行動をとったように見えて不愉快だった。
 『すでにモテモテな上に、入ってきたばかりの可愛い新入りからもそんなに好かれたいのかよ』と、アカベコでなくとも皆嫌味のひとつでも
言ってやりたいくらいの心境だった。

 注目していた彼らだったが、そのようなおもしろくない感情も手伝ってこれ以上はもういいとおのおのの練習に戻っていった。


 シャマンは大地の呼吸が戻ったこととギャラリーの解散を確認してから、練習の再開を決めた。
「大地、ではさっきの続きだ。いけるか?」
 声を掛けられて、自分がシャマンの着物の胸元を力いっぱい握りしめていることに気づいた大地は、慌てて手放しながら返事をした。
「ぅ、うん」
「また息が苦しくなったり、気分が悪くなったらすぐに言うんだぞ」
「うん」

 挿入の痛みに対する不安は、正直まだある。
 が、相手は大好きなシャマンなんだ。
 まごまごさせて困らせたくない。大地は意を決して身を委ねた。


 シャマンは菊門を指で少しほぐし直して、寝転んだ体勢のまま大地の脚を開いて正面からペニスを挿入した。
「うぅっん!」
 圧迫感に大地は声を上げた。

 中村が名門と絶賛した大地の菊門の中はすごい反発感だった。入り口のあたりがより狭いようだ。シャマンは指の感覚でそう判断していた。
「…ここが狭いとなると先は長そうだな。少し我慢してろよ」
 そう言うと、シャマンは全体に身体を下げ気味にして、ペニスがより挿入しやすい角度になるよう移動した。
 大地は身を強張らせた。


 ぐぐ…とシャマンのペニスが入ってくる。
 それと同時に、菊門に張り裂けるような痛みが走った。

「!!!!!」

 指とは比べものにならない太さ。
 大地は反射的に力んで呼吸を止めてしまった。
「力を抜くんだ。呼吸の仕方は指の時と同じだ、息を吐け」
 シャマンは大地のしめつけで自身も痛みを感じつつ、大地の呼吸を待つ。
「あぁは、ん、ふぅ…ぅ」
「そうだ、合い間で鼻で息を吸うのも忘れるなよ」
 そう言いながら、シャマンは狭い菊門にゆっくりと先端をうずめていく。

「いッ、いたぁ、痛いぃ」
 大地は受け止めきれない痛みにのけぞる。
「…今日は魔羅の先だけだ。我慢しろ」
「ぅぅん、くぅ…〜〜〜、んん!!!」
 非常に狭い菊門にこのまま挿入し続けるのは体勢的に辛い。
 シャマンはそう判断して身を起こした。
 そして大地の脚の間にまっすぐに陣取る。このほうが挿入をコントロールしやすいからだ。


「あっ…く、い…いた、あっ…はぁ…ふぅ、うぅん」
 大地は習った呼吸を繰り返しながら、シャマンのペニスを迎え入れようと努めた。
 だがペニスの先がじりじりと進むにつれその周囲が太さを増していくのを敏感な菊門が感知して、痛みが激しくなる。

「い、痛いぃ!ん〜んッ」
 大地は挿入を続けるシャマンのペニスを拒もうと、無意識にズリ、と背中で這って上へ逃れようとした。
「逃げるな、耐えろ」
 こういうことに慣れっこのシャマンは容赦なく、逃がすまいと大地を追いかける。
 大地の開いた脚を腰ごと強引に引き寄せた。
 そして起こしていた上半身を折って前かがみになり、大地の背中から回した手で小さな肩を捕らえる。
 そうやって上へ逃げようとする大地の動きを封じ込めてしまった。

「魔羅の頭を全部とは言わないから、半分ぐらいはどうにか納めさせてくれ」
 少しでも挿入に慣れてもらおうと、身動きできなくなった大地にシャマンはぐぐぐ…と分け入っていく。
「あッ!いッィ…いたぁ!」
 菊門に激痛が走った。
 これは大地が生まれてから経験した痛みの中で一番のものだった。

 大地はとっさに、間近にあるシャマンの胸元に顔をうずめた。
 逃げ場がなく、そうすることで少しでも痛みから逃れられるような、そんな気持ちを自覚すらできていないとっさの本能的な行為だった。