絆 3
 殿は中条との話が終わると、すぐに大地之助の元へ飛んでいった。

 大地之助は布団に入ってはいたが、横にならずに座っている。安井が近くにいることで、落ち着かなかったのだ。

「大地之助、寝てなくて大丈夫なのか?」

「うん…さっきよりはだいぶんマシになったから」

 大地之助は安井のことに気が気でなかったので、殿に聞いてみた。

「ねえ、さっきの男…どうなったの?」

「ああ、あいつなら住み込みで力仕事をしてもらうことにしたよ。どうにも人手不足らしくてな」

「…っ!」

 それを聞いて大地之助は驚きのあまり言葉を失った。

「まぁそう心配するな。監視付きだから」

 安心させようと、ニッコリ笑う殿の顔を見た大地之助は心の中で迷った。

(…どうしよう。僕が今ここであの男に襲われたことを話していいんだろうか。…話せばきっと殿は心配して出張どころじゃなくなる…。

殿のせっかくの大きな仕事を壊してしまうことなんて、僕にはできない)

「どうした、大地之助?」

 考え込んでいる大地之助を見て殿が声をかけてきたが、大地之助は努めて明るく振舞った。

「ううん、なんでもないっ」

 殿は大地之助の肩に手をやり、小さく笑った。

「じゃあ、無理せずに今日はゆっくり休んでなさい」

「うん、ありがと」

 大地之助は不安を隠して、精一杯笑ってみせた。



 それから数日が経ち、いよいよ殿が京都へ旅立つ日がやってきた。

 城の中も外も、その準備の為大変な騒々しさだ。

 馬や牛車の用意、荷物の運び出しも終わり、大地之助は城の中でそれを寂しそうに見ていた。

(とうとう出発するのか…)

 殿はそれに気づいて大地之助に声をかけた。

「大地之助、お前には江田と五代をつけておくから、何かあったらすぐにその2人に言うんだぞ」

「うん」

「…たったの5日間だ。すぐ帰ってくるさ」

「…うん…」

 大地之助がうなずくのを見て、殿は胸が張り裂けそうだった。

 廊下で中条が殿を呼ぶ。

「殿、ご用意できました。さあ、参りましょう」

「ああ、今行く」

 殿は優しい視線を大地之助によこした。

「じゃあな、大地之助」

 大地之助は大きな瞳で殿を見上げ、寂しそうな笑顔で言った。

「――…気をつけて」

 おもむろに殿は大地之助の頬を撫で、口づけた。

 それを見ていた家臣達は驚いて赤くなる。

 大地之助も急なことに真っ赤になった。

「と…殿っ」

 殿は満面の笑みで言う。

「よし、俄然やる気が出てきた。これで5日間、より良い仕事ができるぞっ!」

 それを見て、大地之助は嬉しくて涙ぐんだ。

(殿…)

 そして殿は城の外に用意されていた籠に乗り、城内の大地之助に手を振りながら京都へ旅立っていった。

 殿を連れた一団が見えなくなっても、大地之助は名残惜しそうにしばらくそちらを見ていた。

 そんな大地之助を、安井は命ぜられた通り力仕事をしながら不気味な笑いを浮かべて見つめていた。



 殿のいない間、大地之助は明るく過ごしていた。

 江田や五代に楽しく遊んでもらい、殿が帰ってくる日を指折り数えていた。

 安井の存在は気になったが、聞けばすこぶる真面目に材木運びなどをしているようだったし、全く顔を合わすこともなかった為、大地之助は一安心だった。

 夜寝る時になると、隣の部屋で江田と五代が交代で寝ずの番をしてくれている。

 ただ、やはり殿のいない寂しさを強く感じてしまうので、大地之助は殿の肌襦袢を一着用意してもらい、それを自分の隣に置いて毎日眠っていた。



 殿が出張に行って4日目の夜。

 次の日には殿が帰ってくると思うと、大地之助はワクワクしてなかなか寝付けなかった。

(明日殿がお帰りになったら、いーっぱいお話するんだ!…抱いてくれるかな…?でもきっと疲れてるだろうから、無理言わない。

一緒に寝られるだけでも満足だもんねー)

 大地之助はそう思いながら、嬉しくて殿の肌襦袢を抱きしめ脚をバタバタさせた。

 その時ふ…と殿の香りがした。

(殿…)

 大地之助は殿の肌襦袢を広げ、その胸のあたりに顔を埋める。

 なんだか殿がいるようで、大地之助は胸が高鳴った。

「あ…あれ?」

 股間に何か熱い疼きを感じて、その部分を見てみる。

 大地之助のおチンチンが、わずかに頭をもたげ始めていた。

(殿のこと考えたら、大きくなっちゃった…)

 大地之助は早鐘を打つ鼓動を頭の芯で聞きながら、そっと性器に手を伸ばした。

 ゆっくりと上下にこすり始める。

 この城に来る前も来た後も自分を慰めるなどしたことがなく、最初は戸惑っていた大地之助だったが、その行為にだんだんと没頭していった。

「んっ…あはぁ…」

 殿から毎晩愛されていることを思い出すと、大地之助はますます昂った。

 おチンチンの先端からはみるみる透明な液が溢れ出し、ちゅくちゅくと卑猥な音が辺りに響く。

「……」

 大地之助は少し考えて、別の手を下腹部に近づける。

 そして思い切って中指を菊門に挿入してみた。

「んぅ!」

 身体をくの字に曲げてそれを迎え入れる。目を閉じて、味わうように指を出し入れしてみせた。

「くんっ、んんっ…はぁ…」

 殿からされるように、優しく、ゆっくりと。

 慣れてきたと思い、人差し指も入れてみた。大地之助の菊門は、自らの指を2本飲み込み、そして締めつけていた。

 おチンチンへの愛撫も加わり、大地之助の頬は桃色に染まっている。

「あ…あ…殿…」

 思わず口走ってしまった殿の存在に、大地之助の頭は芯から熱くなってしまった。

 早く逢いたい。逢って抱きしめて欲しい。

 そう思うと、大地之助はより一層強い快感を覚えた。

「っ、あぁんっ…殿ォっっ!!」

 大地之助のおチンチンから白濁が放たれた。

 それは大地之助の太股に飛び、つややかに光っている。

 大地之助はしびれた頭で自分の精液を見つめ、肩で息をしながら殿の肌襦袢を抱き寄せた。

「殿ォ…」

 切なげに殿を呼んで、大地之助はそのまま眠りにおちていった。



 隣の部屋にはこの日の寝ずの番をしている五代が、大地之助の自慰の声を聞いて1人赤面していた。

 この4日間、殿がいなくて本当は寂しくて仕方ないのに、それを隠して笑顔で過ごしていた大地之助を思い出し、五代は胸が苦しくなった。

 やはり大地之助は心から愛している殿と離れて辛かったのだ。

 きっと殿も京都で、大地之助殿がそばにいないことをお嘆きなっていることだろう。早く帰ってきて、仲良く過ごしてほしい…。

 そんなことを思っていると、いきなり廊下側の障子が開いた。

「っ…なんだ!!」

 そこに立っていたのは、本来ここへ入ることを許されない安井権三郎の姿だった。

 五代が腰に差している刀を抜こうとした瞬間、太い材木で脇腹をぶん殴られた。

「ぐぅっっ…!!」

 強烈な痛みに五代は目の前が真っ暗になり、その場で失神してしまった。

 安井はそんな五代を見下ろし鼻で笑った。

「フッ。この城は間抜けだらけで助かるね」

 そしてゆっくりと大地之助が眠っている部屋の障子に手を掛けた。