スリーパーズ38
その後、シャマンとナブーはお仕置きの名の下に大地を蹂躙し続けた。外はもう真っ暗になっていた。
大地は何度も意識を失いかけたが、2人の看守はそれを許そうとしなかった。入れ替わり立ち替わり犯されて、今どちらのペニスが挿入されているのか、どちらのペニスを握らされているのか、
どちらのペニスを咥えているのか、どちらの精液がかけられたのか、混濁して分からなかった。
大地はその間ずっと『ごめんなさい』『許して』とうわ言のように繰り返していた。
シャマンとナブーは思う存分大地を堪能し、大満足だった。
ナブーは腹が減ったと食堂に食事を取りに行った。シャマンは大地の方を見る。
大地は最後に犯された場所である、シャマンのベッドにあおむけで寝転んでいた。視線はぼんやりとどことも言えない方向を向いていて、四肢は力なくベッドに投げ出されている。
目はずっと泣いていたため赤く腫れ、涙でうるんでいた。口元には、誰ものものとも分からない精液がべたべたとついており、唾液とも混ざって鈍い光を放っていた。
「……」
シャマンはバスルームから自分の白いバスタオルを一枚持ってきた。そして大地の方へ放り投げる。
「顔と身体を拭け」
バサッと音を立てて、大地の身体にバスタオルが落ちた。
「っっ!」
その時、虚空をぼぅっと見ていた大地がびくりと身を揺らせて反応した。そして反射的にバスタオルをギュッとかき抱いた。
「〜〜〜―――っ、ふぅっ…ぅ…」
だらりと弛緩していた身体が震え始める。大地は全身に恐怖をまとい、顔をくしゃくしゃにして泣きだした。
「ごめ…んなさい、ゆ、許して…」
シャマンは大地の隣に腰掛け、その姿を見下ろす。
たぐるように引き寄せたバスタオルを持つ手は、力が入って真っ白になっていた。話すたびに息が詰まるようで、うまく呼吸ができていない。
「……」
シャマンはバスタオルの端をそっと掴み、大地の顔についた汚れを取ってやる。大地はシャマンが動作を起こすたびに、何をされるのかとびくびく身体をたじろがせた。
「ぅ…ごめんなさい、許して、ごめんなさい」
シャマンに全身を拭いてもらっている間中も、ずっと謝り続けている。そんな大地にシャマンは寄り添いキスをした。
「――〜っ」
また何か怖ろしいことをされるのかと怯える大地の耳もとで、シャマンが囁く。
「こんなひどい目に遭いたくなければ」
シャマンは少し間を置き、低い声で続けた。
「オレの言うことに逆らわないことだ」
ぼろぼろになった大地の肩を慈しむように抱き寄せ、その髪に顔をうずめる。
「お前はオレのものだ。オレの言うことには絶対に服従する。いいな?」
大地はどことも言えない方向を向いた目をゆっくりとまばたきさせ、同時にコクリとうなずいた。
それを認めてシャマンは大地の髪に何度もキスをした。まるでそれは所有の証、刻印を押すように繰り返される。
「〜―っ、ごめんなさい、許して」
囚われの大地は震える口唇で詫び続けた。涙は目尻をつたって流れ落ち、その太い筋は途切れることがなかった。
陰惨なレイプにより疲弊しきっている大地をそのまま数時間休ませ、シャマンとナブーは日付が変わる直前に、監房エリアへ大地を連れ帰った。
大地はシャマンのベッドから身を起こそうとしていたが、まったく立つことができず、結局ナブーが抱きかかえている。
そんな2人が歩いてくると、大地のことが心配でずっと待っていたラビが自分の部屋の鉄格子から叫んだ。
「大地…!!」
その声にシャマンとナブーは顔を上げた。ラビはナブーの腕の中にいる大地を見る。
2ヶ月前、ナブーに一晩中弄ばれた時とは違い、顔や身体は汚れていなかった。どうやら裸のようだが、シーツにくるまれている。
だが、ラビを一番ハッとさせたのは大地の表情だった。
視点が定まらず、虚空をただ見つめる目。涙をたたえているため廊下の暗い電球が反射してはいるが、大地自身の瞳の輝きは完全に消えていた。
青白い顔。ぐったりと力なく伸ばされた手脚。
大地には、日頃こいつらから受けている凌辱とは比べ物にならない、言葉では表し切れないひどい蛮行が行われたのは明らかだった。
「大地!!」
再度大地に呼び掛ける。だが大地は何も反応しなかった。
ラビがそれでも大地の名を口にしようとした時、シャマンがラビの方へやってきた。そしてガチャガチャと鍵を開け、大地を抱えたナブーと2人、部屋に入ってきた。
「っ…!」
ラビは改めて間近で大地を見て、言葉がなかった。よく見ると男たちに抑えつけられてできたであろうあざや、首筋、胸元、脚などのいたるところに、赤紫のキスマークができていた。何より大地の
顔は生気がなく、まるで人形のようだった。
「くそっ…!!」
シャマンを睨みつけたラビは、次の瞬間大きく平手打ちされ、床に転がった。
「っ…!!」
シャマンはナブーに顎で指図し、倒れているラビの元に大地の身を預けた。
「大地!!」
ラビはすぐに半身を起こし、自身の力ではまったく起き上がれない大地を支えた。
「大地、分かるかっ?オレだ、ラビだよ!!」
輪姦のショックで精神が壊れかけている大地に、ラビは必死で呼びかける。少しでも自分の存在を知らせることで安心してほしかった。
「大地!大地っ!」
「っ…ら…び…?」
大地の瞳に少しだけ生気が戻り、ラビの名を口にした。
「大地っ!ああ、オレだよ!ラビだよ!」
「――っ…っ!!」
ラビの声を認めて、大地はやっと目の焦点を合わせた。しかし、眉根を寄せて身を固くし、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
大地は恥ずかしかった。
この少年院でどんなひどい仕打ちを受けても絶対に負けないと誓い、プライドを失わずともに立ち向かっていたラビ。
なのに、今の自分は残虐なレイプが怖ろしくてこの男に屈服してしまった。
ラビにそんな自分を見られてしまったことが、とてつもなく恥ずかしく、また合わす顔がなかった。
大地は再びあの言葉を繰り返す。
「っ…ヒッ…ごめんなさい…許して、ごめんなさい…」
「…大地?」
大地の様子が明らかにおかしいことに気づいて、ラビはその顔を見ようとする。
が、大地はそれがいたたまれずに目をギュッと閉じて、ラビの首筋に顔を伏せた。抱きついてきた大地の腕の力は強く、ラビは息が苦しいほどだった。
「…シャマン…!!」
ラビは低く唸るような声を出し、シャマンを見上げた。シャマンはいつものような無表情ではあるが、冷酷な視線で少年2人を見つめている。
シャマンは、どんな時でも明るく強い、太陽のような大地を追いつめた。
純粋で正義感が強く、へこたれない。それでいてちょっと抜けている。屈託なく笑う顔。
この蛇のような目をした男は、大地からそのすべてを奪った。
大地の心を、殺した。
「……!」
ラビは自分にすがりついて泣く大地を、シーツごとかき抱いた。そして何も言わずシャマンを睨んだ。心の底から憎かった。
シャマンは全身から憎悪を放つ金髪の少年の髪を掴んだ。
「あゥッ!」
「いつかのように『殺してやる』とでも言いたげだな」
ラビの顔の間近に迫って凄むシャマン。それでもラビはひるまず、果てしない憎しみを抱えたまま睨み続けた。
「そんな生意気なツラしちゃって…お前も大地みたいに『お仕置き』されたいのか?」
ナブーの言葉にラビは動じなかったが、先程まで『お仕置き』の名目で心身ともに踏みにじられた大地は、ビクン!と身を強張らせた。
「〜っ…許して、ごめんなさい…許してっ…!」
ラビの耳もとで繰り返し詫び続ける大地。その身体を抱きしめる腕にさらに力を込めて、ラビはシャマンを見上げた。
ラビの目から、さっきまでの射るような強い憎悪は消えていた。そのかわり、静かな覚悟を秘めている。ラビは落ち着いた声でゆっくりと口を開いた。
「…シャマン、オレを殺せ」
「……」
ピクリ、とシャマンが眉尻を上げる。ナブーは呆けたような顔でラビを見返した。シャマンはラビの意外な頼みを鼻で笑った。
「とうとう頭がおかしくなったか?」
「オレを殺せ、シャマン。オレを生かしたままここから出すな」
ラビのその言葉に、シャマンは不審な顔をした。常にクールで威圧感のあるシャマンが、珍しく動揺の色を見せた。
「…なんだ。何が言いたい」
「リスクはひとつでも少ない方が、あんたのためになるってことサ」
「リスク?」
ラビの表現の分かりにくさに、シャマンは苛立ちを隠さない。
「…オレがここを出て、あんたと街のどこかでばったり出くわさないとは限らない」
ラビは大人びた口調で言った。泣いている大地の胸が上下しているのを、その腕で感じながら続けた。
「こんなとこじゃない、自由な街のどこかでだ。その時オレはどうすると思う?」
「…お前はオレを脅してるのか」
シャマンの周りの空気が張りつめる。怒りを帯びた視線はラビの視線とぶつかりあった。ラビは一切ひるまなかった。
「ここでオレを殺すか、これから先一歩もこの少年院から出ずに一生を過ごすか。あんたにできる選択はこのどっちかだ」
「…お前は…ラビルーナのクソガキは、ホントにイカレてるな」
シャマンはラビの髪を掴んでいた手を乱暴に放した。反動でラビも大地もよろける。シャマンはラビの腕から大地を取りあげ、抱え上げた。
「っひっ…」
小さく悲鳴を上げ恐怖の色を浮かべる大地を、シャマンはさも自分の所有物であるかのように寄り添い、ラビを見た。
先程から詫び続けている言葉が言えないほどに怯えている大地。その髪にくちづけをしているところをラビに見せつける。
「シャマン、よく考えろ。リスクの芽は早いうちに摘め。あんたのためだぜ。オレをここで殺せ」
そう言うラビの言葉を、真剣に聞く気はない、とでも言いたげにシャマンはラビの部屋から出ていった。
ラビがまだ何か言いたそうなのに気づいていたナブーだったが、シャマンの機嫌が今まで見たことがないほど悪そうだったため、何も言わずついていった。
ラビは床にくず折れた姿のまま、大地の部屋の扉が開く音を聞いた。半日近くおもちゃにされたあの大地が、夜1人でその苦しみと闘わなくてはならないことを思うと、ラビの胸にズキン、と
鋭い痛みが走る。
さっきまでこの腕の中にいた大地のぬくもりを思い出していた。
シャマンは震える大地をベッドに横たえた。くるんでいるシーツはそのままで、自分たちが存分に愉しんだ身体に毛布をかけてやる。
ナブーは黙って見ていたが、看守部屋での様子や今の行動から、シャマンがやけに大地に優しいなと思っていた。
今まで何人もの少年を暇つぶしに弄んできたシャマンだが、こんなに1人の少年に固執することはなかったのだ。ましてやセックスの後に毛布をかけてやるなど、ナブーは初めて見たので仰天した。
だが今はそれを茶化せる雰囲気ではないため、静かにしていた。
大地は虚空を見つめながら、小さな声で再びあの言葉を繰り返していた。
「ごめんなさい、許して、ごめんなさい…」
シャマンはそれを少しの間見つめていたが、無言でナブーとともに大地の部屋から出ていった。
大地は誰もいなくなっても、ずっと許しを請う言葉を言い続けていた。犯された後はいつもアナルが痛んで辛いのに、今日は身体の感覚そのものが消えていた。
自分をくるむシーツがシャマンのものかと思うと忌々しかったが、それを振り払うほどの気力も体力も大地には残されていなかった。ぼんやりと開いた目からは涙がとめどなくあふれてくる。
視線の先には新しい囚人服が置かれてあった。服をビリビリにされたレイプの後は、看守たちがこうやって新しいものを用意してある。
『お前のためにオレらがわざわざ取りに行ってやってんだぞ』
ナブーは恩着せがましくそう言うが、大地たちの衣服を引き裂くことを悦んで行っているのは自分たちだ。新しい服を調達することなど、何の苦もないはずだった。
シャマンらにしてみれば、ボロボロにされた服で大地たちが他の在院者や職員の前に出ることを防ぐためだったのだが、この事実はもうみんな知っている。知っていて何も言わないし、対処しない。
暗黙の了解の中に、体裁として新しい服を着せてやる、ただそれだけのことだった。
新しい服を見ると、自分が『レイプされた』『2人の男にかわるがわる弄ばれた』という事実をより強く実感する。
「ごめんなさい…許して…」
無意識に呟くと、ふ、と母親の顔が急に浮かんだ。
美恵のふんわりとした、それでいて元気づけられる笑顔。大地のそれとよく似ている、とラビをはじめ周りの誰もがそう言っていた。
「お…か、あ、さん…」
思わず母親を呼ぶ。
大地はただただ、美恵が恋しかった。
人にけがを負わせたとか、家族に迷惑をかけたとか、ここでどんなひどい目に遭ったかなど、そういうことすべてを受け止めるのは、子どもの大地にはあまりにも酷だった。幼い心はもう
疲弊しきっていて、美恵の母性にすがりつきたかった。
だがそれは叶わないことだ。
「ごめんなさい…許して…」
大地は瞳を閉じて、誰に言うともなく繰り返した。
