スリーパーズ26
「出たじゃないか」

 大地の精液にまみれた手を、シャマンはうっとりと見つめた。


 初めての射精。

 大地のすべてを奪うという目的のひとつを果たしたシャマンは、悦楽に酔いしれた。

 腕の中で絶頂の余韻に浸る大地の顎を上向かせて、くちづける。

「んんっ」

 口内をいやらしく貪る。大地の舌は柔らかく、そのキスの心地よさにシャマンは頭の芯がしびれ始めていた。


 大地はいつもよりも強烈な快感を感じて、戸惑っていた。

 シャマンにキスされていることは分かっていたが、それに抗えないほど動揺していた。

「オレの手の中で精通したな?」

 シャマンは満足そうににやりと笑い、放たれたばかりの精液を大地の目の前で見せつける。

「オレに感謝しろ」

 無理矢理恥辱を受けて、感謝などできるはずもない。

 だが、射精したのは事実だ。シャマンによって、初めてこの液体を放出した。

 自分を貶め、辱めている男がペニスから出しているものと同じものを、自分も出してしまった。

 大地はいたたまれなくなって顔をそらした。


 シャマンは大地の心の葛藤に気づいたのか、おもしろそうに肩を揺らせて笑った。そして精液のついた手を大地の股間へと伸ばした。

 大地のペニス、睾丸、またアナルを大地自身が放った液体で濡らしていく。大地は肩をすくめた。

「っんんっ…」

 大地の敏感な部分すべてが白濁した精液で光る。それも初めて射精したもので。

 恥ずかしさと悔しさが交わりショックを受けている大地は、無抵抗で静かだった。とろりとした目でシャマンの行為を見ている。

 その表情を上から見下ろして、シャマンは欲情がさらに昂ぶるのを自覚した。

 ものすごい勢いで腕の中の少年をさらい、ベッドに乗り上げ押し倒す。

「…!」

 恐怖で固まる大地の目を見つめて、シャマンは言った。

「今度はオレの番だ」

「――――!」

 暴れる大地の脚を割り開き、勃起した自身のペニスを少年の萎えたペニスに擦りつける。

 そのままシャマンは互いの性器をまとめて掴み上げ、しごき出した。

「はぁっ、あぁん!」

 シャマンは腰を振りながら、幼いペニスの感触を味わう。

 シャマンの動きによって、ペニスの裏同士が摩擦される。そこは再び芽吹き始めていた。


 やめてほしいのに、溶けるような快感に大地は身を捩ることしかできなかった。

「ひぁっ、あう!うぅんっ…」

 どうにか上半身を起こしてシャマンの手をどかそうとする。シャマンは息を荒げた。

「っ…気持ちいいんだろう?大地。先から透明な汁が出ているぞ」

 先程放たれた精液に加え、ペニスの先端から先走りの液をにじませる大地を見て、シャマンはいやらしく笑った。

「イヤッ嫌だ、イヤぁ!」

 卑猥な言葉と行為に嫌悪感を覚え、必死で拒絶の悲鳴を上げても、それは逆にシャマンをあおるものでしかない。

 シャマンはまた笑って、拡げた大地の脚を今度は閉じさせた。

 密着した2人のペニスはそのままの状態である。大地の脚がぴったりと閉じられたことで、シャマンのペニスは周囲全体から圧力がかかり、得も言われぬ心地よさに包まれる。


「……?」

 今から何をされるのか分からない大地は、その怖ろしさに目をしばたたかせた。シャマンはゆっくりと腰を動かす。

「たまには素股もいい」

 閉じた大地の脚をさらに密着させるため、シャマンは大地の太腿を両脇から内側へギュっと押しつける。そして腰を激しく前後に動かしだした。

 シャマンのペニスと自分のペニスが重なりあい、互いのもので刺激しあう。大地はたまらず声を上げた。

「あぁっ!あっぅ、あっ…!」

 大地が思わずそこを見ると、閉じられた自分の脚の間から赤黒いシャマンのペニスの頭が出たり入ったりしている。おまけにそれが自分のペニスにいやらしくからみついていた。

「ひぃあ、いやぁ、ああんっ」

 のけぞる大地を見て、シャマンは気をよくした。

「アナルに突っ込まないんだから、痛みはないはずだ。気持ちいいだろう?」

 確かにアナルへの挿入に比べ、大地の身体の負担はほぼないと言っていい。引き裂かれるような激痛に耐えることはなく、ものを考える余裕もある。

 だがその分、『シャマンの慰み者』になっていることを強く自覚させられる行為だった。


 揺さぶられながら、大地は再び涙を流し始めた。

「イヤだァ、嫌っ…!あんん!」

「くくっ」

 シャマンのペニスの先端からも透明なものが溢れている。2人の体液が溶け合い、ピストンを潤滑に促していた。

「あん、あんっ、は…!」

「…く、出すぞ」

 一言ぼそりと呟いて、シャマンはさらにペニスを押しつけた。

 大地ももう限界で、身体を強張らせてシャマンと同時に射精した。

「ぁっ…!」

「うっ」

 シャマンの熱い精液が、大地のペニスに盛大にほとばしった。

 大地は自分のお腹、胸と言わず顔までも、自身の精液で汚した。


 はぁ、はぁ、と2人は肩で息をしながらしばらくそのまま静寂の中にいた。

 大地は射精を初めて経験したことによって、自分がシャマンのような下劣な人間になったような気がしていた。

 何度も強姦され、嫌で嫌でたまらない。だがその気持ちとはうらはらに、反応してしまう自分の身体。

 しかもシャマンの手の中で精通を迎えてしまった。強い自己嫌悪に襲われる。


 どんなに嫌がっていても、結局は射精してしまったじゃないか。気持ち良かったんじゃないのか?

 お前、悦んでオレを受け入れているのではないか?


 シャマンの声を借りて、自分を責める言葉が次々に現れてくる。

 違う、違う…!


「っ…うっ!」

 ぽろぽろと大粒の涙を流しながら、大地は歯を食いしばった。嗚咽をこらえようと口を押さえても、何の効果もなかった。

「くぅ…〜〜〜〜っ」

 泣いている大地を見下ろし、シャマンは身体を離した。


 乱れた自身の衣服を整えながら言った。

「これからますます愉しくなるな」

 犯された格好のままベッドに横たわる大地にゆっくり近づき、シャマンは身をかがめた。

「お前も考え方を改めて愉しめ。その方が楽だぞ」

 そう言って、大地の震える口唇にそっとくちづけた。

 触れあった瞬間、大地はシャマンの口唇に歯を立てた。


「っ!」

 鋭い痛みに、シャマンはすぐに身を起こした。少量の血が口唇を伝う。

 大地は半身を起き上がらせた。そして涙を瞳いっぱいにためて、シャマンを睨んだ。


 身も心もいいように弄ばれて、なぜ愉しめるはずがあるのだ。

 それに、シャマンに触れられることで、その醜悪な下劣さに取りこまれるような気がする。

 オレは違う。シャマンのような卑劣で恥知らずな人間じゃないんだ…!


 大地は感情が言葉にならず、ふぅふぅと息を荒げて無言でシャマンを睨み続けた。

 今できる、大地の精一杯の反抗だった。


 思いがけず大地に歯向かわれて、シャマンの瞳にほのかな苛立ちが生じる。

 だがすぐに、怒った仔猫のような大地を見て冷酷な笑みを浮かべ、口唇に流れている血を舌で舐めた。

「好きにしろ」

 一言言い捨て、シャマンは部屋を出て行った。


 『好きにしろ』

 シャマンの言葉が頭にこだまする。

 それはまだまだ自分をおもちゃにし、追いつめることを意味していた。

 また、大地の反抗がどこまで続くか見ものということも含んでいる。

 せいぜい抗うだけ抗えばいい。どうせ最後には必ずオレに屈服するんだから、と。


 思い通りになるつもりはさらさらない。かと言ってシャマンの魔の手から逃れるすべを大地は持たなかった。

 この少年院にいる限り、あいつが飽きるまで、あいつの気が済むまでこんな毎日が続くのだ。

「ぅ…ふ、くぅ…!」

 逃れようのない地獄に引きずり込まれた大地は、ベッドの上で再び嗚咽を漏らした。