絆 4
 安井は音がしないよう、こっそりと大地之助の寝顔を覗き込んだ。

 スースーと寝息を立て、可愛らしい顔で眠っている。



「ククク…」

 声を押し殺し、口の中だけで安井は笑うと、大地之助の足元の方からこそこそと布団の中に進入していった。

 すぐに大地之助のすべすべの脚が現れる。

 安井は、大地之助の肌襦袢が少々乱れていることに気づいた。

 寝相が悪くて、というよりは明らかに自分ではぐったような様子を不思議に思う。

 安井はそのまま人差し指で、つつつ…と大地之助のふくらはぎから順々に上の方へとたどっていった。

 大地之助は一向に気づく気配もなく大人しい。

 すると、安井の指は大地之助の太股で何かに触れた。

 その液体らしきものを布団の暗闇の中で確認する為、安井は口に含んだ。

 それは紛れもなく精液の味がする。

(…こりゃあいい。大地之助殿は、殿サンが恋しくて自分でしちゃったって訳だ)

 安井は口にした大地之助の精液を舌の上でまったりと味わった。

 その香りに安井は鼻息が荒くなる。

 安井はそのままそろそろと上へ上り、布団から顔を出した。

 薄暗い行灯の灯りに照らされた大地之助の顔はあどけなく、子供そのものといった感じである。

(こーんな可愛い顔して、毎晩殿を悦ばせてんだなぁ。1人で手淫しちまうくらい性交が好きなのか…。くくっ、これはぜひぜひ俺様が協力してやんねぇと)

 安井はそう思いながら、おもむろに大地之助に覆いかぶさっていった。

 肌襦袢の帯を解き、大地之助の薄い胸をあらわにする。

 そして桃色の突起を軽く指で悪戯しながら、安井は大地之助の耳元で囁いた。

「…大地之助…」

 耳に舌を差し入れ、じゅるじゅると耳全体をねぶる。大地之助はそのくすぐったさに肩をすくめて呟いた。

「ん…殿…?」

 大地之助はまだ半分夢の中で、殿に抱かれていると錯覚している。

 安井は笑いを堪え、調子に乗ってまた言った。

「大地之助…大地之助…」

「…殿ォ…」

 大地之助は殿だと思い込んで、安井の首に腕を回し愛しげに抱き寄せた。



 …が、殿の体格より一回り大きくがっしりしているその体つきにふと違和感を覚え、大地之助はだんだん意識をはっきりとさせていった。

 その目に飛び込んできたのは、いつもの殿の優しい微笑みではなく、いやらしく笑っている安井の下品な顔。

「…!!!」

 大地之助は我が身に起こっていることをしっかりと認識し、叫び声を上げようとした時、襦袢の帯を口の中へ乱暴にねじ込まれた。

「うぐっ!!」

「よぉ。また逢ったな」

 安井は大地之助を大きな身体で押さえ込み、にやにやと笑っている。

(な…なんでコイツが!!)

 大地之助はあまりのことに頭が混乱してしまった。

 この男はどうやってここまで来たのだろう。警備の者は、そして五代は!?

「ここの城のヤツら、俺が真面目に仕事してたらすぐに信用してくれちゃって、人がイイったら。ま、ここまで入るのには多少手荒な真似させてもらったけどな」

 安井の言葉を受けて、大地之助は太い角材が部屋に転がっていることに気づいた。

 もしかして五代は…。

 大地之助は城の者達の身を案じて安井から逃れようとしたが、安井はそれを許さず、大地之助の顔を覗き込みながら言った。

「それにしても、ちょっと前に城の外で犯そうとしたお前が、まさか殿サンの小姓だったとはなァ。あの後俺、またお前に逢えるんじゃねぇかって

ずっと城の外をうろついてたんだぜ?でも逢えねぇ訳だよなぁ」

 安井は愉快そうに笑う。大地之助は心底ゾッとした。

「あん時のこと、殿サンに言ってないみたいじゃねぇか。そのおかげでまたこうやってお前と逢うことができた。ありがとよ」

 べろんっと大地之助の頬を舐め上げる安井。

 大地之助は肩をすくめ、拒絶の姿勢を示した。

(イヤだ…!!誰か!!!)

「大地之助、お前が未通の坊主じゃねぇんなら遠慮するこたぁねぇな」

 そう言って安井は大地之助の下腹部に手を伸ばす。

「……っっ!!」

 大地之助は渾身の力を込めて安井の胸を叩いたが、安井は全く動じる気配がない。

 大地之助のおチンチンをすぐに見つけて、指先で軽く弄ぶ。

「っ!!」

 先程まで昂っていた部分を嬲られて、大地之助は身体を震わせた。

「お前…さっき自分で慰めてただろ」

 野卑た笑みを浮かべて安井は大地之助を見つめる。

 大地之助は言い当てられた恥ずかしさで顔を真っ赤にして、思わず頭を横に振った。

「嘘つけ。じゃあ何だこれは」

 安井は大地之助の太股についている精液を指に取り、大地之助の目の前に近づけた。

 大地之助はそれを見せつけられ、目を見開いて固まっている。

 そんな大地之助を尻目に、安井は喉を低く鳴らしながら笑う。

「こっちはどうかな〜?」

 精液がついたままの指を、大地之助の菊門になすりつける安井。

「っっ!!!」

 大地之助は、否応なくその部分に触れられて全身を硬直させた。

 安井はゆっくりと武骨な太い中指を菊門に入れていく。

 大地之助は嫌悪の表情を浮かべ、目をつぶった。

 どんなに抵抗しようと思っても、口は塞がれ声が出せず、身体もものすごい力で押さえつけられ動けない。

「ほォらほらほら…すんなり俺の指くわえ込んじゃったぞ?いじってた証拠じゃないか。この嘘つき坊主が」

 安井は大地之助の背中に手を回し、肩を抱きながら意地悪く囁きかけてくる。

 大地之助は恥ずかしいのとくやしいのとで、目尻に涙を浮かべていた。

 安井は大地之助に入れた指を、やんわりと出し入れしだした。

「!」

 大地之助はビクッ!と身体を反応させた。頬が紅潮し、思わず背中をぐんっと伸ばす。

「この4日間、1人寝が相当寂しかったと見えるな。俺の指に吸いついてきやがる」

 安井は大地之助の首筋に口唇を這わせて、何の前触れもなくもう1本、指を菊門に差し込んだ。

「っ!!!」

 大地之助は痛みと屈辱のあまり腰を引いた。

 だが、中で2本の指がぐにぐにと浅く深く動き回ることに翻弄されてしまい、いつのまにか安井の着物の袖を握りしめていた。

「ひひひ…こんなイイ身体を殿サンが独り占めだなんて、もったいねぇ話だな。今夜は俺がたっぷり可愛がってやる」

 大地之助の瞳から涙が溢れ出す。

(殿以外の人にこんな風にされるなんて…もうあの時みたいなことは絶対イヤだ!!殿!!)

 大地之助は横山達に陵辱された時のことを思い出し、猛烈な吐き気とめまいに襲われた。

 もう2度と体験したくなかった出来事。

 力づくで欲望をかなえようとする者達のいいようにされるなど、もう懲り懲りだった。

 殿の留守中にまさかこんなことになるとは…。大地之助は涙で潤んだ瞳で、寝る時にいつも抱きしめていた殿の肌襦袢に視線を移した。

 安井はそれに気づいて冷たい口調で呟く。

「…これ殿サンのか。邪魔だな」

 そしてその肌襦袢をうっとおしそうに畳の上に放り投げた。

(…!殿っっ!!)

 大地之助は、今の自分の支えとも言える大事な殿の肌襦袢を投げられて、安井を睨みつけた。

 だが安井は余裕の笑みを浮かべて言い放つ。

「殿サンの歳ってもう50だっけ?いい加減ジイさんだな。そんなヤツとのまぐあいじゃあ、若いお前は満足できねぇだろ」

 大地之助は、大好きな殿をバカにされて怒りが心頭に達した。

(…こいつ…許せない!!)

「おらおら…もっと奥がいいのか?それとももう1本指入れてほしいかぁ?」

 大地之助の怒りに全く気づかず、安井は大地之助の身体を貪っている。

 そんな安井の頬を、大地之助は思い切り引っかいた。

「ぎゃっっ!!」

 安井は顔を歪ませてのけぞる。

 大地之助はその隙に安井の胸を脚で蹴り飛ばし、自分から引き剥がした。

 その拍子にずるん、と安井の指が大地之助の菊門から退く。

「…てめぇ…」

 頬を押さえて恨みがましい声を発する安井。

 大地之助は自由になったと同時に、口に詰められていた襦袢の帯を取り出した。

 そしてすぐに立ち上がって隣の部屋に逃げようとしたが、安井に足首を捕まれて転倒してしまった。

「あっ!!」

「ずいぶん生意気なことしてくれんじゃねぇか…えぇ!?」

 すごむ安井の迫力に圧倒されかけたが、大地之助はなんとか叫んだ。

「い…いやっ!!放せぇ!!!」

「うるさい!大人しく言うことを聞けっっ!!」

 背後から安井にのしかかられ、また動きを封じ込められてしまった大地之助は必死で脚をバタつかせる。

 その時大地之助の尻に安井の怒張した男根が当たり、大地之助は青ざめた。

 が、2人の声を聞いた五代が意識を取り戻し、すぐに刀を抜いて安井の喉元に鋭い切っ先をあてがった。

「……!!」

 安井は青い顔でごくりと唾を飲む。

 大地之助は安井の下からなんとか這い出すことができた。

 五代は厳しい顔で言う。

「殿の大事な大地之助殿をかどわかそうとはなんという狼藉!!この罪は重いぞ!!」

 そしてすぐに他の家臣達を呼び、安井は城の地下牢に連れて行かれた。