先っぽの割れ目をじっと見つめる。
(これ…これを今から…)
つやつやと光っているくすんだピンクの頭は、猥褻な力で大地を威嚇する。
意を決して口元に亀頭を近づけ、口の中に収めようとする。
しかしどうしても大きな恐怖心と嫌悪感に襲われて、直前でやめてしまう。
これを舐めなきゃ陰間になれない。
楓も、ミナトも、ここにいる見習いたちもみんなやっていることじゃないか。
そう思っているのに、大地は勇気が出なかった。
十回近く大地の葛藤が繰り返されたが、さすがにアカベコもそれを愉しむ余裕がなくなってきた。
「焦らしテクもいい加減にしねェと客にキレられんぞ。頭で考えてるからいつまで経ってもできねェんだ、おら」
アカベコは待つのも限界と見えて大地の髪の毛を掴んだ。
「あぅっ」
大地が痛みに喘ぐのを利用して、そのままその口内に亀頭をねじ込んだ。
「うぅぐぅ…!」
「…っ…わかってるだろうが、歯は絶対に…立てんじゃねェぞ…ッ…」
アカベコは震える声で魔羅を咥えている少年に言い聞かす。
先ほどまで舌の先だけで感じていた魔羅の感触を、今は口全体で味わわされている。
しょっぱい味が口の中に広がるのはアカベコがさらに昂っている証拠だった。
実際これを口に含むと目で見るよりかなり大きく感じられた。
カリも裏筋も亀頭の割れ目も、舌先だけの時よりさらに立体感をもって大地の口内を凌辱する。
あごが痛くなるほどのこんなものを楓のようにしゃぶるなど到底できないと思えた。
「おぇ…ッ」
「もう苦しいのか?おいおい、まだ先っぽが入っただけだろう。ずいぶん甘ちゃんだな。しゃぶるんだ。魔羅をしごくのも忘れてるぞ」
「……っ」
教育係の経験からえづいてはいてもまだ嘔吐するほどではないと判断したアカベコは容赦がなかった。
「唾いっぱい出したらしゃぶりやすくなる。亀頭の周りをレロレロ舐めろ」
「ぅ、んんぅ」
大地はひとまず裏筋を中心に舌を這わせた。
今まで施していた時とは違い、その動きは大きくてカリにも及んだ。
「お、おぉっ…」
大地の攻撃にアカベコは腰をわななかせた。
眉をひそめて苦しそうに亀頭をしゃぶる大地をアカベコは嬉しそうに見下ろす。
彼は大地の手がおろそかになっているのを見て、しごくように誘導した。
そして自分の股間で跪いて初めての経験に四苦八苦している少年に前のめりになり、その胸にある桃色の突起に触れた。
「!ぷはぁっ…」
驚いた大地は思わずアカベコの魔羅から口を離した。
しかしアカベコは大地の乳首から離れず、指の腹で円を描いてそこを刺激しながら少年を戒めた。
「こら、尺八は続けてろ。尺八してる最中に客がお前の身体を弄ってくるなんて当たり前なんだから、それの練習だ」
「っ……」
「おちんちんは小さくなっちまったか。まァ今回は乳首コリコリで我慢してくれや」
(こいつまだやらしいことしてくる気なんだ…)
肩で息をしながら嫌悪と戸惑いの表情でアカベコを見上げる大地。
その口元は自身の唾液が垂れており、卑猥なことを意思に反して要求され従わなければならない哀れさがにじみ出ていてアカベコはさらに興奮した。
「ほら再開、再開」
「あっ」
短髪を引っ張られて頭皮に強い痛みが走る。
アカベコは再び尺八をさせ、その勢いで頭ごと前後に動かすよう強要した。
「っ!!!」
「楓もこうやってただろう。…ディープスロートっつって、上級者になると喉の奥使ってっ…ぁあ、きゅーっと魔羅しめ上げてイカすこともできるようになるんだぜ…」
「おぉ、ぐ…おえぇっ」
「ふ…まったくの初心者にそこまでしろとは言わねェから、この感覚を…くっ、覚えるんだ」
無理矢理させるこの尺八によってアカベコは視覚的にも強い刺激を受けたようで、声がずっと上擦っていた。
大地はというと、もう無我夢中でアカベコにされるがままだった。
(苦しい、吐きそう…!!!)
口内の魔羅はどんどん硬度を増し、大きくなる。
あごは痛いし、息もしづらい。苦しさに涙が溢れてきた。
アカベコは大地の左の乳首をこねくることは忘れておらず、それがまた大地の不快感を刺激した。
しかしこの苦痛の元凶から逃げることは許されず、いつ終わるのか絶望的な気分だった。
永遠に続くかと思われた尺八の苦しみだったが、ずいぶんお預けが長かったためアカベコは早々に根を上げた。
「ああー大地…っ、オレイクわ」
「…っ」
「口ん中に出すぞォ、…出すぞ出すぞっ!」
叫びながら大地の頭を掴んで前後させる動きがずいぶんと早くなる。大地は苦しみでもう何が何やらわからなかった。
「お…おおお!!!」
アカベコは絶叫して、大地の頭を魔羅に強く引き寄せた。
そしてその小さな口に盛大に射精した。
「!!!!!」
熱い液体が口内に広がる。
口の中で精液がどう放たれるかなどに考えが及んでいなかった大地は、まともにそれが喉元に当たって強い嘔吐感に襲われた。
「おええええっ!!!」
大地は反射的にえづいて、真横に置かれていたバケツに口中の精液をすべて吐いた。
「げぇぇ…おええっ…っっ」
すべて吐き出してもあのねっとりとした感触は口の中にあり、妙な味が舌に残る。
胃の中のものもせり上がってきて精液とともにバケツの中に吐き出した。
「はぁっ、う…げえええ、おええええ…っ!!!」
「初めてのお口体験、ご苦労さん」
涎や涙にまみれて吐いている大地に、アカベコがタオルと水を渡す。
「…はぁ、はぁ…ぅぅっ…っっ」
少し落ち着いてきた大地はタオルでひとまず顔を拭った。
まだ息苦しさは続いていたが、口の中の不快感を取り去りたいのが先に立って水でゆすぐ。
「喉に出される前に舌で受け止めろ。そうすりゃそこまでゲェゲェ言わずに済むよ」
生まれて初めての尺八にそんな余裕あるはずがなかった。
(…先に言えよ…)
憔悴した顔で恨めし気にアカベコを見る大地。大男はフッと笑った。
「自分でコツを掴むためには数をこなさなきゃなんねェ。と言うことで、さー第二ラウンドだ」
ニタリといやらしい笑顔を浮かべたまま擦り寄ってくるアカベコ。
慈悲など宿ったことのないその下衆な瞳を、大地はただ目を大きく見開いて見つめることしかできなかった。
尺八の実技練習はその後二度行われた。
アカベコはまだ続けたかったようだが、授業終了時間が規定の五時を過ぎていたため大地はどうにか解放された。
(うえ…まだ気持ち悪い…)
初めての尺八に心身ともに疲弊しきって、大地は自分の部屋で横になっていた。
口の中に出されたものは、すべて飲み込まなければならない。
それが尺八練習の要だった。
しかし今回は三回ともバケツの中に吐き出してしまった。
アカベコはが言うには次回からはそうしてもらうとのことだった。
(あんなもの飲めないよ…)
教習動画の中の楓は嬉々として飲み干していた。
客の精液を吐き出すなど失礼以外の何物でもない、でもオレは優しいから初日の今日は大目に見てやったぜ、とアカベコは恩着せがましく笑っていたが、
尺八をする前も最中もその後もとにかく気持ち悪くて仕方がなかった。
でもあれが難なくできるようにならないと中村屋の陰間と名乗れる日は来ないのだ。
楓が傍にいたら本気で爪のアカでも煎じて飲ませてくれないかと思った。
ふと時計を見ると、もう六時だ。
(ミナト…デビューの今日、どんな風に過ごしてるのかな。お客さんがたくさんついて、たくさん稼いでたらいいな)
親友の健闘を祈りながら、ふと窓の外に視線を送る。
夕闇が空を侵食し始めていた。
その頃非番だったシャマンは廊下ですれ違う見習いたちに熱い視線を投げかけられながら、管理者だけが立ち入れるスペースに入った。
そこは彼らのような教育係や、番頭、医療スタッフ、調理人、雑用を行う下働きの者から、オーナーの中村までさまざまな立ち場の者が利用する。
陰間やその見習いらに寮があるように、この場所も管理者たちの住まいや休憩所を兼ねていた。
長い廊下の先には中村の書斎がある。
シャマンが自身の部屋に戻ろうと歩いていると、ちょうど中村が書斎から出てきた。
彼はシャマンを見つけて、ちょうど良かったと言うような様子で笑顔を見せた。
「ああ、シャマン。大地のことだが、昨日過呼吸を起こしただろう?だから、今日の午前は教習動画を見てもらった」
『教習動画』と聞いて、ぴく、と眉をひそめたシャマンだったが、そのまま静かに返した。
「…ああ、知ってる」
「…休みでも見習いどものスケジュールはしっかり把握してるのか。さすが断トツ人気の教育係だけある」
もっと驚くだろうと思っていたのに、シャマンの反応が薄かったので中村はおもしろくないと嫌味を言う。
相手にするのも馬鹿らしいと、シャマンはそのまま歩き始めた。
中村は一瞬眉根を寄せて苛立ちを見せたが、すぐにうっすら嫌な笑顔を浮かべてその背中に語り掛ける。
「楓の教習動画だが。アレは客のお遊びで制作したものだから今までほとんど使っていなかったが、これから見習いどもには閲覧を必須にしてみようかと考えているんだ」
「……」
振り向きはしないが、それを聞いてシャマンは歩みを止めた。
中村はシャマンの背中に弾んだ声で尋ねる。
「…そんなことをオレに聞いてどうするつもりだ」
シャマンは面倒くさそうに中村に振り返る。
シャマンがどんな顔をしているのか楽しみにしていた中村は、またもや意にそぐわない反応で不満を抱いた。
しかし笑顔は続けながらシャマンに答える。
「どうするつもりも何も言葉通りの意味さ。陰間や見習いどもに絶大な人気を誇る教育係の意見を、是非参考にしようと思っただけだよ」
小狡そうな中村の細い目は笑っているように見えても笑っていない。
獲物を見つけた蛇のような中村から視線を外さず、シャマンは楓に想いを馳せた。
一生懸命で思いやりがあって、天使のような楓。
この中村屋でともに過ごしたほんの短い間、シャマンは彼にどれだけ救われ、助けられたことだろう。
楓はシャマンの中で姉と同じくらい特別な存在だった。
「大地はカルチャーショックを受けたようだが、デビューを控える子どもたちにアレを見せるのは有効だと思うんだ」
シャマンがどう答えるか。
反応はどんなものになるか。
興味津々に目を輝かせてその様子を伺う中村に、シャマンは静かに対峙して答えた。
「…悪趣味だな」
「…フッ」
やっとシャマンが思ったような反応を見せたことで、中村は自尊心が満たされたのか糸のように目を細めて笑った。
「わかった、やっぱり反対なんだな。参考にするよ。しかしここは私の店だから、最終判断は私が行う」
「……」
初めからシャマンの意見など聞く気がないくせに、底意地悪く問いただしてきた中村。
この言動は彼の姑息でいやらしい人間性を裏づけている。
こいつは自分と絶対に相いれない存在だと、シャマンは改めてそれを強く感じた。
こんな男に楓の名前を口にしてほしくない。
もうすでに中村は満足気に見習い寮の方向へ歩を進めている。
その後ろ姿を見つめるシャマンは一見静かな様子ではあるが、その拳はわなわなと小刻みに震えていた。
