スリーパーズ21
 前夜のレイプから一夜が明けた。

 心身ともにダメージが大きい大地は起き上がれないでいた。身体の節々が痛み、熱っぽかった。


 カツン、カツン…足音が看守専用エリアから響いてくる。シャマンだ。

「…っ…ふっ、…」

 大地の呼吸が乱れる。

 数時間前に受けた暴行、恥辱。それらが鮮明によみがえってくる。怖ろしくてたまらなかった。

 大地はシーツを頭からかぶって、シャマンがここに入ってこないことを祈った。


 だがその祈りは神に通じなかった。

 シャマンは大地の部屋の前で立ち止まり、鍵を開けて中に入ってきた。大地は変わらずにシーツをかぶったままだ。

 ブーツの靴音を響かせながら、シャマンはゆっくりと近づいてくる。

「こんな物で身を隠したつもりになっていても、何の役にも立っていないのに…そら、お前の身体が震えているのが手にとるように分かるぞ」

 シャマンはそう言いながらベッドに腰掛けてきた。その声音は嘲るような笑いを含んでいた。

 大地は少しでも身を守ろうと、シーツの中でギュッと目をつぶって身体を小さく強張らせていた。


「午前の授業は出なくていいぞ」

 シャマンの手が、シーツにくるまれだ大地の腰に伸ばされる。大地はビクン!と身体を大きく震わせた。

「…早く回復してもらわなくては、オレが愉しめないからな」

 そして腰に回した手を今度はお尻に這わせる。授業は出なくていいというその思いの真意を知った大地は、痛みに堪えて身を起こした。


「……」

 その目は一晩を泣いて過ごしたため真っ赤になり、今もなお涙を滲ませている。そしてシャマンを真正面から睨んでいた。

 シャマンの言うとおりになどしたくない。とても怖ろしいが、大地はそれよりも自尊心を踏みにじられた怒りの方が強かった。

 シャマンは大地の反抗をじっと見つめていた。

 大地のその目を見ていると、胸の奥がぞくぞくと震えるのが自分でも分かった。


 シャマンはベッドから立ち上がり、冷たい目で大地を見下ろした。

「勝手にしろ」

 大地の瞳から涙が一筋こぼれるのを見て、シャマンは口の端を歪ませて笑い、部屋を出ていった。


 その日は運の悪いことに、最初の授業は体育だった。

 担当は看守が行い、小学クラスはシャマンとナブーが受け持っている。

 ラビもレイプされた身体を無理矢理引きずるようにして授業に参加していた。

 体操服に着替え、大地と2人、お互いを支え合ってなんとか運動場まで歩く。9月下旬だというのにまだまだ残暑が厳しくて、ジリジリと照りつける太陽が疎ましかった。


「犯されて一発目が体育とはな」

 青い顔で立つ大地とラビに、シャマンが嫌味な笑みを浮かべて言った。

「さぁ、今日の授業は50メートル走だ」

 シャマンの言葉に、ナブーが手にしたストップウォッチを掲げる。

 夜中までレイプされていた大地たちがどこまで耐えられるか。わざとハードな授業にしたのが見え見えだった。


「おら、ちんたらしてねェで早く並べ」

 スタート位置につかすよう、ナブーが2人を急かす。大地はラビを支えながら、スタートラインに向かった。

「っ…」

 痛めつけられた身体が、歩いた拍子に悲鳴を上げる。大地は我慢ができず、小さく呻いた。


「…大丈夫か」

「ん…」

 ラビの気遣いに、大地は微笑んで返事をした。だがその笑顔は覇気がなく、弱々しかった。

 そして、ラビの顔も大地と同じように真っ青だった。

「無理そうなら休めばいいんだぜ〜?もれなくシャマンかオレがみっちり介抱してやるから。安心しろ」

 ナブーはニヤニヤといやらしく笑った。


 弱みを見せればまたあんなことをされる。

 暗にレイプを示唆するこの男に2人はゾッとした。痛む身体に鞭を打って、スタートの体勢に入った。


 シャマンとナブーが嫌な視線を寄こす中、50メートル走の計測が始まった。

 5回、10回と休みなく繰り返される。暑さも手伝って、大地もラビも倒れる寸前だった。


 何度めだろうか、2人がお互いに寄りかかるようにしてスタート位置についていると、ナブーが近づいてきた。

「仲がよろしいのはいいことだが、二人三脚じゃねェんだ。おら、離れろっ」

 そう行って2人を強引に引きはがす。

「っ!」

 大地は自力で立っていることができなくなり、とうとう脚から崩れ落ちた。

「大地!」

 ラビはすぐに大地を起こそうとする。だがそこにシャマンがすっと現れ、ラビから奪うように大地の腕を掴んだ。

 大地はもう顔面蒼白で、意識が朦朧としていた。

 ラビが心配して大地を呼ぶ。

「…大地!」

「だから最初からオレの言うとおり、休んでいればよかったんだ」

 シャマンは倒れている大地を軽々と抱え上げた。そしてそのままおもむろに向きを変え、運動場を出ていこうとする。

「…っ、大地をどこに連れていくんだ!」

 背後からラビが叫ぶ。シャマンは振り返った。

「医務室に連れていく。こいつはもうこれ以上、授業を受けられないだろう?」


 その時、大地が小さく呟いた。

「ぃ…いやだ…」

 うっすらと開かれた目から、涙がすぅっと流れた。

 このまま医務室で何をされるのか、答えは決まっている。大地は怖ろしくてたまらなかった。

「フッ」

 シャマンは大地を見下ろして鼻で笑った。そして何食わぬ顔で、大地を運んでいく。


「シャマン…ッ!」

 ラビは追いかけようとしたが、ナブーに肩を掴まれた。

「お前も部屋で休め」

「……!」

 ラビも、これからのことを想定して、全身を震わせた。