殿の誕生日 30
「旅以外にもどんどん使うからな。本当にありがとう、大地之助」

 大地之助を抱き寄せて、殿は改めて礼を言った。

 うん、と恥ずかしそうに頬を赤らめるこの子どもが、贈り物は何がいいかと頭をひねって、短時間で懸命にこれを作ってくれたかと思うと、殿は愛しさが

急激にこみ上げてきた。


 殿は大地之助に再び接吻する。

「ん…ふ」

 激しくなってくる口づけに大地之助が思わず声を漏らすと、殿はたまらなくなってその着物を気ぜわしく脱がせ始めた。

「あ…殿、お風呂…」

「後でいいっ」

 しゅるしゅると帯をほどき、畳に横たえる。衣ずれに加えて、ぴちゅっ、ちゅっという唾液のいやらしい音も部屋に響いていた。


「…ここでするの?」

「イヤか?」

「んんっ、だって…」

 すぐ隣の部屋には、護衛と待機のため家臣四人がいるはずだ。

 二つの部屋を隔てる襖に大地之助の視線が注がれていることに気づいて、殿はいたずらっぽく囁く。

「あいつらがいるのは毎度のことではないか。久しぶりの我々の契り、あいつらも聞きたがっているぞ」

「っもう、殿!」


 殿は笑って、大地之助の肌襦袢の襟元を肩からするりと下へずらした。

 ろうそくの灯りの中、白く浮かんだなまめかしい肌に、殿はぐびりと喉を鳴らす。


(手紙…後でいいか)

 鑑永寺で書いた手紙を渡したかったが、この殿の勢いの前ではなんだかそれがはばかられて、後回しにすることにした。


「…大地之助、今日は私の言うことを聞いてもらえるか?」

 殿がわくわくした様子で微笑みかけてくる。

 年に一度の誕生日だ。大地之助はコクンとうなずいた。


「その可愛いお口で…尺八しておくれ」

 殿は大地之助の頬を撫で、じれったそうに着物を脱いだ。

 現れた褌の中で頭をもたげ始めている魔羅を見て、大地之助は殿に寄り添った。


 正面から抱きつき、殿に口づけしながらそっと魔羅に手を伸ばす。ゆっくりとそこを撫でると、殿は身体をびくびくと反応させた。

「ふっ…」

 手の中の男根が、さらに固くなるのを褌越しにはっきりと感じる。

 殿の頬や首筋、胸や腹にも口吸いを繰り返し、大地之助はだんだんと下へ下りていった。


 褌は殿の高まりを物語るように、ビクっ、ビクっと大きく揺れており、亀頭の辺りにシミができていた。

 大地之助は、衣越しにそこを口に含む。そして愛おしげに、あむ、あむ、とはんだ。


「ぁ…大地之助…」

 大地之助の口の生温かさに包まれて、殿の声は上擦っていた。

 そっと褌の脇から魔羅を取り出すと、待ちきれない、と言わんばかりにそこが元気に飛び出してきた。


「……」

 頭から透明な液体がにじみ出ている。大地之助も高揚してきて、サオを両手で支えて先端を一気に咥えた。

「っ!!」

 殿は全身に力を入れて快感に耐える。

 思えば口でするのはいつぶりだろう。息苦しいほど大きく勃起した男根を見て、大好きな殿がこんな風になっている…と感じ入って、それに応えようと

懸命に舌を這わせた。


 吐息まじりに大地之助も思わず声を上げる。

「ぅぷう、はぁ…」

 その声に自分で興奮してきて、亀頭を咥えたまま大きく頭を前後し、殿を追いつめた。

 容赦なく快楽の渦に突き落とされた殿は、じゅぶ、ぢゅる…という卑猥な音が響く中、切なげにこぼした。

「ぁっ、もう…っ、出るっ!!」

 殿は腰をひくつかせ、大地之助の頭を引き寄せてその口中に精を放った。


 勢いよく放たれた精液をどうにか受け止めて、ゆっくりと飲み干した。

 この苦い独特の味も久々で、大地之助は尺八したばかりの苦しさも手伝って、息を切らせている。

「はぁ、んふぅ…」

 乱れた肌襦袢をどうにか身にまとい、ぼんやりと視線を落としている大地之助。

 その口元には精液にまみれた唾液が垂れ落ちている。脱力した様子でぺたりと畳に座り込んでいて、誰に触れられたわけでもないのに、股間の布は盛り上がっていた。

 その姿は妖艶で淫靡で卑猥だった。殿はたまらずその身を自身に引き寄せた。


「大地之助、今日滝川からもらったもの…見てみるか?」

 性的に高まりつつある少年の耳元で囁きながら、殿は近くにある紙の包みを手に取る。

「……?」

 そういえば今日の昼間、殿だけ滝川さんて人に呼ばれたなぁ…殿も五代さんも、なんだかあの時妙にニヤニヤしてたっけ、と思い出した大地之助の前に、

殿は紙から取り出したものを突き出した。


「これ、なんだか分かるか?」

「!」

 それは半透明の薄茶色をした、棒の彫り物のようだった。

 よく見れば、いきり立った男根の形をしている。大地之助は真っ赤になった。


「これは張形と言って、べっ甲でできてあるそうだ。滝川が『大地之助殿との夜の営みの際、たまに趣向を変えて愉しんでみるのにいかがですか』と言って

くれたんだ」

 滝川が人払いし、殿と五代が含み笑いをしていた理由。そういうことかと合点がいった。


「名うての張形師が作った、一級品らしいぞ。どうだ、今晩さっそく…」

「やだっ」

 自分のいないところで、男たちがそんな話をして盛り上がっていたなんて。大地之助は恥ずかしくて、顔どころか首筋まで赤く染めている。


「…今日は私の言うことを聞いてくれるのではないのか?」

 この張形で大地之助の甘く乱れる姿が見られると期待していた殿は、あからさまにがっかりしていた。

 だが隙あらばどうにか…とも思っているらしく、ずい、と大地之助の目の前にその魔羅の形をしたおもちゃを呈してくる。


 それから逃れるように、大地之助は殿の胸に顔を伏せた。

「久しぶりだもん、そんなのイヤだ。殿がいいっ…」


 『殿がいいっ…』。

 羞恥のあまり、張形を直視できずにそう言いながら抱きついてくる少年に、殿は頭の芯がカーッと熱くなった。

「そうだな、私も…早く大地之助と繋がりたい」

 殿は大地之助を座布団に横たえて、その首筋に愛撫を開始する。

「あっ…ん、あぁん」

 胸の突起を指ではじかれ、そこがたちまち固くなる。殿はレロレロと耳の中に舌を這わせながら、先ほどから自己主張している褌の中の幼いおちんちんに

手を伸ばした。

「くんっ!」

 仔犬のように可愛い声を上げる大地之助を、さらに悦ばせてやりたい。殿は褌を素早くほどいて、そこを口にふくんだ。


「ぁぁっ…!」

 包皮に舌を差し入れて、そこから少し覗いていた桃色の亀頭をぐるぐると優しく舐め上げる。

 大地之助はその強烈な快感に、たまらず腰を浮かせてしまった。

クっ、あん、あっん」

 頭上で切なげに歓喜の鳴き声を上げる大地之助に視線を移す。大地之助は快楽に濡れた瞳でこちらを見ていて、目が合った。

 殿は自分の行為を見せつけるように、舌を大きく出しておちんちん全体を口にふくんだ。


「ひぅう、んっ、んぁあっ」

 じゅぽじゅぽと音を立てて大地之助を貪る。

 大地之助はもう限界で、嬌声を上げながら小さく叫んだ。

「殿ォ、あっっ、イクっ、イッちゃうっ…!」

 ぴゅるるっと勢いよく、殿の口の中に射精した。殿は大地之助の精液を、喉を鳴らしながらうっとりと飲み干した。


 目を瞑り、ぐったりと動けないでいる大地之助の脚を開いて、殿は小さな蕾にもいたずらを試みる。

 両手の親指を菊門の両側にあてがい、左右に割り開いた。そこは儚げな桃色で、先ほどの尺八のせいでおちんちんから流れてきた唾液が付着しており、妖しく

光っていた。

 ヒクヒクとひとりでに蠢く様はまるで殿を誘っているようで、我慢できずに舌を伸ばした。


「ふぅっ…」

 熱くぬらぬらした舌が、絶頂を迎えたばかりの敏感な肉体に容赦なく這わされる。

 菊門のしわを全て丁寧になぞり上げられ、表がほぐれてきた頃、中に進入された。

「あぁっ、あ
、あっ」

 大地之助は背中をしならせて、殿の執拗な責め苦に耐えた。


 おちんちんはまた頭をもたげ始め、大地之助の快楽の昂りを物語っている。

 思う存分舐めつくして、殿はゆっくりと身を起こした。


「…大地之助、おいで」

 殿は大地之助を抱き寄せて、ひざの上にその身を抱え上げた。

 殿の魔羅は、大地之助が尺八した時よりも、さらに大きくはち切れそうになっている。


「……」

 大地之助は、殿と向かい合わせになって自分から魔羅にまたがった。

 唾液で濡れそぼった幼い菊門に、怒張しきった大人の男根をあてがう。殿は自身のそれを右手で支え、大地之助が挿入を試みることに手を貸してやった。


 大地之助が腰を落とす。

 ぐぬ…という、蕾が押し開かれる感覚。

「あっ」

 大地之助は殿の首の後ろに両腕を回して、ゆっくりと殿自身を迎え入れた。


「っっ…!!」

 亀頭がうずまり、菊門はその圧力のため鋭い痛みが走る。充分に濡らしたとはいえ、指で奥までほぐさずにいきなり大きなものを飲み込まされるのは、

大地之助にとって苦痛を伴うだろう。

 目の前の少年が眉根を寄せて苦悶の表情を見せるのを見て、殿は心配になった。


「は…大地之助、大丈夫か?」

 大地之助は言葉にならず、うん、とどうにか首を振って答えた。

 苦しくはあったが、殿と一つになりたいという一心で、腰を沈めていく。

「あっ、あう!〜ん
っ」

 この痛みの先に、紛うことなき官能があることを大地之助は知っている。

 その想いに後押しされ、いきり立った男根を半分ほど挿入して、大地之助はいったん停止した。

 どうにかすべてを収めたかったが、これ以上は自分一人では無理だった。

 その焦燥感と、ならず者たちに危うく犯されそうになった今日を思い出し、自分を包んでいるのは殿だと確かめるように、その存在を希った。

「殿ぉ、殿ォっ」

 切なげに抱きつかれて、殿は応えるようにその小さな身体を抱きしめ、座布団の上に横たえる。

 殿は大地之助を見つめ、その口唇を奪って魔羅を進めた。


「っ…あうん!」

 大きな抵抗感の中、殿自身が大地之助にキツく包まれていく。

「っ、大地之助…っ」


 愛しい愛しい、私の大地之助。

 突然現れた住職になど、絶対に渡すものか。


 殿はそう思い、大地之助を揺さぶった。

「〜はっ、あんっ、ひっぅうんっ」

 殿の魔羅は大地之助の敏感な部分を容赦なく刺激する。

 少し乱暴かもしれぬと思ったが、鑑導への嫉妬心から、貪るように大地之助を求めることを、殿は止められなかった。


 殿の手は大地之助の勃起した性器へと伸び、そこを強くこする。

「やっ、あぁっ、殿っ」

 大地之助が腕の中でのけぞる。その瞬間、大地之助の菊門がキツく締まった。

「あっ、出ちゃうっ!!」

「私も…大地之助…っっ!」

「んっ、殿っ!」

「っぅっ!!」

 大地之助は自身の白い腹部に射精した。

 殿も大地之助から魔羅を抜き、追いかけるように同じ部分に熱い思いを放った。


「ぁ…んん、ん…」

「はぁっ、はぁっ…」

 吐息を絡めながら、情事の後のけだるさに二人は身を任せた。


 目を瞑って快楽の余韻に浸る大地之助に、殿がそっと寄り添う。それに気づいて、大地之助は甘えた声で殿にすり寄った。

「殿ォ…」

 首に抱きつかれて、応えるようにその黒髪に口づける。


 こいつのこんな姿を見られるのは、この私だけだ。


 強烈な優越感と独占欲が、殿の中に芽生えた。


 大地之助は一日の疲れもあって、目を閉じたまま心地よい安心感に包まれている。

 殿は大地之助が落ち着いたのを見届けて、腕の中の愛しい存在をそっと抱きあげ、寝室に連れていった。

 そして優しく横たえ、二人は寄り添い合って眠りについた。