殿の誕生日 2
 大地之助はその後、人を変えて相談してはみたものの、みんな同じ答えだった。

 家臣の江田・田崎・五代をはじめ、他の誰に聞いても『大地之助殿がいるだけで殿は満足』『誕生日には何もしなくてよい』『夜のお勤めの時にいつもより

可愛く甘えればいい』と、ニヤニヤ笑いながら言われるだけだった。

 そのたびにからかわれていると思い憤っていた大地之助に対して、そんなつもりのないみんなは怒らせてしまったと一様に落ち込んでいた。


 城の誰もがそう言うのだ。

 殿が自分を大切に思っていてくれることは充分に伝わってきたが、本当に何も欲しいものはないのであろうか?

「〜〜…」

 欲しい情報を一つも得られずに考えあぐねた大地之助は、最終手段に出ることにした。


 殿に直接聞こう。


 これだけ調査しても何も出てこなかったのだ。不本意だがもうその方法しかない。

(内緒にしておきたかったのになー…)

 少し気を落としつつ、大地之助はいつもと同じように殿と閨房へ向かった。


「大地之助〜♪」

 殿は寝室へ入るやいなや、その小さな身体を後ろから嬉しそうにかき抱いた。

「今日も一日忙しくて疲れたなぁ。大地之助、私に元気をおくれ」

 そう言って子どものようにはしゃぎながら、大地之助の首筋に顔をうずめる殿。

 その勢いのまま、布団へ押し倒された。

「っ…ひゃっ…」

 うなじにレロ〜〜ッ…と舌を這わされ、大地之助はビクリと身を震わせた。

(こっ…このままではなし崩しにコトに及ばれてしまう…っ…今日は殿がお望みのものを聞き出すんだから…!)

 そう決意して、夢中で自分のうなじを貪る殿から身をひるがえした。


「殿っ、その前に…聞きたいことがあるんだ」

「…?」

 少しでも早く大地之助と契りたいのに、それを止められて殿は不思議そうな顔をする。

「聞きたいこと?何だ?」

 大地之助が真剣な様子でこちらを見つめてくるので、殿はその幼い身体から身を起した。

 大地之助も同様に、布団からゆっくりと起き上がり、殿の正面に座りなおした。


「あのね、もうすぐ殿のお誕生日だから、僕から何か特別なお品を差し上げたいんだ。本当は内緒で用意して当日にお渡ししたかったんだけど、何がいいか

分かんなくて…殿、今欲しいものってある?」

 まっすぐ自分を見つめる大地之助。

 この世で一番愛しい、このいたいけな少年が、自分の誕生日に何か捧げてくれると言う。

 そんな大地之助の肌襦袢は、殿の手によって大きく乱れている。

 その姿と、いじらしく聞いてくることとの落差に殿はますます欲情した。


 無性に愛しさがこみ上げてきて、大地之助の小さな手に自分の大きな手を重ねた。

「大地之助、ありがとう。私は何もいらないよ?大地之助がいてくれれば、それでいい」

 城の者たちが答えた通りのことを、殿はそのまま同じように告げる。

 それは本当に嬉しくて幸せで、天にも昇る気持ちだったのだが、大地之助が聞きたいのはその答えではない。

 照れて頬を赤く染めつつ、少し困って眉を八の字にさせた。

「…でも…」

 大地之助がやや困惑したような様子なのに気づいて、殿は重ねた手をきゅっと握り、そのまま自分のほうへ引き寄せた。

「っあ!」

 大地之助は驚いて声を上げたものの、殿に誘われるがままにそのひざの上に向こうむきに座らされた。


 殿はひざ抱っこしたお小姓の顔を後ろから覗き込みながら言った。

「私の正直な気持ちだぞ?」

 大地之助はさらに頬を紅潮させて振り返った。

「それは分かってるけど、でも…」

 言葉を遮るように、殿は口づけた。

 急に呼吸を塞がれ、動揺して喘ぐように蠢く柔らかい口唇を、殿はしっとりと甘く濡らしていく。


は…」

 口を大きく開かされて、舌をれろれろと貪られる隙間から、吐息を含んだ艶めいた声が漏れる。

 殿は大地之助が接吻に翻弄されている間に、器用にも肌襦袢の帯をするするとほどいていく。

 深い口づけの余韻で、何度かちゅ、ちゅ…と軽い接吻を繰り返す。

 離れがたかったが息が苦しいため、つかの間の小休止と、殿は大地之助を解放した。


「ん…
…」

 今の口づけで頭がボーッとするものの、言いかけた言葉を遮られたと思い出した大地之助は、呼吸を整えて殿を見上げた。

「でも、何か…何か思いのつまったものを差し上げたくて…何かない?」

 ふう、ふう、と肩で息をしながら、口元を唾液で光らせ潤んだ瞳で自分を見つめてくる。

 その上、肌襦袢は大きく乱れ、肩やら脚やらがなまめかしく飛び出している。


「だから、大地之助がいれば…」

 そう言いながら再び迫りくる殿に、大地之助は大慌てで身を引いて、何とか抱きしめられずにすんだ。

 殿はこの話を早く終わらせようとしている。終わらせて、契りに持ち込もうとしている。

 そうなると贈り物のことはうやむやにされるだろうし、これから先も教えてもらえないだろう。


 大地之助はそれを怖れて、殿の強引な求愛を制止するため語気を強めた。

「それは分かったから、僕以外のもので!答えて!」

 食い下がる大地之助。

 おっとりしているように見えて、案外かなり頑固な一面を持ち合わせているお小姓に辟易しながら、殿は思案した。

「え――…大地之助以外でぇ?」

 眉根を寄せて視線は虚空へと向け、何か浮かばないかと考えを巡らせている殿。

 大地之助はひざの上に乗ったまま、その様子を固唾を飲んで見上げている。

「う〜〜ん、ぅ〜〜〜ん…」

 殿はそう唸りながら、大地之助のお尻に手を伸ばした。

「っ!!」

 いきなり肌襦袢をすり抜けてお尻をじかに撫でられたので、大地之助は仰天した。

 そんなことをしてくる殿は、当然考えているのはふりだけで、契りのことしか頭になかった。

 手はしっかりと大地之助のすべすべの肌を堪能しながら、しらじらしく『うーん』と熟考するふりをする殿を、大地之助は戒めた。

「ちゃんと考えて答えてよ?言わなきゃ今夜は続きしないからね」

「そんな〜〜〜〜!イテッ!!」

 小姓から契りのお預けを食らわされた上に、お尻を触られる手をつねられた殿は、情けない声を上げた。


 この国で一番偉いはずの殿が唯一逆らえない相手。

 『惚れた弱み』の一言だが、それがこの若干十一歳の少年だというのだから、驚きである。


 何とか何かを答えないと、大地之助と繋がれないではないか。

 実は今さっきの口づけで、自分の下半身はかなり高ぶって治まりようがないというのに…。


「うーん、う〜〜ん」

 唸りながら真剣なまなざしを宙に向けて、今度こそ殿は真面目に考えだした。

 大地之助は先程と同じように殿を見上げているが、その視線にはやや厳しさが生じていた。


「ん〜…あっ!!」

 無言の重圧にも負けず、殿の頭にはあるものがひらめいた。

「えっ、ナニ??」

 大地之助はやっと殿の望んでいるものを知ることができる喜びで、顔をパッと明るく輝かせた。

 殿は何を御所望なのだろう。

 みんなにあれだけ聞いても、何も出てこなかったのだ。興味というか期待というか、自然に大地之助の心臓はドキドキと高鳴った。


 殿はそんな大地之助を間近で見降ろして、両頬をニッと上げて笑った。

「すっぽん」

「は?」

 大地之助はそれを聞いて、殿と何の話をしていたのか瞬時に分からなくなってしまった。

 殿が誕生日に何が欲しいかということを話していたと思うのだが…まさかその『すっぽん』というのが答えなのではあるまいな。

(?…!?)

 大地之助が思わず混乱してしまうほど、その答えはあまりにも突拍子のないものだった。


 頭の整理に必死な大地之助に気づかず、殿は意気揚々と言った。

「大地之助、私の誕生日には生きたすっぽんをくれ」

「―――…」

 あっけにとられる大地之助をよそに、殿は嬉しそうに笑っている。


 殿は愛玩物としてすっぽんを飼おうとしているのだろうか。

 ただ、すっぽんを飼うというのはなかなかに珍しい趣味だ。それに、興味を持っているなど、今までに見たことも聞いたこともない。

「え…殿…なんですっぽんなの??」

 怖る怖る尋ねる大地之助に、殿はくふふふ…と含み笑いを浮かべながら答えた。


「すっぽんといえば、精力増強の効果が有名だろう?新鮮なものを食べたら、それだけお前と交わる回数が増える♪」


「……!!」

 そんな理由ですっぽんを…!大地之助は真っ赤な顔で叫んだ。

「も〜〜〜っ!!真面目に聞いてよ!!」

「いたって真面目に考えた結果だぞ?ささ、答えたんだからさっきの続きを…」

 大地之助の鎖骨の辺りに顔をうずめ、殿は熱い息を吹きかける。

「ちょ、ちょ…まだ話終わってな…!」

 もう我慢できぬ、とばかりに、ひざの上に乗せていた大地之助をスッと抱き上げて、布団に押し倒した。


「あぁん、殿、まだっ!」

「私はもうこんなに張り切りだしてしまったぞ」

 大地之助に覆いかぶさった殿は、小さな手を自分の股間に導いた。

「っ…」

 褌の上から掴まされたそこは、今触れたばかりだというのにかなり固かった。見えはしないが、力強く布を上に押し上げているのが分かる。

「っ…はぁ…だから、早く…大地之助の中に入りたい」

 上ずった声でそう言いながら、殿は小さな手を上下に誘導し、自分の魔羅をこすらせた。

 そして大地之助の肌襦袢の裾を一気にまくり上げた。

 いきなり脚をあらわにされて、大地之助は恥ずかしかった。

「や…やだ殿、もっとちゃんと真剣に答えてよぉ」

「もうよいではないか、その話は」

 暴れる脚を難なく割り開いて、殿はその中心へ吸い寄せられるように顔を近づけた。

「よくないっ…ぁぁっ…!」

 大地之助の菊門に、ぬめぬめ〜っと舌が這い始めた。

 怒る気持ちをなだめようと、殿はいつも以上に執拗に刺激を与えてくる。

「あふぅ、うぅんっ…んぅぅっ」

 菊門は両手の親指で左右に開かれており、全体を口唇で包まれて唾液いっぱいにされた。

 自然にぴく、ぴくと頭をもたげ始めたおちんちんにも、殿の太い指が絡みついて大地之助を追いつめている。

「っあ…やだ、やだ、殿っ、やだってばっ…あぁんっ!」

 殿は、大地之助の戸惑いを含んだ甘い喘ぎ声を恍惚とした気持ちで聞きながら、行為に没頭した。

「今夜は全身舐めてやるぞ。大地之助が何も考えられなくなるくらい、たっぷりとな」

「…ぅふぅ、んっ
っ…殿、ずるいよ…」

「……」

 潤んだ瞳で見つめながら自分を責めてくる大地之助に、殿は何も答えなかった。


 外で寝ずの番をしている中条と五代は、相談していた内容を知っているだけに、大地之助の気持ちが分かり気の毒だと感じていた。

 ただ、そう思いつつも、いつもと同じようにちゃっかり二人の契りを襖の隙間から覗き見て、興奮していた。