スリーパーズ27
「大地がとうとう射精したぞ」

 看守の部屋に戻るやいなや、シャマンはナブーに報告した。

「マジかよ!は〜…見たかったなァ。可愛かっただろーなァ」

 よほど驚いたのか、ナブーはソファから立ち上がってシャマンを羨ましそうに見た。

「チンコよりケツの経験が先になっちゃって、可哀相になァ大地」

 ナブーはそうは言うものの、ニタニタといやらしい笑みを浮かべ明らかに面白がっていた。


「?どうしたシャマン、口…怪我してんのか?」

 シャマンの口唇に血がにじんでいるのに気づいて、ナブーが言う。

 くちづけた時に大地に噛まれたなど、プライドの高いシャマンは言えずに言葉を濁した。

「ああ、ちょっとな」

「ひょっとして、大地に噛まれでもしたんじゃないのか〜?」

 図星を言い当てたナブーにシャマンは一瞬ぎくりとしたが、ひげ面の大男はそれに気づかず、1人想像して笑っている。

「『あぁ〜ん気持ちいいよォシャマン、出る、出ちゃうよォ〜!ガブッ!』な〜んてな。違う?」


 シャマンは無視して、自分のプライベートエリアにある小さな冷蔵庫から水を取りだし、グイッと飲んだ。そのままベッドにどっかと腰掛ける。

 そんなシャマンをナブーはしばらく黙って見ていたが、なんだかソワソワとした様子を見せ始めた。

 そしてシャマンにおずおずと相談した。

「なァシャマン…大地をちょっと貸してくれないか?」

 シャマンはちょうど水の入ったボトルをグイッとあおった瞬間だった。そのままナブーを見返したため、ぎろりとこちらを睨んでいる。

 体勢からだけではない、シャマンの拒否の意志が込められているものに感じられた。


 ナブーはそれを察知し、頼み込んだ。

「大地がお前専用だってのは充分分かってる。だからこうやってお前の許可をとってるんだ。なっ、ちょっとだけでいいから…」

「ダメだ」

 言いかけるナブーの言葉を、シャマンはぴしゃりと遮った。

 当然ナブーは不満だった。

「なんでだよ、お前は大地だけじゃなくラビもレイプしてんのに、なんでオレには大地をヤラせねェんだ、ずるいぞ!」

 自分より一回りも年下のくせに、班長という立場にいることもあっていつも偉ぶっているシャマン。

 せっかく下手に出てお願いしているのに、と日ごろの不満も手伝って、ナブーはぎゃあぎゃあと喚いた。


「ダメだと言ったらダメだ」

 シャマンは冷静に、もう一度ナブーの提案を却下した。

 ベッドの上から射抜くような鋭い視線で睨まれたナブーは、ぐ、と息をのんだ。

 整った顔立ちだけに異様な迫力をもたらす。ナブーは悔しいが大地をあきらめた。

「分かったよ…」

 ナブーの返事を聞いてシャマンは軽くため息をつき、窓の外を見た。日が暮れてすっかり暗くなっている。


 最後にオレを睨んだ大地の目。オレに取りこまれそうになり、それを怖れている目。でも取りこまれまいと必死な目。

 オレを怖れている目。

 たまらない。あんな目をあの純粋無垢な大地に与えたのはこのオレだ。


 シャマンはうっすらと笑みを浮かべ始めた。恍惚とも言えるその表情はさっきとは別人のようで、ナブーは驚いた。

 他の男に触れさせたくないほど、大地にご執心のシャマン。

 シャマンはもしかして…と、ナブーに1つの考えが浮かんだが、口にするとまたあの目で睨まれそうなので、黙っていることにした。



 そんなナブーは、生粋の少年愛者だった。なので、たくさんの少年たちが集うここの職場はまさに天国だった。

 最も好む年齢は10歳から12歳。年長者の少年に関心がないのはそのためで、大地たちの入所を心から悦んでいた。


 どこで仕入れたのか、暇さえあれば少年が被写体のポルノ雑誌をよく読んでいた。

 ラビをレイプし始めてから、ラビへの嫌がらせの中にそういう雑誌を目の前で広げて見せる、というものがあった。

 グラビアで裸の少年同士がからみ合っていたり、大人の性器を少年が咥えていたり、というものだ。

 そのエグい内容に、最初はラビも驚いたりカッとなったりなどの反応を見せていたが、ナブーが愉しんでいることに気づいてからは無表情を決め込み、無視することに努めた。

 ナブーは物足りなかった。ならば…と、今度は大地に試してみようと思った。

 シャマンに釘を刺されているのでレイプはしないが、これぐらいはいいだろう、と鼻息荒く大地の元へと向かった。


 午後の日課である犯罪ミーティングが終わり、清掃の時間になった。

 大地が廊下に座り込んで拭き掃除をしていると、真後ろからバサッという何かが落ちる音がした。

 振り返るとナブーがいた。

「拾え」

 ナブーはニタリ、とヤニで黄ばんだ歯を見せて笑っている。大地は命令通り、背後に落ちたものを拾おうとそれを手に取った。

「!」

 その拍子に手にしたものが少年のポルノ雑誌と知り、大地は顔を真っ赤にして身体をびくりと震わせた。


 思った通りのリアクションに、ナブーはご満悦だった。ニヤニヤと笑い続けるナブーに、大地は下に俯いて雑誌を見ないようにしながら、それをつきつけた。

 そしてくるりと振り向き、再び床掃除をしようとしゃがんだ大地に、ナブーはしつこくつきまとった。

「あー、シャマンが羨ましいなァ、大地といつもこんなことができて」

 わざわざ座り込んで大地と同じ姿勢をとってくる。

 見せられたのは雑誌の巻頭グラビアで、少年のペニスに大人の男がむしゃぶりついているものと、後背位でセックスしているものだった。

 大地はそう言われてとても恥ずかしく、また気分が悪かった。雑誌から目をそらし、ナブーを無視して床掃除を続けようとする。

 ナブーは雑誌を見ながら自身の股間に手を伸ばし、もぞもぞとそこを触りながら話しかけてきた。

「この本の人気コーナーだ。オレ、これが大好きなんだよな〜」

 別のページを開いて、再び大地に雑誌を見せてくる。もう見る気にならず目をそらしたら、ナブーは大地の横に回り強引に肩を抱きよせた。

「見ろ。そうしないと、そこのトイレに連れ込むぞ」

 ふざけた口調を一変して低い声で脅された大地は、怖ろしくて従うしかなかった。


 ナブーがこの本の中で一番好きなコーナーというのは、レイプもののポルノDVDを紹介するコーナーだった。

「……!」

 大地はそれを見て、言葉を失くした。今回のDVDは、少年院モノだったからだ。

 囚人に扮した複数の少年たちが、看守役の男たちに嬲りものにされる内容。

 縛られて泣き叫びながら犯される少年たちの写真。自分とラビの姿が否応なく重なり、ガタガタと震えた。

 日頃自分たちがされていることを客観的に見せられた気がして、屈辱でいたたまれなかった。


「少年院モノはかなり人気が高いんだ」

 大地の反応を快く思いながら、ナブーはさらに追い打ちをかける。

「…ほら、ここに『シリーズ第21弾』って書いてあるだろう?」

 文字を指でなぞりながら、ナブーは大地の顔を見つめた。顔は至近距離にあり、ぼそぼそと耳もとで囁かれる。大地は気持ち悪くてその腕から逃れようともがいた。

 するとそれに気づいたナブーは、大地をさらに引き寄せ、腰に分厚い手を伸ばした。

「こんな雑誌、昼間っから見るもんじゃねェな。興奮しちまった。大地、相手しろ」

 手は大地の尻へと進み、片方のふくらみを掴み上げる。そして大地の手を自分の勃起したペニスに導いた。

「い…イヤだっ!」

 ゾッとした大地は渾身の力でナブーをつっぱね、その身からどうにか逃れた。子どもの大地がこんな大男から逃げられたのは、手出しすることができないナブーが手加減をしたためだ。

 青ざめた顔で掃除用具を集め、大地はその場からそそくさと去って行った。

 ナブーはその後ろ姿をじっと見つめていた。