大地がここへ来て十日目になった。
「十日目、かァ…」
朝起きた時、部屋のカレンダーを見て思わずひとり呟いた。
ひとくちに十日と言っても、その十日間は大嵐に遭ったぐらい壮絶なものだった。
それまでの暮らしがずいぶんと遠い昔のような、また別次元の話のような妙な感覚に陥る。
ひとつの節目。
遅くとも二週間ほどで挿入可能と言われているが、それまでには後四日。
(四日しかないと思うのか、まだ四日あると思うのか…うぅん、どうなるんだろ…)
日にちを突きつけられるとプレッシャーだが、それでも前向きに取り組むしかなかった。
さて、それから以降の大地だが、相変わらず挿入に苦戦が続いた。
『泣くな』というシャマンの言いつけは痛みのあまり守ることができず、また実際シャマンの感覚ではまだまだ菊門がまともに魔羅を受け入れられそうに
ないという判断しかできず、大きな進歩とはならないでいた。
午前は座学を合格しているため、今までのおさらいに加えて『客との会話につきあえる知識を身につけよう』という並木の提案で、時事的な情報を
得る勉強に割かれていた。
尺八についてはいろんなパターンを会得しろと言うクロマサとアカベコが、陰嚢ごと口に含む『丸のみ尺八』や卑猥なことを言いながらの『隠語尺八』、
また竿をハーモニカに見立てて口唇を滑らせる『ハーモニカ尺八』などを強いて大地を翻弄した。
尺八の実習や知識に関しては努力でどうにかできるが、挿入はそれで克服できるほど容易ではなかった。
十一日目、十二日目、十三日目…と毎日が無情に過ぎていく。
大地より先に入った見習いの先輩たちは当然日ごとに減っていった。
そうして十四日目には気づいたら大地が一番の古株になっていた。
見習い仲間からは『シャマンさんにずっと相手してほしいから、あいつわざと大げさに泣いてんだよ』と揶揄された。
嫌がらせはメンバーが変わっても続き、その中心にいたのがリオンだった。
彼は先輩の大地を差し置いて見習いたちのリーダー的存在になっていた。
那智は大地と会うと会釈はするものの、積極的に話す仲にはなっていなかった。
クロマサとアカベコは尺八練習で大地と触れ合いながら、挿入練習をさせてもらえないあからさまな不満はいっさい見せなかった。
一方他の教育係からは、教育係の中でただひとり名門を独り占めするような形になったシャマンへの嫉妬が噴出していた。
かつて一番にその文句を言っていたクロマサたちが逆に彼らの文句を聞く役になるという状態だった。
表面では『まァまァ、ご主人様のお考えあってのことだ。オレたちは尺八で我慢しようぜ』など他の教育係をなだめながら、密かに大地にある思惑を抱いていた。
十五日を過ぎた頃、中村は職員ルームで席に着いているシャマンに声を掛けた。
「大地のデビューだが。もうそろそろいいんじゃないか」
大地のカルテには、まだ大地の菊門は魔羅を半分しか挿入できないとシャマンが記している。
これではデビューの条件をクリアしていない。
それはカルテに目を通す中村も当然わかっていることなのに、それでもこうしてやって来るのはどうせ予約の小泉がうるさく尋ねてくるのだろう。
シャマンは近づいてくる中村をぎろりと見上げた。
「…まだだ。今まで誰ひとりこんな状態で座敷に上がったことはない」
予想した通りのシャマンの返事に、中村は表情を変えずに言った。
「小泉様が待ちあぐねているのだ。もう我慢できないと毎日せっつかれる」
「じゃあそのまま待たせておけ」
「…VIP客だぞ」
「そんなことは知らん。どっちにしろ大地はまだセックスできる身体ではない」
これ以上の会話をシャマンは望まず、職員ルームから出て行った。
「ちっ」
この店にとって間違いなく最高級の陰間になる大地。
そんな金の卵をなかなか手放そうとしないシャマンに、中村は苛立ちを募らせた。
しかしこうやってシャマンと大地がここでの時間を長く過ごせば過ごすほど、デビューの日がお互いにより辛いものになる。
大地をどこか特別視しているシャマン。
「シャマン…お前は大地を苦しめないようデビューの日を先に延ばしているのだろうが、それは知らず知らず彼を…そして己をも苦しめることになるんだよ…」
中村はクク、と喉仏を上下に揺らせながらひとりごちる。
もっと、もっと苦しめ。
子どもの菊門が何より好きな変態色魔の小うるさい小泉はどうにかする。
もどかしいが、その日が来るのを楽しみにしておこう。
そう思って、中村は薄く笑った。
