百華煉獄86
 妙な事件が起こっても、大地たちの研修の日々は変わらずに過ぎていった。


 魔羅は挿入が三分の二にも満たないあたりでなかなか進まず、大地は深く入ってきた圧迫感に耐えきれなくて泣いてしまう。
「うぅっ…くぅ!、ひ、んぅ、あっ…ひっく、ん、うぅぅ〜…」
「おい、泣くんなら施設に帰れ」
「い、やぁ〜…いやだ、なッ…泣かない…!!」
「泣きながら言われても説得力がない。帰るんだな、さァ今から帰れ」
 大地の中の魔羅をゆっくり抜いて、シャマンは身を離す。

「うう〜…!やります、泣かないから…ひっく、うぅ」
「…お前が身支度整えてる間にオレが荷物をまとめて来てやる。用意出来たら中村屋の入口へ来い」
「ぅぅ〜…待ってよ、泣き止むのも時間かかるんだよ!」
「では三秒以内に泣き止め。三、二」
「カウント早すぎるよ…!」
 幾度となく研修室で繰り返される光景だった。


 シャマンの挿入練習は厳しいものではあったが、決して大地を本当の意味で突き放しはしなかった。
 大地はシャマンの根底にある優しさをしっかりと感じていたのでそれに応えたいのだが、なかなかに菊門が言うことを聞いてくれなかった。



 三週間が経つと大地の焦りも色濃くなる。
 こうしている間にも、自分が知らないだけで中村と橋本によって弟たちがここに連れて来られる準備が着々と進んでいるかもしれない。
 それは大地が一番怖れている事態だ。

(だってご主人様は有無を言わさない人だ。どんなことをしても自分のやりたいようにやる男だもん)
 何も知らないライタとカイトが『太陽』からここへやって来る。
 想像すると冷や汗が噴き出た。それにそわそわして他のことが手につかない。

 そんな大地の切迫した焦りを感じて、シャマンはひそかにひとつの練習法を提案していた。



 とある日。
 実技の研修が終わり、身支度を整えて研修室を出た大地にシャマンが手招きをしている。
 珍しいことなので不思議に思うが、想い人から呼ばれて大地は胸を高鳴らせた。

 他の見習いたちからのあからさまな嫉妬を孕んだ視線を感じつつ、シャマンに駆け足で近づく。
 シャマンは茶色の小さな紙袋を持っており、大地が目の前に来るとそれを差し出した。
「自主練用だ。お前に渡しておく」
「自主練…?」
 大地はなんの練習のことだろう、と首を傾げながらがさごそとその紙袋の中を覗いてみた。


「!!!!!」
 大地は真っ赤になった。
 そこには怒張した魔羅の形をした黒い物体がひとつ、グロテスクな造りを見せつけるように反り返っていた。

「…こ、これ、これ…」
「ペニスの形を模した張り形だ」
「こここ、これをど、どどっ、ど」
「自主練用だと言っただろう。オレは実技の時間しか相手できないが、これがあれば自由時間に自分で菊門拡張ができる」
「……!!!」
 大地は愛する人からこういった淫具を身も蓋もない言い方で渡されて頭が混乱した。


「自分でなら挿入のタイミングを調整できるだろう。風呂上がりだと菊門がふやけていて挿れやすいぞ。ローションはここの用具入れから持って行け」
 シャマンは最後にそうアドバイスして、大地の元から去っていった。

「……」
 シャマンの品のいい後ろ姿と、彼から渡されたものとのギャップに大地はなんだか狐につままれたような気分だった。
 ぽかんとしていると、近くで少年たちのクスクス笑う声が聞こえてきた。
 彼らはシャマンが大地に何かをプレゼントした!と気が気でなかったのに、袋の中身が張り形だと知って可笑しくてたまらないのだ。


(く、くそ)
 大地が屈辱的な気持ちになっていると、背後から突然誉が明るく話し掛けてきた。
「持ってきてあげたよ。ハイどうぞ!」
 誉の手からローションが渡される。大地は思わず受け取ってしまった。

 ギャハハ!とギャラリーの笑い声がマックスになる。
 大地はくやしくて、そのままその場から駆け出した。
「あれー先輩、お礼はなしですか〜?」
 後ろから誉のとぼけたふりをしたからかいの問いに続いて、少年たちのさらなる笑い声が大きく響いた。



 夕食とお風呂もそこそこに、大地は部屋に戻ってシャマンから渡された紙袋を見つめていた。
 文机の上に載るソレを見ていると、自身の遅れを強く痛感する。
(こんなもの、誰も使ってないのに…!)
 大地が落ちこぼれだということを証明する代物。
 そぅっと、紙袋を手に取って中を見てみる。

 当たり前だが夕方にシャマンから受け取ったままの張り形がそこに鎮座している。
 勃起した男根がデフォルメされているゆえにそれは大仰で、大地を圧倒する妙な迫力があった。


 自主練習用。
 シャマンは決して意地悪ではなく、大地のためを思ってこれを渡してくれたのだ。
 大地のため。それはひいてはカイトやライタのためなのだ。
(…怖いけど、やるしかない)
 大地は心を決めて紙袋の中の張り形を取り出した。


 手に取ったそれは案外軽かった。
 しかしシリコン製らしく見た目に反して弾力はリアルだった。
 竿から亀頭へと伸びるカリのあたりには、妙に生々しい筋と言うか皺と言うか、そういう細工も施されている。
 大人の勃起した本物の魔羅をちゃんと見たのは、小泉とクロマサとアカベコ、あとは他の実技の教育係たち数人だ。
 彼らの顔を思い出してげんなりしたところで、シャマンの顔が浮かんだ。


(シャマンさんのは、見たことないけど…)
 挿入は何度もされているのに、こうやって目にしたことはない。
 自然と誉が言っていたシャマンのペニスについての情報が頭をよぎった。

『見目麗しいシャマンさんそのものの、綺麗なペニス』
『スッとしてて、でも力強くって…』
『色白なシャマンさんらしく、先は明るい桃色でね、それがもうエロいの』
『色も形も僕好みの、超美チン』

(へ、変なこと思い出しちゃったじゃないか…!!)
 そう思いつつもどうしても誉の形容を重ね合わせてしまい、手の中の張り形を凝視する。
 大地の喉元から、ぐびり、と生唾を飲む音が大きく響いた。


 誉の見たシャマンのペニスとこの張り形が実際似通っているかどうかは大地にはわからない。
(でも…)
 自主練用のコレをシャマンのモノであると想像しながら行うのはいいかもしれない、と大地は思った。

(シャマンさんの魔羅だと思えば、抵抗なくがんばれる…!)
 その途端、大地の心臓がバクバクとはっきり自覚するほどに大きく鼓動を打ち始めた。
 大地は意を決して、座布団を部屋の中央へと引っ張っていき、そこへと移動した。


 窓の鍵と障子、また襖の鍵も同様にしまっているのをしっかりと確認する。
 帯を外し、着物をはだけてふんどしもほどく。
 ここに来てから裸にならない日はなく、大地も慣れていたのでここまでは躊躇なく行えた。

 しかし、ここからは別だ。
 中村屋に来るまでは性的なことは何ひとつ知らなかった。
 未知の体験に、大地の胸の高鳴りはますます激しくなる。


 まずはローションのボトルを手にとって脚を開く。
 誰に見られているわけでもないが、やはり恥ずかしさを感じてしまう。
(風呂上がりだから、菊門は少しは柔らかくなってるはず…)
 大地はシャマンのアドバイスを思い出しながら、前から手を伸ばしてとろりとしたローションを菊門へと塗布した。

「……」
 ぴ、ちゅっ…と自身の脚の間から水音が聞こえる。
 性行為のためのグッズだけあって、ぬめりはあってもミナトがくれた菊門の薬とは感触が違った。
 シャマンが挿入練習の時にするように皺のあたりにしっかりと塗りつけていく。
(シャマンさんは、いつもこうやってほぐしてくれてる…)
 彼の手つきを真似ているだけで大地の吐息は切なくなる。
 徐々に菊門に圧力をかけていった。


 そして中も拡げなきゃ、と力を込めた中指が、ぬるっ…と中に入る。
「んんっ」
 思わず甘い声が出てしまい、ハッとした。
 隣の誉は今どこで何をしているのか知らないが、部屋にいるなら聞こえてしまうかもしれない。
(ミナトが勉強する声、聞こえてたもんな)
 聞かれたらまたどんな風にからかわれるかわからない。
 気をつけながら菊門をほぐした。

 声を抑えているので呼吸が自由にできない大地は、少し息を荒げ始めていた。
(これぐらいでいいかな…)
 ぬめりですっかり柔らかくなった菊門に張り形を挿入する時が来た。
 そっと黒い張り形を手に取り、ローションをまぶす。
 抵抗をできるだけなくして痛くならないようにとの思いからくる行為だが、これがシャマンのモノだと思うと全体に塗りつける手つきにも愛しさが表れてしまう。
 自分の手の動きの卑猥さに大地はさらに頬を紅潮させて、没頭した。


 張り形がローションでぬらぬらと全体をすっかり光らせた頃。
 大地は座ったまま腰を突き出してさらに開脚する。
 いよいよこの張り形を挿入する時が来た。
 もうずっと心臓は大きな音を立ててバクバク言いっ放しだ。少々自分の身が心配であったが、止めるすべもないからそのままにしておくしかなかった。

 怖る怖る亀頭の部分を菊門にあてがう。
「ッッ」
 実技練習の時と同じで、当然指とは違う大きさに戸惑う。
 しかし妙なことに、それは同時にシャマンとの挿入練習を連想することにもなり、安心感を覚えたことも事実だった。


(シャマンさん…)
 この張り形は、シャマンさんそのものだ。
 シャマンさんの魔羅を、オレは挿入してるんだ。
 大地はそう思ってゆっくりと張り形を菊門へと導いた。

「ぅ、わ…」
 ぐぬ…と菊門を押し拡げて、誘導通り張り形が大地へと入ってくる。
 だがかなりの抵抗感が伝わってきてなかなか思うように入らない。
 それでもどうにか先へ進めようと大地は腕に力を込めた。

 しかしまた大きな抵抗感に阻まれ、同時に菊門に強い痛みが走った。
「ん、ふ…い…!」
 充分ほぐしたつもりでも、また、自身で行っていても、痛いものは痛い。
 しかし頭のどこかで、シャマンがこの抵抗感をいつも感じているのだと思うと大地は官能的な気分に包まれた。

(シャマンさんはいつもこんな感じで魔羅を挿れてるんだ…シャマンさん…)
 張り形は亀頭の部分が半分ほど入っていたが、大地の感覚ではシャマンのモノよりも少し大きいようでなかなかそれ以上進まない。
 菊門の入り口には絶えず裂けるような鋭い痛みが走る。
「ぅ、く…いッ…」
 少し進めようとするとより強い痛みが大地を襲う。
 しかし、大地は身を起こしてローションを再度張り形の亀頭部分に垂らした。


(シャマンさん…)
 大地はシャマンの魔羅と重ね合わせている張り形を見つめながら、熱に浮かされたような顔で息を荒げていた。
(シャマンさんと繋がりたい…オレ、シャマンさんとセックスしたい…)
 シャマンへの恋情が大地の性的欲求とはっきり直結したその時、大地は張り形を持つ手に力を込めた。
 そして、そのまま中へと挿入した。

 ローションを追加したことで、ゆっくりとではあるが大地の菊門に張り形の頭が埋まっていく。
 大地は喘ぎながら思わず愛しい人の名を呼んだ。
「あ、ああッ…!シャマンさんン…!!」
 慌ててその辺りにあった着物で口を塞いだが、自分がシャマンの名を口にしたことで気持ちがさらに高揚して、頭がくらくらした。


 亀頭の全容を納めた大地はあることに気づいた。
(あ、ちんちん…勃起してる)
 自分のペニスが上向いていて、小さく揺れていた。
 クロマサやアカベコに強制的にいじられた時以外、勃起したことなどなかった大地はじっとそこを見た。
 小さな桃色の亀頭が皮の間からちょこんと顔を出していて、そこがじんわりと濡れていた。

 こんなところに来るまで自慰をしたことがなく、また勃起してもそれは大人の男たちから性的搾取されている最中のことだったため、こうやって
自身の硬くなったペニスときちんと向き合うのは初めてだった。
(シャマンさんのこと考えたからこうなっちゃったんだ…)
 自分の興奮度合いをしっかりと目にしてしまった大地は、気がつくとペニスに手を伸ばしてこすり始めていた。


「ぁ、ぅ…ッッ」
 着物を口に押し込め、張り形を挿入したままペニスをこする。
 頭の中にあるのは、大好きなシャマン。
 彼のことだけだった。

 シャマンが大地に勃起したペニスを挿入して、この小さなちんちんをこすり上げてくれる。
 そう考えると下品な少年愛者に無理矢理そうされるよりも何倍も気持ち良く、強烈な陶酔が大地を襲う。


 ペニスは硬度を増し、甘い疼きがどんどんと明確になる。
 挿入した張り形によって菊門が痛くてたまらなかったが、どうにか慣れるためにそのままにしてペニスをこすり続けた。
「…、ぁぁ、ぁ…」
 油断すると口の中の着物がはずれそうになるほどペニスの奥にある快感が鋭くなってきた。
(なんだかアレが来そう)
 大地はクロマサに犯されかけた時の、尿意に似た感覚を思い出す。
(あれって、射精…オレ精液はまだ出したことないけど、出るかな)
 そう思って、大地はペニスをこする速度を速め、張り形に手を伸ばした。

「んっく!」
 張り形を少し深く挿入しようとしたら、その痛みで全身が硬直する。
 しかし大地はシャマンの存在を感じていたくて、挿入を続けた。
「あぁ、う〜…ッ」
 菊門は異物を阻もうと猛反発しているようだ。大地は涙ぐんだ。
(痛い…けど、痛いけど…シャマンさんのだったら)


 シャマン。
 大地が彼のことを強く想った途端、こすっていたペニスを電気が走るような強烈な快感が襲った。
「…ぁあっ!!!」
 ぽろり、と大地の口から着物が落ちて甘い声が漏れた瞬間、幼いペニスの先から白い精液がほとばしった。

 ぴゅるるッ…ぴゅるっ…と、残りの精子も第一陣を追いかけるように宙を舞い、畳の上にパタパタと小さな音を立てて落ちた。
「ぁぁ、はぁ、はぁ…」
 大地は射精が終わっても実技の練習で教育係の魔羅をそうさせられるように、ペニスが硬さを失うまでこすり続ける。
 快感の余韻がだんだんと薄れていくのを感じながら、お尻の中の張り形をゆっくり引き抜いた。
「んンッ」
 痛みから解放されてホッとしたものの、大地はシャマンの代理と感じていた張り形が自分から退いてしまい、少し寂しかった。

(射精…した)
 脱力して大地はその場に寝そべり、舞い落ちて目前にある自分の精液をぼんやりと見つめる。
(シャマンさんのこと考えて、初めて自慰して、イッたんだ…)
 大地はそう思うと自分の行為に顔から火が出るほど赤面したが、シャマンを愛していることを証明できた気がして嬉しかった。


 思いがけず自主練を熱中して行ったゆえに、大地を心地良い虚脱感が襲う。
 そんな心地良さにもう少し身をゆだねていたくて、身支度を整えず布団も敷かず、大地はそのまま眠りについた。