シャマンは大地の耐える覚悟を胸元で感じて、何も言わずに挿入を続ける。
「ひっ…!ッッ!……!!!」
(痛い、痛いよぉ…!)
菊門の粘膜がミリミリと少しずつ少しずつ拡がっていくのが激痛とともに感じられる。
シャマンの二の腕辺りの着物もいつの間にか掴んでいて、その手には知らず知らず力が込められて白んでいた。
「…ほら、また息の仕方を忘れてる。だから余計辛いんだ。口から吐いて、鼻で吸う。お前以外の誰もしてくれないことなんだぞ、ちゃんと繰り返せ」
シャマンにそう言われてみても、初めてのペニス挿入でまったく余裕のない大地。
手いっぱいなところにいろいろ言われて辛くなり、泣き声を上げてしまった。
「くひっ…う…うぇぇ…えぇん、うぇぇぇん」
「……」
小さな頭が自身の胸に埋まっている。こんなに小さな身体でいじらしく耐えている。
この子どもはペニスが菊門に当たっただけで恐怖のため過呼吸になっていたのだ、つい先ほどまで。
本当は怖かっただろうに、良くここまで我慢できたものだ。
ちょっときつい言い方をしてしまったが、シャマンの本心は大地のがんばりに感心していた。
シャマンは自身の着物に大地の涙と声が吸い込まれていくのを感じながら、子どもならではの納まりのいい小さな頭を大きな手で抱き寄せて言った。
「よし、魔羅の頭が半分まで納まった。ここからは先に進まないから安心しろ」
「…っっ…」
その言葉に大地は少し安心した。涙をたたえた目に浮かんでいた緊張感が、少し和らぐ。
が、次のシャマンの発言に愕然とした。
「しかし本当にお前の菊門はきついな。この状態で慣らすために…二十分はこのままだ」
「!?」
入って来ないからといって、痛みから解放されたわけではない。それどころか菊門の痛みは増している。
大地は聞き返した。
「ぅぅん、に、二十分?」
「ああ、二十分だ」
「十分じゃなくて?」
「誰が勝手に半分にしろと言った。その倍の二十分だ」
シャマンの答え方に時間を短縮するつもりがいっさいないことを感じて、頭にガーン!と鐘の音が響いた。
「二十分なんて、が…我慢できないよ…うぅぅ、ひくっ」
大地はショックと失望で顔を歪めて再び泣きだした。
「『できない』じゃない、しろ」
すっかり忘れていたが、この言葉で思い出した。
シャマンは優しいがそれはあくまでメンタル面のことで、実技研修の際は容赦がない男なのだ。
「…ふぅ…く、ううぇぇっひん、んっ…ひくっ…せめて十五分…っ」
「ダメだ」
「うっ、ふ…」
泣き続ける大地にシャマンはやれやれとため息をつく。その耳に男たちの会話が聞こえてきた。
「…た、たまんねェなオイ」
「ああ、あの泣き声聞いただけで勃起する…」
シャマンが顔を上げると、アカベコと先ほどはいなかった気がするクロマサがこちらを見ていた。
ふたりとも行っていた練習が終わったようだ。彼らが担当していた見習いはすでに姿を消していた。
クロマサもアカベコも、痛みに泣く大地の姿に性的興奮を煽られているようだった。
シャマンはふたりを睨みつけた。
特に、大地を性的被害に遭わせその恐怖から過呼吸に追い込んだクロマサは許しがたかった。
「モテモテシャマン様が睨んでいらっしゃるぜ。お〜コワ」
「可愛い子泣かせて、あいつ愉しんでんじゃねー?しかもお初名門にちんぽこ挿れやがって、くそ、うらやましい!」
シャマンが視線でとがめても下衆なふたりはからかい気味の口調で肩をすくめるだけで、悪びれる様子はいっさいなかった。
クロマサたちはそのまま喉をグビリと鳴らしながら、色を帯びた視線で泣く大地を見つめている。
男の嗜虐心をそそる反応を見せている大地にシャマンは告げた。
「泣くな」
そう言われても、とにかく痛くて辛くて自然に涙が出てしまうのだ。大地は困惑した。
「だ、だってっ、…ンんっ…痛いんだもんっ」
喘ぎながら不満気に答える大地。その悩ましさに、クロマサが口笛を吹いた。
アカベコのうらやましそうな声が続く。
「ぎゃーあの可哀想な感じが股間にクるね〜!!」
「ああいう時は乳首コリコリしてやるかちんここすってやらないとー、男のコが『痛い、辛い』だけで可哀想だろー。オレだったらしてやるのに、
シャマンのヤツァなんて意地悪なんだ」
シャマンはそれを聞いて忌々しげに眉根を寄せてチッと舌打ちをした。
大地にはまったく余裕がなく、クロマサやアカベコがこちらを見ていることに気づいていない。
ゆえにシャマンが自分に対して苛立ったのかと思い、さらにショックを受けて泣きだした。
「!…ふぅんん、うえぇぇっ」
これだと余計にクロマサたちが悦んでしまう。
シャマンは自分の着ている羽織をさっと脱いで、大地の頭にかぶせた。
「!?」
突然のことに大地はわけがわからなかった。
羽織は大地の頭を包むように雑に掛けられていた。なので別段顔を覆っているわけではなかったので、シャマンの顔は大地から良く見えた。
「これ、な…」
この行動の意味を聞こうとした瞬間、厳しいシャマンの声が響いた。
「痛くっても泣くな!」
「ひくっ…」
シャマンの叱責に身を強張らせて硬直してしまった大地だった。
「おわ、隠れちまったじゃん!」
「なんでェ、ケチくせー!!」
羽織のせいで大地の泣く姿を見られなくなったクロマサたちは、あからさまにシャマンに対し不満を爆発させた。
けっ、と吐き捨て、ふたりはそのまま研修室から出て行った。
シャマンは気をとりなおして大地に説明した。
「お前は知らないだろうが、子どもが『痛いよ怖いよ』って泣き叫んでるのを見て余計興奮するヤツらがこの世には存在するんだ。それも結構な割合で。
子どもを泣かせるためにそういう連中は手ひどい行為に及ぶ。行為そのものもどんどんエスカレートする傾向にある」
「……」
「お前が泣く様子は、中村や教育係の間で『性的興奮を煽る』と評価されている。それがどういうことかというと、お前はデビュー後、手ひどいことを
行う客中心に提供される怖れが出てくるんだ。同じ陰間として客とセックスするにしても、そんな客に気に入られるとお前がより辛い思いをすることに
なるんだぞ」
大地はじっとシャマンの話を聞いていた。
性的嗜好に種類があるなど深く考えたことがなく、今の話に恐怖を覚えた。
「…子どもをセックスの対象にすること自体ひどいことではあるんだが…それでも陰間になった者は皆、手ひどい行為に及ぶ客の相手はできることなら
したくないと口を揃えて言うもんだ」
陰間茶屋の実態を告げるシャマンの顔は辛そうだった。
「練習で泣いていると、そこに目をつけられて中村にいいように利用されるだけだぞ。だから…泣くな」
さっきまで厳しい口調だったのに、シャマンの声音は柔らかかった。
ふ、と少し寂しそうに笑ったかと思うと、それと同時にシャマンの香りがふわりと濃くなった。
きっと頭にかぶせられた羽織から漂ってきたのだろう。
シャマンの優しさそのものに包まれた気がして、大地はまた胸がトクンッ…と苦しくなった。
厳しいのだって、ちゃんと理由がある。
シャマンさんは優しい。
みんなが…オレが勘違いしちゃうくらい、優しいんだよ。
シャマンさん、大好き。
愛しさが最高潮に達し、大地は胸がいっぱいになって視界がにじんだ。
「っ、シャマンさ…ぅくっ」
「おい、泣くなって言ったそばから泣きべそかくんじゃない」
「こ、これは痛くて泣いてんじゃ…アイタ!」
「…どっちだよ」
シャマンは呆れつつ、笑った。
そうやって、いろんな苦難を乗り越えた大地の二十分間の初挿入実習は、なんとか終わった。
