そして再びシャマンへの妄想が開始した。
「オナニー見てみたいのもそうだけど、イカせてあげたいよなー」
「ホントそれ!クロマサたちはまっぴらごめんだけど、シャマンさんならこの身で昇天させてあげたい!」
「でもあの人マジメだから、絶対そんなことしないよな〜…あ〜素敵」
「それな。オレたちの前でイカないのは、オレたちが性的ターゲットにされてるってことを感じさせない気遣いなんだよ」
「そう!絶対そうだよ!!ああー大好き!!」
リオンはそんな会話を聞きながら小さくため息をついた。
うっとりとした恍惚の表情だ。静かなのは、シャマンへの恋慕を募らせ過ぎて言葉も出ないと言ったところか。
そんなリオンの気持ちに拍車をかけるような過激な意見も出始める。
「ホンットもったいないよな、あんな素敵な人にハメてもらってんのに」
「最後までできないなんて…蛇の生殺しじゃん」
「いっそのこと僕たちが腰振ってイカせてあげたくってたまらなくなるよ」
「ホントホント。シャマンさんだって男だから、それに抗えなくてオレん中で中出しとか妄想したら…あーっ勃起しちまう」
大地はこの話の最中赤面しっ放しだった。
陰間デビューを遂げれば大人に性的搾取を一方的にされるだけの少年たちが、赤裸々に自身の欲情を語り合う。
その性的ファンタジーのお相手は、大地も恋するシャマンなのだ。
話しているうちにたまらなくなってきた見習いたちは、高まってきた気持ちを素直に吐き出す。
「マジで興奮してきたなァ。こっちが金払ってシャマンさんとセックスしてーよ」
その言葉に、輪を作る全員がうんうんと力強くうなずく。
ここでやっと恍惚が極まって目をらんらんと輝かせたリオンがやっと口を開いた。
「あーあ、実技研修はシャマンさんだけが受け持ってくれないかなァ」
「っっ」
その一言に大地はぎくりとした。
そんなこととはつゆ知らず、少年たちはリオンに続いて思い思いに語る。
「そうだよなァ、シャマンさん以外誰もいらねェ」
「クロマサもアカベコもその他のおっさんたちも、オレたちにゃお払い箱だよなー」
「あいつらが挿入担当した時は、オレたちの菊門から抜いた途端にすぐさまシコってその場でヌくんだよな…」
「そんで、そのまま身体のどっかにぶっかけられるんだよな」
大地はそれを聞いてぞっとした。
今までシャマンにしか挿入されていなかったから知らなかったが、クロマサたちは挿入練習の仕上げをそんな風に行っていたのか。
「いらねーよあんなヤツら。とっとと消えてくれって感じ!」
不満を声高に叫ぶ彼らはまだ、大地の挿入練習を担当するのがこの先ずっとシャマンになるということを知らない。
挿入練習は当然ここ実技研修室で行われる。
こんな風に盛り上がる見習いたちは、大地の挿入にシャマンが専属で就くとわかった途端絶対に嫉妬する。
オレたちは下衆な他のヤツらから挿れられても耐えてるのに、あいつだけなんでシャマンさんばっかりなんだよ。
そう言われるのが目に見えるようだった。
また嫌がらせしてくるのか…と大地はげんなりした。
そうしていると、入り口からざわざわとした気配がし始めた。
見習い全員がそちらを見ると教育係たちが続々と集まり出していた。少年たちの輪はたちまち散り散りになる。
その時数人の先輩見習いから、リオンに対して小さく笑顔が向けられた。
今の会話で連帯感が生じたのだろう。
リオンはなんだかんだで愛嬌があったのでうまく先輩たちと馴染むことに成功したようだ。
もちろん見習いたちが自分の自慰を想像して盛り上がっていたなんてつゆほども知らず、いつもと同じクールな彼のままだ。
大地もリオンもその他の見習いたちも、先ほどの余韻を引きずってドギマギそわそわしており、いつもにまして熱い視線をシャマンに送っている。
しかしもうそれぞれの実技が開始される。シャマンに声を掛けそびれて彼らはおのおのの担当の傍へ行くしかなかった。
大地は尺八を担当するクロマサがまだ来ないので少しホッとしつつ、そのままシャマンを目で追った。
シャマンが最初に挿入を担当する少年はすっかり欲情しているのかトロけるような顔で彼を待っている。
そこにすかさず近づいていく小さな影がひとつ。
朝からずっとずっとシャマンを探していたリオンだ。
リオンはこの少ない時間の中で果敢にシャマンに接近するも、まったく相手にされずに冷たくあしらわれてしまった。
話すことも叶わず、がっくりして自身の尺八練習を担当する教育係の元へ力なく歩むリオンに、シャマンが思い出したように背後から声を掛けた。
「リオン、言い忘れてたことがある」
「えッ!?」
あきらめていたシャマンとの会話。突然話し掛けられて驚くリオンにかまわず声の主は近づいていく。
シャマンはリオンの傍に行くと少しかがみ、小声でひそひそと囁くように言った。
「お前のプロフィールはお前が申し出たままにしてある。中村はもとより教育係は誰ひとり知らない。だから齟齬のないよう努めろ」
リオンはなんのことかピンと来ない上に、『齟齬』など初めて聞く言葉で理解できない。
しかもシャマンが身を近づけて自分に囁いたことで一気にポーッとなってしまって頭が働かなかった。
「そ…そ、そご?…の、ないように、って??」
理解していない様子のリオンに対し、シャマンは少し眉をしかめて答えた。
「ここでは申請したプロフィール通りに振る舞え、と言うことだ」
『リオンはレイプされた経験がある』。
それはシャマンの気を引きたいがゆえのリオンの幼稚な嘘だったが、中村にもそう申し出たとなると彼はオーナーを欺いてここへ入ってきたことになる。
このことが中村にバレるとリオンがどんな仕打ちを受けるかわからなかった。
ひどい罰を受けるか、少年に飢えた獣が大勢いるこんな街に裸同然で放り出されるか。
いずれにせよ、この先のリオンには悪い結果が待ち受けていることに違いなかった。
中村の本性を知るシャマンは、リオンの身を案じてプロフィールに矛盾のない行動をしろと言ったのだ。
今から実技を受けるリオンに言い聞かせておかないとと思っての忠告だろう。
「…うん、わかった」
リオンが真剣味を帯びた顔でうなずく。
自分の言ったことが伝わったのを確認してシャマンは身を起こし、担当の少年の元へ向かうため離れていく。
待ちあぐねていた少年はすねたような顔で『んもう、遅いよ』とシャマンを睨むが、シャマンを責めて叱れるなどなかなかできる体験ではなく、
特別なことができる悦びを見出していてまんざらでもないようだった。
冷たい態度をとっていても少年たちのことをきちんと考えていてくれるシャマンの後ろ姿を見ながら、たまらなくなって『くぅぅ〜!!』と愛しさを噛みしめるリオン。
「んもう、ぶっきらぼうでも誰より優しいってこと知ってるんだからね!」
袖にされても、より一層虜になるだけ。
ますますシャマンに夢中になったリオンは、愛する人の忠告通り行動しようと心得た。
「……ハァァ…」
大地はそんな一部始終を見て、シャマンの罪深さをつくづく感じてため息をついた。
