百華煉獄59
『陰間は、お客様にひと時の夢を与える素晴らしい職業です。』


 男性のナレーションが流れる中、画面の中にはひとりの少年がいた。
 年は大地と同じくらいに見えた。色素の薄い色白な少年でそれゆえにこちらに儚い印象を与える。
 髪の色は金にも見えるが良く見ると銀色。
 同じく色素の薄い瞳は黒目がちで、どことなく仔鹿を連想させる。
 たおやかな雰囲気のある、拓海が裸足で逃げ出すほどの美少年だった。

 胸から上が映っているが見えている部分は何も身に着ていなかった。
 彼の後ろはというと、深い赤がくすんだような背景がある他は何も見えない。どういうところにいるのかわからなかった。


 そこに無機質なナレーションが入る。
『お客様にお悦びいただく上で、セックスはとても大切な行為です。 ここでは、少年と男性のセックスの流れの基本的なものを、これから陰間になる
あなたにご覧いただこうと思います。』
 
「!!」
 カメラは一度大きく『引き』の画面になって少年の全身を映し出した。
 仔鹿のような少年は、上だけではなく下半身も何も纏っていなかった。

「っ」
 それだけでも大地には衝撃的なのに、画面の右側から突然中年の男が意気揚々と登場した。
 その男も少年と同様全裸だった。
 太っていて腹周りはだらしなく、ぜい肉がその重みで垂れ下がっていた。頭髪は薄いのに体毛は濃く、身体と同様だらしない顔は美しさや凛々しさとは
無縁のものだった。

 裸の少年を前にニタニタと口を歪め笑ういかがわしさは、クロマサを連想するのに充分だった。
 中年男の股間はすでに大きくなっている。


 挨拶のつもりだろうか、カメラを意識しながら少しおどけてこちら側に手を振る姿が鼻についた。
 そうしていたかと思うと突然隣の少年を抱き寄せて頬擦りをした。
 か細い少年の身体とずんぐりとした中年男の身体の対比が目立つ。
 大地は美しい少年と醜い中年男が密着すると、少年が穢れてしまいそうな気がして嫌悪感が増した。

 中年男はそのまま小さなあごを掴んで上向かせ、少年にキスをした。
 可憐な口唇を割り、中年男の舌が差し入れられる。
 その舌は唾液が纏わりついていて、ぬらりと光っているのがしっかりとカメラに収められていた。

『っふっ…んっ』
 激しくなる口づけに、仔鹿のような少年は少し苦し気な表情を浮かべている。それでも中年男は執拗に彼の口唇や口内を貪っていた。
 ぴちゃ、ちゅうう、という音がスピーカーから大きく響いてくる。
 吸い上げながら少年の口を堪能する中年男は時折嬉しそうに笑みを浮かべ、さらに激しい行為に及んでいた。


「っっ……」
 大地は画面から目をそらした。
 クロマサから同じことをされた。彼の姿がそのまま中年男と重なり、自分がされたことを客観的に見せられている気になる。

 気分が悪い。胸がムカムカする。
「ぅ、…」
 大地が眉をひそめて俯くと、隣から射るような中村の声が響いた。
「見ろ」
 有無を言わさない命令だった。
 この教習動画を見なければ、陰間の最終試験を受ける日など来ないのだ。


「……」
 大地は胸の不快感をこらえながら顔を上げた。
『ぁ、はぁ…ん、あん』
 スクリーンの中の少年は中年男にのしかかられてその華奢な身体を好きなように弄ばれている。
 胸にある薄い桃色の突起は柔らかなものから張りつめたものへと変わり、その部分を中年男の唾液で光らせていた。

『ああ、楓…楓…可愛いよ楓…』
 中年男は体勢を変えながら、少年の後ろへ回り今度は背後から胸を弄った。

 楓というのはこの少年の名前だろうか。
 楓、楓と上擦った声で少年の胸や胴をさすり上げ、中年男は後ろから少年を振り向かせて口づけをしている。


「っ…」
 見るに堪えないこの光景。
 大地はこみ上げてくる嘔吐感と必死で戦いながら画面を見つめるしかなかった。
 ぶちゅぶちゅと猛烈な口づけを受けながら正面を向いている白くすんなりとした柔らかそうな楓の身体を、カメラはアップで映したままだんだんと
彼の下半身の方へパンしていく。

 楓のペニスが大映しになると、大地はハッとした。
 彼のものはまだ触れられていないのに立派に上向いていたのだ。


 陰毛はごく少量だけだが生えていて、しかし色白な彼らしく色素の薄さも手伝って生えていないように見える。
 また少しだけ覗く亀頭はみずみずしいピンクで、ぴくぴくと自然に動くさまはエロティックだった。

 中年男はそれを見逃すはずもなく、楓の上半身を堪能した腕をそこへ伸ばした。
『あッッ』
 楓はペニスを掴まれて高い声を上げた。
 のけぞって開かれたその口を、またもや中年男は狙って吸いつく。
『ううん、あっ、あぁっ、ん』
『楓はホントにスケベな子だな。ほれ、ほれ』
『やぁあ、あん!んふふっ…それ好き、気持ちいい…』
 中年男が開いた掌の中央で亀頭の先をぐりぐりと刺激すると、楓は身をよじって笑った。


『ほぅら、楓…』
 中年男はそう言うと、楓の手を取った。
 そのまま開始前から勃起していた自分の魔羅に導く。
『ずっとお尻に当たってたよォ?この暴れん坊さん』
 うふ、と楓はまたもや嬉しそうな顔をして誘導されるまま魔羅を後ろ手で握り、そこをすこすことこすった。

『どうしてほしいの?』
『楓の可愛いお口で舐め舐めしてほしいの』
『はァい!』
 元気に返事をして、楓はそこから手を離さずに中年男に自分から口づける。
 中年男は少年の頬を撫で、尺八をするためいったん口から退いた楓と見つめ合い、微笑んだ。

 それから楓は中年男の股間へと移動し、勃起した魔羅をこすりつつそこを間近に見てまた嬉しそうに笑う。
 いったんこするのをやめて中年男の胸毛と合体した陰毛をさわさわ、さわさわと愛撫し、焦らす。
『あー、もう先っぽからおもらししてる。可愛い』
 そう言うと、楓は魔羅をあむっと一気に口に咥えた。


「っ……!!!」
 大地の嫌悪が一気に最高潮へと達する。
 最初は亀頭のあたりをねっとりと口内で愛撫していたが、そのうちに手を使って竿の部分をこすり出し、それと同時に顔を上下させる。
 じゅぅ、ぶじゅる、がぽ、というあられもない音をマイクが拾い、視聴覚室に大きく響いた。

『はぁ、はぁ…あぁ、あっ…』
 容赦のない楓の尺八攻撃に中年男が切ない声を上げると、楓はさも嬉しそうな顔で中年男を見上げた。


 大地はショックだった。
 この可憐で儚い印象の楓が、中年男の魔羅をなんの躊躇もなく口に含んでいる。
 それに彼らが身をからませあう様子はまるで恋人同士のようではないか。

 気持ちの悪い中年男に、楓は悦んで身を任せている。
 実際に陰間として働く拓海を座敷見学時に見たけれど、ここまで楽しそうではなかった。
 それは後日知った拓海が抱くシャマンへの恋心がからんでのことと知ったせいかもしれないが、それを抜きにしても楓はなんの疑問も抱かず男と
性的接触を持っているように見える。

「……」
 まるで妖精のような、絵本から抜け出たような、生身の人間ではないような美しい楓。
 そんな少年が男と触れ合って股間を勃起させている。
 大地はそのギャップについていけず、また目の前で繰り広げられるあられもない痴態を受け入れ難かった。


 そうこうしていると中年男は楓の舌技の応酬にとうとう根を上げ、情けない声を上げた。
『あーっ、あーっ。出るーっ』
 楓は激しく動かしていた頭を停止させ、目を瞑ってじっとしていた。
 一瞬苦しそうな顔をしたが、中年男の腰の小さなわななきが終わるのを待って、そっと魔羅を口から出す。

 そして口を開き、中にある精液を『あーん』とカメラに見せた。
 呆気に取られる大地は、その後に楓が中年男にも同様に精液を見せた後ごくんとそれを飲み込む様を見て絶句した。
「ぅ、…」
 大地は今度こそ本気で吐きそうになったので、口元を慌てて抑えた。


 中年男はこんな綺麗な少年に自身の精液を美味しそうに飲んでもらって、さらに愛しさが増したようだ。
 足元にいる楓をすぐに抱き起こし、何度目かの口づけを交わす。

『美味しかったよ、またちょうだい』
『ああ、いくらでも出してやるよ。今度はこっちにな』
 楓のおねだりに、そう言って中年男は自身の上に添うように乗り上げている楓の尻をまさぐる。
『っ!あっっ…』
 中年男は手にたっぷりとついたローションを少年の割れ目にじっくりと塗りたくる。
 蕾には特に執拗に塗りこめて、指も深くまで挿入したようだ。楓の表情がとろりとしてきた。
『ああん、も、いいからァ、は、早く…』
『よしよし』
 尺八で盛大に射精した後でも楓の魅力に時間を空けず勃起している中年男は、挿入していた指を引き抜いた。


 愛撫から解放された楓はすっと起き上がり、寝転んでいる中年男の上に脚を拡げて馬乗りになる。
『ふふっ』
 中年男の顔を見下ろしていたずらっぽく笑ったかと思うと、自身のお尻の背後で天を向いている魔羅を自らの菊門に挿入した。
『んんん』
 さっきまで天真爛漫な笑顔を見せていたのに、男の魔羅を自身に受け入れたとたん悩ましげに眉をひそめてその挿入を悦んでいた。

『はー…あっ、あっ、…んっく、ああっ』
 中年男の魔羅をじっくりと味わうように楓は腰を振り出した。
『うっ…あ…』
 最初は楓の細い腰を両腕で支えていた中年男だったが、どちらからともなくそうしたことで今は楓と手を繋ぎ、彼の菊門を愉しんでいた。


「ぅぅぅ、……」
 大地は口を押さえる手に力を込めた。そうしていないと、喉元までせり上げている酸っぱいものが溢れ出そうだった。

 この、自分とそう変わらないであろう歳の少年は、男と寝ることが大好きでたまらないという印象を受けた。
 誰に強制させられているわけでもなく、純粋に男とセックスすることが大好きな楓。
 クロマサという野卑で下品な男に力ずくで犯されかけた大地としては、そんな風にこの行為に及べる彼が信じられなかった。


 カメラは楓の背後に回り、交接部を大きく映し出す。
 当然彼らが繋がった部分がドアップになっていて、大地は思わず目をそらした。
「最後までしっかり見ろと言っただろう」
 隣の中村は大地の視線が外れたことに目ざとく気づいて威圧的な声で命ずる。

 逆らうと不利になる大地は、仕方なく口を引き結んでスクリーンを見た。
 たん、たん、という楓と中年男の肌が打ち合う音とリンクして、血管の浮き出た魔羅の竿部分が桃色の菊門から出たり入ったりしている。
「っ……」
 極度の不快感と屈辱感に支配されると自然に泣きそうになってしまった。
 眉をひそめながら涙目でスクリーンを見つめる大地の様子を見て、中村はフッと嫌な笑みを浮かべた。

 画面の中のふたりは当初の体勢から変わって楓が寝転ぶ形になり、それを正面から中年男が突くというものになっていた。
 それはクロマサが大地に無理矢理挿入しようとした時の体勢と同じものだったので気分がさらに悪くなった。


『ああ、あっ!あん、ああっ、気持ちいい、気持ちいいよォ』
『うぅ、あーッ、イク、イク』
『あっ僕もイク、んんっ!』
『ぉっ、イクッ!!』
『ああっ!』
 お互いの腰がくっつく速度がどんどん増したかと思うと、中年男が突然ブルブルッと小刻みに身体を震わせた。
 楓は自身でこすっていたペニスから、白い精液を吐き出す。

 男は軽い痙攣が終わるとゆっくりと楓から身を離した。その拍子に楓の菊門からとろりと中年男の精液が溢れ出る。
『あぁ、いっぱい…』
 恍惚の表情で横たわる楓は小さくそう呟くと、薄い胸を上下させて情事後の気だるさに身を任せているようだった。


 教習動画はそこで終わったようで、ぷつんと途切れたかと思うと部屋のライトが点いた。
 次いで中村は窓の暗幕がすべて開くようにリモコンを操作する。

 大地は再生が終わってもそのままの姿勢でスクリーンを見ていた。
 必修科目と銘打たれて最初から最後まで他人のセックスを見させられる羽目になり、気持ちの整理がまったくつかない。


 呆然として動けない大地に中村は無情に告げた。
「午後の実技の尺八、教育係はアカベコだ。今の楓の様子を思い出して身を入れてやれ」

 アカベコと聞いて小さな肩をびくりと震わせた大地を残して、中村は視聴覚室を後にした。